長谷川泰三は無職だ。
長谷川は元は入国管理局局長と言う身分で、出世街道を驀進していた
だが一時のテンションに身を任せ、皇国星のバカ皇子を殴り飛ばし、幕府から切腹を申し付けられた。
切腹するのが怖くて、夜逃げを使用としたら、妻が先に逃げていた。
そして、彼に残った者はグラサンとマダオと言う名だった。
まるでダメなオッサン、まるでダメな夫、略してマダオ。
長谷川は、その名を今の自分にはお似合いだと言い、一人涙を流していた。
そんな色々な物を失った彼だったが、代わりに手に入れたものもある。
「よぉ、まだ来てたのか。どーよ、今日は出てる?」
「銀兄、言っとくけど三千円までだからね。それ以上はダメだよ」
妙な双子のツレだった。
「そーか、また面接ダメだったのか」
「ああ、全滅さ」
「就職に拘るからダメなんじゃない?この際、バイトでもいいから面接したら?」
「バイトの面接も全滅だよ」
パチンコ屋を出た三人は、昼間からでもやってるおでん屋に行き、飲んでいた。
「どいつここいつもグラサン取れってよ。グラサンは顔の一部だぜ。取れるわけねーじゃねーか」
長谷川がそう言うと、長谷川は銀時と眞銀の二人に殴られた。
「バカヤロー、なんでもグラサンの所為にしてんじゃねーぞ」
「そんなの大学受験に失敗した受験生が、合格した受験生を逆恨みするのと一緒だよ。そんなことして何か変わるの?」
「いや、グラサン取ればいい話だろ」
おでん屋の主人に正論を言われるが、それをスルーし、話を続ける。
「へっ……グラサンではなく俺に変われと?この歳で今更に俺が変われると思ってんのかよ」
「長谷川さん、信念持って生きるのも結構だけど……そんなもんの所為で身動き取れなくなるなら、一遍曲がってみるのも手なんじゃない?真っ直ぐ生きてるより、曲がりくねった方が、案外道が開けることもあるんだよ」
「そうそう。そうしてる内に絶対譲れねぇ一本の芯みてーなもんも見えてくんじゃねーか?」
銀時と眞銀はそう言い、席に座り直す。
「……もういい座れよ。オイ、親父。コイツにおふくろの味的なものを」
「いや、わかんねーよ!」
「おふくろの味っつたらダイジェスティブビスケットに決まってんだろーが!」
「もしくはスペアリブだよ!」
「お前らの母ちゃん何人!?」
「長谷川泰三です。よろしくお願いしまーす」
とうとう、長谷川はグラサンも失った。
「長谷川さんは、以前はどんな仕事を?」
「地球を守る為に悪い宇宙人と戦ってました」
「アッハハハ、面白いね~………採用!」
グラサンを失ったことで長谷川は再就職することが出来た。
長谷川SIDE
俺が再就職したのはタクシー会社だった。
若造の言いなりになるのは癪だったが、人間ってのは年齢云々じゃない。
自分より短い人生でずっと多くの事を感じ生きている人間もいるってことだ。
「お客さん、どちらまで?」
「お客さんじゃない!隊長とお呼びしろ!」
「やめろお前ら。運転手さん、すまない。文化センターまで頼む」
「は、はい、隊長……あれ?隊長、どっかで見たことあるような…………」
「早くしろよ!お通ちゃんのライブ始まっちゃうだろ!」
「は、はい、隊長」
「隊長じゃない!俺は軍曹だ!」
人を運ぶ仕事をやってるとつくづく思う。
目的地があるってのはいいもんだ
「エステ“黄泉返り”まで」*スナック経営者
色んな客を乗せたが
「かぶき町まで」*ホステス
どいつここいつも目に濁りがねぇ。
「かぶき街まで」*ゴリラ
オッサンが目的地を見失っちまった。
「日本の夜明けまで」*攘夷志士
オッサンはこれからどーなるのだろう?
「あそこで煙草吸ってるふてぶてしい男がいるだろ?あれ、死なない程度に撥ねてくれぃ」*公務員
オッサンはこれからどーなるのだろう?
「後ろから全力疾走してくる煙草吸った男から逃げてください」*公務員(女)
オッサンは……オッサンは……オッサンはァァァ……………
「どこでもいいからよ~乗せてってくれや」
「熱海までとか言わなから適当に回って~」
…………いた。
俺と同じ迷い子が
「暇なんだよ~タダで連れ回してくれや」
「ふざけんなよテメー。こっちは仕事でやってんだよ!」
「別にいいじゃん。なんか無性に地平線の向こう側へ行ってみたいんだ」
「テメーは彼女か!」
「彼女じゃないけど、あたし的には暁の水平線に勝利を刻みたい」
「テメーに至ってはタクシー関係ねぇ!艦○れでもやってろ!」
結局長谷川は、銀時と眞銀の二人を乗せ、車を走らせる。
「どーよ、仕事の方は?」
「順調?」
「てめーらが来るまで順調そのものだったよ。てか、菓子食うな。シートが汚れる」
「こないだまでは死人みてーなツラしたやがったが、ちったァマシなツラになったじゃねぇーか」
「グラサンから伊達眼鏡にまで変えちゃって……中々良いイメチェンじゃん」
「………ほざけよ。何も変わっちゃいねー」
ハンドルを切り、長谷川は前を見つめながら言う。
「仕事変えただけで、グラサンから伊達眼鏡に変えただけで目的も何もねぇ、先なんて見えちゃいねーんだ」
「そんなもんだろ、皆。地べた這いずりながら探してりゃ、そのうち見つかるさ」
「そうそう。人生長いんだし、気長に探しなよ」
「いや、違うような気がする。だってこの小説で目が濁ってんの俺とお前ら双子だけだもん。あ、客だ。もう、お前ら降りろコノヤロー!」
二人に降りる様に言い、客の前で車を止める。
その客とはバカ皇子だった。
その直後、三人は慌てて隠れた。
「なんでアイツいんだ!なんでアイツいんだ!」
「車出せ早く!面倒事はごめんだ!」
「急がないとあのバカが車に!」
「動物園まで頼むぞ。急いでくりゃれ」
三人が騒いでる内に、バカ皇子は車の中に乗っていた。
「ん?お主ら三人、どこぞで会ったかの~?」
「……ありませんよ~、誰ですかあなた~?頭に卑猥な物付けちゃって」
「地球人なんてみんな醤油顔ですからね、みんな」
「醤油顔時々ソース顔だよ」
「じゃ、僕そろばん教室あるんで」
「あたしも日舞のお稽古あるんで」
「「おつかれーす」」
銀時と眞銀は適当な事を言って車を降りようとするが、二人の着物の裾を長谷川が掴む。
「待てェェェェ!!一人にしないでくれぇ!オッサンはね、寂しいと死んじゃうんだ!」
「ハムスターかテメーは!」
「オッサンが寂しいとか使うな!」
結局、手を離してくれなかった長谷川に根負けし、銀時と眞銀は車に再び乗った。
ちなみに眞銀は銀時の膝の上に居る。
「幸い、奴はまだ俺達に気付いちゃいねー。パッと送って、パッ帰ればバレねーよ」
「なら俺達を解放してくれ」
「ヤダ コワイ サミシイ」
「なんでそこだけ片言!?」
「まったくじぃの奴め。いい歳して免停とは。何故皇子たる余が汚いタクシーを使わねばならんのだ。のう、そこの白髪兄妹、手が空いてるなら世にサービスせい」
銀時と眞銀は後ろの席に移動し、バカ皇子にサービスをし始めた。
「いや、確かにサービスだけど………なんでよりによって洗髪と足つぼマッサージ?」
「社長さん、地球へは何しに?」
「社長じゃねーよ!」
「で、動物園には何をしに、部長さん?」
「おい、なんでワンランク下げた!アレだよ、アレ。急にパンダが見たくなっていだだだだ!目にシャンプー入ってるって!あと、足つぼ痛っ!お前らわざとだろ!」
「……やっぱおろせばよかったかも」
長谷川がそんなことを思っていると、突然目の前に男が現れる。
「うぉああああああ!!」
慌ててブレーキを踏み、何とか男を轢かずにすんだ。
「バババババカヤロー!あぶねーだろ!何考えてんだ!?」
「オッサン!助けてくれー!急用なんだ!乗せてくれ!」
「な、なんだよ!?」
「さち子が!さち子が急に産気づいちまったんだ!頼む、病院まで乗せてくれ!」
「ギャアアアアアア!」
妊婦が苦しんでる中、車の後部座席からも悲鳴が聞こえる。
「あ、ヤッベ。急に止まるから取れちまった」
「銀兄、取れたんじゃなくて捥げたんだよ」
「余の……余のチャームポイントが!どーしてくれんだ貴様!それがなかったら余はただの人間じゃん!係長じゃん!」
「大丈夫ですって。課長クラスには見えますから」
「そう言う問題じゃねーんだよ!」
「大丈夫だって、簡単に捥げるってことはきっと要らないもんなんだよ」
「その内生えて来るって」
「ちょ、いいかいお三人さん!」
言い合いをしてる三人に長谷川は声を掛け、止める。
「今にもガキが産まれそうな子がいるんだ!銀さん、眞銀ちゃん、この辺に産婦人科あるか?」
「ねーよ。戻らねーと」
「歩くと三十分はかかるね」
「ふざけるな!」
声を上げたのはバカ皇子だった。
「チャームポイントを捥がれた上に、引き返すだとぉ!?なめてんのか!こうなったら意地でもパンダを見るぞ!早く車を出せ!」
「パンダなんていつでも見れるでしょ。それよりこっちはこのままだと子供だけじゃない。母親の方も命の危険があるんだよ」
「知るかぁぁぁぁ!貴様らの様な下等で生意気な猿に情など湧くか!地球人の一人や二人どうなろうと、知ったことではない!余を誰だと思っておるのじゃ!」
今にも眞銀が特殊警棒で殴り掛かろうとしていたが、銀時が早くバカ皇子の顔を掴む。
「誰なんだよ?ただの課長だろーがよ」
「………止めねーか。皇子様になんてマネすんだテメーは。わかりました、皇子様。要はパンダが見れればいいんですよね。意外と近場にパンダいることに気付きました」
「何?本当か?どこじゃ?」
「明日、鑑で自分の顔を見てみろぉぉぉぉ!!」
「ぶべらっ!!」
長谷川は思いっきりバカ皇子の顔を殴り、バカ皇子は後部座席の窓を突き破って車外に飛ぶ。
長谷川は髪を弄り、伊達眼鏡を外す。
「おい、チンピラ夫婦。席開いたぞ。乗りな」
「オッサン!恩に着るぜ!」
「長谷川さんよ………アンタやっぱアレだな」
「伊達眼鏡より、グラサンの方が似合うね」
「……そーだろ」
自分の芯を通した長谷川の表情はとても清々しいものになっていた。
だが、仕事はまたクビになった。