数日後、街では怪物祭の話題で持ちきりなわけだが、ブラムはいけない。何故なら、行ってモンスターに睨まれれば、それだけで大惨事だからだ。
そんなわけで、フィンに稽古をつけてもらっていた。もちろん、本物の武器では無く木の剣で。フィンが一本しか使わないのに対し、ブラムは二刀流だ。
正面から木の剣が振り下ろされ、ブラムは右に躱した。振り下ろした剣の軌道を右に切り返すフィン。それをしゃがんで躱すと、目の前に蹴りが飛んでくる。が、その蹴りを木刀でガードし、威力を殺しつつ後ろに転がって回避した。
フィンはそれを追撃、正面から剣で殴り掛かった。それでもガードするブラム。ガードした瞬間、フィンの拳が飛んできた。それが直撃、しかし後ろにぶっ飛ばされたのは木刀だけだ。
「!」
ブラムは持ち前のスピードを活かしてフィンの背後を取った。だが、フィンはすぐに後ろに突きを放ち、ブラムはギリギリ後ろにバク転しながら躱して距離を取った。
「……………」
「……………」
睨み合うこと数秒、フィンが口を開いた。
「反撃しろよ!」
「うえっ⁉︎」
言われて変な返事をしてしまった。
「む、無理ですよ!攻撃が激しくて……!」
「そんなことないよ。アレだけ落ち着いて捌いてたのに反撃できないわけないよ」
「落ち着いてないんですけど……結構テンパってましたよ」
「嘘つけ。なぁ、リヴェリア?」
フィンはずっと見てたリヴェリアに聞いた。
「そうだな。多少の焦りはあったかもしれんが、全部の攻撃を捌いていたしな」
「それは団長が手加減してくれたからですよ」
言いながらブラムはフィンを見た。
「まぁ全力でやったといえば嘘になるが、それは君も一緒だろう」
「へっ?いや僕は……」
「本当に反撃できなかったのか?」
「……………」
「まったく、お前から修行したいと言い出しておいて、全力を出さないなんて失礼じゃないか?」
「……だって、もし…もし何かの間違いで、怪我させちゃったら……」
「そんなこと、気にする必要ないよ。これは訓練だ。訓練に怪我は付き物だろう?」
「いや、僕がティオネさんに殺されます」
「……………」
「一理あるな」
リヴェリアが落ち着いて言った。
「じゃあ、なんで僕にお願いしてきたのさ」
「いえ、あの……お願いした時は気付かなかったんですよ。それで、その……始める前にリヴェリアさんが『お前が相手じゃあり得んだろうけど、フィンを怪我させてティオネに殺されんようにな』って……」
「お前の所為か!」
言われて目を逸らすリヴェリア。フィンは「はぁ……」と一息つくと改めて言った。
「大丈夫だよ。僕はこう見えても団長だよ。そんな簡単に怪我しないから」
「で、でも……」
「いいから、もしティオネが君に絡んでくるようなら僕が助けてあげるから」
「………本当ですか?」
「うん。約束する」
「じゃあ、行きますよ」
「来い」
ブラムは地面を蹴って、フィンに斬りかかった。
*
数時間後、ブラムが大の字になって中庭で倒れ込んでいた。
「フゥ……今日はこんな所だね」
「ハァ…ハァ…あ、ありがとうございました……」
「まだまだだね。もっと手数を増やさないと。リヴェリアはどう思う?」
「もう少し自分の速さを活かすべきだな。せっかくの武器を使わずに正面から殴り合っていては勝てるものも勝てんぞ」
「だってさ」
「わ、分かりました……ありがとうございます……」
「それで、この後はどうするんだい?」
「いや、今日はもう部屋で休みま……」
「ブラムー!いるー?」
「………………」
ティオナが中庭に現れて、思わずブラムは黙り込んだ。
「お、いたいた。デートしよ?」
「い、今なんて?」
「だからデート」
「え、ええええっ⁉︎」
顔を真っ赤にするブラム。心臓がバックンバックンいっていた。
「そ、それはつ、つつつまり……ぼ、僕とティオナさんがお出掛けするという意味ですか……?」
「うん。そだよ?」
「い、行きます!絶対行きます!」
「じゃ、いこっか?」
ティオナが手を差し出す。
「部屋で休むんじゃなかったのか?」
フィンとリヴェリアが半眼でブラムを見ていた。
「そんな事するわけないじゃないですか!寝言は寝てほざきやがってくたさい!」
「明日の特訓は今日の三倍な」
「……すみませんでした」
「じゃ、行くよブラム!」
「は、はい!」
ティオナに手を引かれてブラムは中庭を出て行った。
「………実際、どう思った?」
リヴェリアがフィンに聞いた。
「悪くないよ。こらからまだまだ伸びる。でも、優し過ぎる」
真剣な顔でフィンが言った。
「今まで、囮役ばかりやらせていたからかな。さっき、攻撃してきたときだって、そこで攻撃すれば有効打になる所は攻撃して来なかった」
「……それは、まずいな。もし仮に、対人戦になった時、相手を殺すくらいなら、自分が殺される何て事を考えかねない」
「うん。しかも、無意識的にね。だけど、もしその無意識の中の心の奥底の理性が切れた時、とんでもない奴が顔を出して来そうだよ」
「……………」
「大丈夫、その時は僕が止めるさ」
「………そうか」
フィンの一言に、リヴェリアは目を閉じた。
*
ブラムはティオナについて行って速攻で落胆した。ティオネとレフィーヤが待機してたからだ。
「……あの、ティオナさん。デートって言いましたよね?」
「うん。言ったよ?四人でデート」
その一言に思いっきり肩を落とすブラム。頭に「?」を乗せてるティオナにティオネが言った。
「あんた、えげつないわね」
「? 何が?」
「可哀想ですよブラムくんが」
レフィーヤに言われてティオナは「むむむっ」と唸る。そして、ピンと来たのか手を叩いたあと、言った。
「ああ、いやだってあたしとブラムが二人きりでお出掛けなんて、よっぽどの事がないとあり得ないよ!」
言われてガフッと血を吐き出すブラム。「うーわ……」とティオネもレフィーヤも割と本気で同情するようにブラムを見た。
「だ、大丈夫?」
ティオネが聞くが、ブラムから返事はない。
「………帰る」
「ち、ちょっとブラムくん!」
レフィーヤが手を伸ばしかけるが、ブラムはマジ泣きしながらファミリアの中に引き返した。
ティオネとレフィーヤがティオナをジト目で見た。
「な、何、何なのその目……何なのレフィーヤまで……」
「「謝ってこい」」
「レフィーヤ!口調!」
「「いいから行け」」
「は、はい!」
謝りに行った。
*
で、仲直りしてお出掛け。仲直り、というより、ブラムがリヴェリアとフィンとなぜかベートに全力で慰められている現場にノコノコ出て行って本気で怒られただけだけど。
「何処に行くんですか?」
「怪物祭」
「ええっ⁉︎僕そこ行けないんですけど!だ、だって僕がいると……」
「大丈夫。とりあえずはいこれ」
ティオナに渡されたのはガネーシャファミリアが付けてるようなマスクだった。着けた瞬間、爆笑するティオナ、ティオネ、あと少しクスッと笑うレフィーヤ。
「「ぷっははははははっ!」」
「なんで笑うんですか!ていうかこれ効果あるんですか⁉︎」
「さぁ?」
「あの、ティオナさんって僕のこと嫌いなんですか?」
ズゥーンと肩を落とす。だが、ティオナはきょとんと首を傾げて言った。
「? そんなことないよ」
「ならいいんですけど……」
「それよりどうする?早速見に行く?」
と、ティオネが口を挟んだ。
「そうだね。行こっか」
四人は怪物祭の観客席に向かった。
*
「やっぱりガネーシャのとこ、すごいなー。調教を簡単に成功させちゃって。あんなの真似できないや」
「そうですね。ただでさえ成功率は低いのに、こんな大舞台で……」
「華もあるわよね、一々。ただ調教するんじゃなくて、観客を魅せる動きをしてる。お金もとれるわ、これなら」
「本当にすごいですよね。僕も調教出来れば色々助かりそう……」
ティオナ、レフィーヤ、ティオネ、ブラムと呟いた。その時だ。
「おい、何してる!」
「へっ?」
ガネーシャファミリアの一人がブラムに声を掛けた。
「何一人だけこんな所でサボっているんだ!早く来い!」
「ええっ⁉︎い、いや……あの、僕……!」
「お前も手伝え!」
「ち、ちょっと〜!」
ブラムは誘拐されていった。
「…なんでブラムを?」
「あんたの渡した仮面の所為でしょうが!」