ダンジョンとアイズと斬魄刀   作:もちもちもっちもち

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開戦

 夜のオラリオ。人気のない路地裏。

 クロとアイズが彼女と邂逅したのは、そんな場所だった。

 

 

「ああ、その眼。その魂。……やっぱりいいわ」

 

 

 陶然とした吐息を零しながら、彼女は紅潮した頬に掌を添える。

 

 

「数え切れないほどの魂。私の眷属達と比べても全く遜色のない、そんな至高の魂達。でも、内包された無数の魂達と混じり合ってもなお、貴方の魂は色褪せず、純然とした輝きを放っている」

 

 

 頬から首筋へ、そして起伏の富んだ肢体へと掌を這わせる。

 ぞっとするほどの色気を放つ仕草。同性のアイズでさえ、目を離すことができない。

 

 

「クロ。幾千の魂を従える王の器。私は貴方が欲しい。貴方の全てを、私は手にしたい」

 

 

 差し出された掌を一瞥することなく、クロは吐き捨てるように口を開く。

 

 

「クソビッチが。いい加減しつけぇんだよ」

 

 

 刹那、全身を刺すような無数の殺気がクロへと降りかかった。

 

 

「――起きろ≪紅姫≫! そして啼け!」

 

 

 殺意が質量を持って襲い掛かる前に、クロの刀と鞘に変化が訪れる。

 斬魄刀は鍔のない直刀へ。鞘から血が溢れ、目の前に壁を形作った。

 

 ――≪血霞の盾≫。

 

 だが、クロはアイズを抱えると、その場から即座に飛びのく。

 一瞬遅れ、≪血霞の盾≫が罅割れ、次の瞬間には音を立てて砕け散った。

 

 

「随分な挨拶だな≪頂点≫」

 

「ふん」

 

 

 先の女性が美の化身なら、彼女を守護するように立つのは武の化身。

 ガレス以上に屈強な身体。フィン以上に冷静な佇まい。ベート以上に鋭い眼光。リヴェリア以上の英知な瞳。オラリオでも極少数しか存在しないLv.6さえも超越した存在。

 迷宮都市オラリオの頂点、Lv.7のオッタル。二つ名は≪猛者≫。

 そして、オッタルが唯一忠誠を誓い守護する彼女こそ、ロキ・ファミリアと双璧を成すファミリアの主神、美の女神フレイヤ。

 壮観な光景を前に、アイズは息をのむ。

 

 

「勧誘に失敗した途端にこれかよ。最近の若者はキレやすいだの言われるが、あんたみたいなおっさんにだけは言われたくねぇな」

 

「…………」

 

 

 軽口を叩くクロだが、アイズには分かった。

 余裕なんて微塵もない。身の丈に匹敵する大剣を無言で構えるオッタルと対峙するクロは本気だった。開始早々に斬魄刀の能力を解放したことからもそれは伺える。

 

 

「今日はね、少し趣向を変えてみようと思うの」

 

 

 フレイヤの瞳が、ひたとアイズを見据える。

 

 

「ねぇ、クロ。その子がいるから? その子が貴方の魂を縛り付けているのね?」

 

 

 直後、あれだけ覚悟していたアイズは、再度陶然と魂を酔いしたせる。

 必死に抵抗しようと爪を立て、歯を食いしばるアイズは、次の瞬間に凍り付く。

 それは、美の女神が浮かべるべきではない感情。

 常にされる側である筈のフレイヤがアイズに向けたのは、嫉妬の感情だった。

 

 

「――なら、排除しなきゃ」

 

 

 殺到する無数の殺気。

 四方から襲い掛かってきた気配に、アイズは迷うことなく式を唱える。

 

 

目覚めよ(テンペスト)!」

 

 

 間一髪。

 一瞬の差で展開した風が襲撃者の得物を押し返す。

 クロと背中を合わせる形で、アイズは新たに現れた敵を睨みつけた。

 

 真っ黒な外套で全身を覆い隠す、彼らの数は四人。

 

 背丈は子供だが、だからと言って油断するなと、アイズの勘が警鐘を鳴らす。

 恐らくはフィンと同じ、小人族。滲み出す強者の気配は、彼のものと酷似していた。

 それぞれが剣、槌、槍、斧を構え、油断なくアイズを見据えている。

 今更だが、誘惑に負けてしまうからと約束の期日まで愛剣をロキに預けたことが悔やまれる。

 

 

「言っておくけど、逃げるのは得策とは言えないわ。フラれた女が自棄になってしまうのは世の常だもの。周囲へ当たり散らしても仕方がないわよね」

 

 

 物理的にも精神的にも、退路は断たれてしまった。

 

 

「アイズ、四人の方を任せていいか。時間を稼ぐだけでいい、いざとなったら逃げろ」

 

「……クロ」

 

「不満があんのなら後にしろ。大体、剣がねぇんだから仕方ねぇだろ」

 

 

 油断なく敵を見据えたまま、アイズは静かに告げる。

 

 

「あの人たち、倒してしまってもいい?」

 

 

 膨れ上がる四つの殺気。 

 対し、背中の相棒がにやりと口角を上げるのを感じた。

 

 

「そんだけ大口叩いたんだ。負けたら全力で笑ってやらぁ」

 

「クロこそ、助けが欲しくなったら言ってね」

 

「へっ、言ってろアイズ!」 

 

 

 クロは≪紅姫≫を振りかぶり。

 アイズは無手のまま、仮想の愛剣を想像し、刺突の構えを。

 

 

「剃刀紅姫!」

 

「リル・ラファーガ!」

 

 

 解き放たれた必殺技は、同時に開戦の狼煙となった。

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 月下を金糸が舞う。

 五人の影が夜の迷宮都市の空を舞い、飛び交い、激しく交差する。

 剣が、槌が、槍が、斧が、それぞれの武器が閃く。

 拳が、脚が、絶えず動き回る。

 

 

「風よ」

 

 

 突貫。

 付与魔法≪エアリアル≫を纏った状態でのダッシュ突き。

 正面の剣使い目掛けての攻撃に合わせて、左右の槌と槍使いが挟撃を仕掛ける。

 瞬時に攻撃から防御へと切り替え。

 独楽のように囲われた気流にそれぞれの武器が突き立て、受け流され。

 

 

「――ッ」

 

 

 一瞬遅れて上空から落下してくる斧の一撃。

 咄嗟に展開された頭上への(エアリアル)を食い破り、眼前に迫るそれを顔を背け躱す。

 紙一重の回避に安堵した意識の空白を、剣の刺突がつく。

 危ない。その思考が脳へ伝達する頃には、頬の薄皮を削った剣尖が眼前と通り過ぎた。

 間一髪に間に合った首反らし。

 だが、直後に感じたのは、先の攻撃全てを掛け合わせた警鐘だった。

 

 後方からの剣の斬り返し。

 左右からの槌と槍の挟撃。

 真下から迫る斧の一撃。

 

 反らせない。

 躱せない。

 受けきれない。

 

 

吹き荒れろ(テンペスト)!」

 

 

 なら、力技でねじ伏せろ。

 行使者の手を離れ、暴走した魔力が齎した事象は、人為的な爆風。

 指向性を持たぬ風が、襲い来る得物を強引に弾き飛ばす。

 

 

「くぅ……!」

 

 

 だが、今までアイズを守護していた(エアリアル)は、彼女へも牙を剥いた。

 いつもよりも早い、魔法行使のよる体への反動。

 一週間戦闘を行えなかったブランクは、思ったよりも大きいのかもしれない。

 軋むような痛みに顔を顰めるアイズにチャンスと思ったのか、四人は一気に畳みかけてきた。

 先程の波状攻撃か、それとも最後に繰り出された一斉攻撃か。

 冷静に次の行動を見極めようとして、

 

 

「――――ぇ」

 

 

 飛来してくる剣に思考が停止する。

 故に、足場にしていた屋根に足を滑らせ、回避できたのは幸運に過ぎない。

 そして、己の直観に従い、その場から飛び退いた場所を投擲された斧が通過する。

 武器を投げるなんて。

 だが、これで剣と斧使いは無手に――。

 そんな甘い思考は、パシッと何かを掴む乾いた音によって塗りつぶされる。

 偶然視界に入ったのは、投擲された斧を掴み、振りかぶる剣使いの姿だった。

 

 

吹き荒れ(テンペス)――」

 

 

 痛みに、詠唱式は途絶えた。

 残り香のような(エアリアル)の防壁によって刃は防げても、衝撃はアイズへと透過する。

 片腕の感覚が、骨の粉砕音の後に途絶え、灼熱の痛みが全身を駆け巡る。

 

 

「吹き飛べ」

 

 

 追撃のアッパースイング。

 投擲による武器交換、斧使いの放った剣の一撃により、アイズの体が宙を浮く。

 内臓を蹂躙する激痛に意識が遠退く。

 ぼやける視界が、こちらを仕留めようと追ってくる槌と槍使いの姿を捉えた。

 

 向こうは四人。

 恐らくは全員がLv.5。

 抜群の連携によってLv.6にすら匹敵する。

 対し、こちらは剣がない無手。

 だから、Lv.5(アイズ)では勝てない。

 時間を稼ぎさえしていれば、騒ぎで人が集まった。

 人目に触れれば、さすがに相手も追撃はしてない。

 初めから長期戦に臨んでいれば、勝てはせずとも負けもしなかった。

 

 無意識に湧きあがる言い訳。

 誰もが、アイズの敗北を当然だと捉えるだろう。

 それなのに、善戦よる引き分けを選ばず、空から垂れる糸のような勝利を掴み取ろうとした。

 何故、どうして、こんな馬鹿な真似を、

 

 

 ――あの人たち、倒してしまってもいい?

 

 

 そんなの、決まっているじゃないか。

 

 

 ――そんだけ大口叩いたんだ。負けたら全力で笑ってやらぁ。

 

 

 誓ったんだ。

 勝つって、宣言したんだ。

 他の誰でもない。

 

 

 ――へっ、言ってろアイズ!

 

 

 彼の傍にいれるように、置いて行かれないように、相応しくなれるように。

 守られるだけなんて嫌だ。今度は、私が彼を守ってあげるんだ。

 

 

「……誰でもない……ただ、私の……」

 

 

 だって、彼は私の相棒なんだから――。

 

 

「――私の、魂に――!!」

 

 

 だから、絶対に、勝つんだ。

 

 

「ああああああああああああああああああああっ!!」

 

 

 咆哮。

 内なる魔力の全てを爆発させる。

 

 

「エアリアル――!!」

 

 

 もし、戦闘中に剣が折れてしまったら。

 元々、アイズの剣術と魔法は武器の損傷が激しく、≪デスペレート≫を振るうまで、数え切れないほどの剣を駄目にしてきた。

 そんな時にクロに相談し、だったらと教わったもの。

 名を≪白打≫。高速戦闘を主とする、素手による体術。だが、素手ゆえに決定打に欠けた。

 だから、これからアイズが繰り出す技は、≪白打≫と≪エアリアル≫の合体スキル。

 

 

「限界出力――!!」

 

 

 想いに呼応するように、彼女の背中と両肩に烈風が集う。

 背中と肩を露出する衣服でなければ弾け飛んでいただろう、恐ろしいまでの風の密度。

 驚愕を張り付けた槌と槍使いが、今更のように回避行動へ移ろうとする。

 剣と斧使いも慌てて駆け寄ろうとする。

 だが、全ては手遅れだ。

 

 

 

 

「――――無窮瞬閧!!」

 

 

 

 

 振り抜かれる、風の拳。

 届く筈のない拳に、四人の襲撃者は瞬時に防御態勢をとる。

 刹那、拳から放出された風が、四人もろとも進行方向上全てを飲み込み、

 

 

「……あ」

 

 

 ついでに無数の建物を薙ぎ払った。

 

 

「…………」

 

 

 弁償の二文字がアイズの脳裏を過る。

 いや、そもそもこんな街中でこのような大規模攻撃を放つなど、例え緊急事態だったとしても。

 ここいら一帯は廃墟で、住んでいる者は皆無の筈だが、廃教会という例外もあるのだ。

 それに、こんな無茶、ロキやリヴェリアに知られたら何と言われるか。

 あわあわと右往左往するアイズの額を、痛みとはまた別からくる汗が伝う。

 

 

 ――その時だった。

 

 

「死ね」

 

 

 勝負はまだ、ついていなかった。

 

 

「――――っ!?」

 

 

 剣と斧。

 知覚と同時に唱えようとした詠唱式は、口腔に留まり、掻き消える。

 ≪無窮瞬閧≫の反動。限界を超えた≪エアリアル≫の行使に体が悲鳴を上げたのだ。

 アイズの瞳は、≪死≫という形を持った二振りの得物を捉えた。

 

 走馬灯は、浮かんでこなかった。

 

 

 

 

「月牙天衝」

 

 

 

 

 その一撃は、アイズの≪死≫を両断する。

 突如発生した破壊の奔流は剣と斧使いを呑み込み、轟音とともに消えた。

 後に残ったのは、先の攻撃が残した爪痕と呆けるアイズ。

 そして、こちらに背を向けた、あまりにも見覚えのある後ろ姿。

 

 

「――よぉ。初めましてだな、≪王≫の相棒殿」

 

 

 だが、続く声は同じでも、彼が纏う雰囲気は全くの別人だった。

 

 

「≪具象化≫してまで俺を使い走らせるたぁ、あの野郎も過保護だねぇ。まっ、おかげで結果オーライだったわけなんだがよ」

 

 

 柄もない、鍔もない。唯一あるのは、研ぎ澄まされた大刀のみ。

 男の武器は、刀としての体をなしていなかった。

 まるで、鍛冶場から鍛え上げた刀をそのまま持ち出したような、未完の得物。

 だが、異形の大刀以上の異常から、アイズは言葉を失ってしまう。

 

 反転。

 

 白い髪。白い着物。

 容姿や声音こそ瓜二つだが、大刀を担ぐ男は、クロが白黒反転した姿形をしていた。

 

 

「……あなたは、だれ?」

 

 

 アイズの問いかけに、男はクロよりもさらに好戦的な笑みで応える。

 

 

「クロであってクロじゃねぇ。だが、まっ、そうさな……≪シロ≫とでも呼んでくれや」

 

 

 クロと瓜二つの男――シロはそう言いながら歩み寄ってくる。

 自然、身構えてしまうが、それが中途半端な形になってしまうのは、シロの見た目がクロと同じせいだからなのか。

 

 

「おいおい、せっかく助けてやったのに、お礼の一つも言えねぇのか?」

 

「ぁ……ありがとう、ございます」

 

「いいぜ、気にすんな。弱者を守んのは当然のことだろうが」

 

 

 弱者。

 胸に突き刺さったその二文字が、アイズの思考を鈍らせる。

 手を伸ばせば触れられる距離まで近付くと、見上げるアイズをシロは見下ろす。

 シロの顔に浮かんでいるのは、相手を見下し切った、そんな笑みだった。

 

 

「大見栄張って、その結果がアレか? だとしたら無様だなぁおい。偶々相手が油断してるところに、放った大技が運よく当たって、それで勝ったんだと勝手に勘違いして油断した。良かったな、アイズ・ヴァレンシュタイン。俺が加勢に来てなきゃ、今頃おめぇは天に召されてただろうぜ」

 

 

 自然と俯くアイズの髪をシロが強引に掴み、無理矢理目を合わせさせられる。

 

 

「おめぇはクロの相棒に相応しくねぇ」

 

 

 クロとは異なる、反転したシロの瞳がアイズの双眸を射抜く。

 

 

「おめぇがクロの傍をチョロチョロしだしてからだ。あの野郎は弱くなった。いつまで経っても俺達を≪屈服≫しねぇのがいい証拠だ。俺達の≪王≫の牙を、おめぇが抜いちまったんだよ」

 

 

 苛立ち、そして憎悪。

 そのあまりの剣幕に、気付けば体が震えていた。

 視界が滲み、頬を雫が伝う。

 クロの容姿で、クロの声で、アイズが漠然と感じていた不安を、シロは容赦なく抉る。

 耳を塞ぐことも、目をそらすことも、凍り付いたように固まる体では叶わない。

 

 そんなアイズを解放したのは、偶然か皮肉か、彼女の不安の根源だった。

 

 破砕音。

 突如飛来してきた何かがアイズとシロの前に落下する。

 立ち上る粉塵を斬り払い、彼は悪態を吐きながら上を仰ぎ見た。

 

 

「我らが≪王≫の到着だ」

 

「……クロ」

 

 

 呼び掛けに応じず、クロは指先を上へと突きつける。

 

 

「縛道の七十九、≪九曜縛≫!」

 

 

 クロの指先が差す方向に、彼はいた。

 迷宮都市最強の冒険者、≪猛者≫オッタル。

 空中から仕掛けてくる強襲者に放たれたのは、高位の縛道。

 オッタルを囲う九つの黒玉。一つ一つが途方もない力を秘めたそれらを、彼は足場のない空中で強引に体を捻り、旋回することで回避。

 だが、崩れた体勢をクロは見逃さない。

 

 

「啼け! 縛り紅姫!」

 

 

 ≪紅姫≫の切っ先から射出される黒網。

 広範囲に展開された網を迎撃しようと、振りかぶったオッタルの大剣が接触する刹那。

 

 

「火遊紅姫! 数珠繋!」

 

 

 発火、そして爆裂。

 オッタルの安否すら確認せず、追撃の手を緩めない。

 

 

「滲み出す混濁の紋章!」

 

 

 それを耳にした時、アイズはクロの正気を疑った。

 

 

「不遜なる狂気の器! 湧きあがり、否定し、痺れ、瞬き、眠りを妨げる!」

 

 

 九十番台の破道。

 オラリオ最強の魔導士、リヴェリアの全力に匹敵する威力を秘めた、≪鬼道≫の真髄。

 決して一個人へ向けて放つ魔法ではない。

 

 

「爬行する鉄の王女! 絶えず自壊する泥の人形! 結合せよ! 反発せよ! 地に満ち、己の無力を知れ!」

 

 

 止めようとするが、同時にアイズは思う。

 やり過ぎだと考える一方で、足りないと考えるもう一人の自分に気付き、愕然とする。

 そして、≪紅姫≫の放った拘束爆撃の粉塵から無傷で現れた、破道の威力を知るアイズでさえ戦慄を禁じ得ない圧倒的な魔力を前にも揺るがないオッタルの双眸に、それは確信に近付く。

 

 

「――破道の九十、≪黒棺≫!!」

 

 

 空間が悲鳴を上げた。

 軋み、囲い、顕現した黒い長方体がオッタルを包み込む。

 

 

「があああああああああああああああああああっ!!」

 

 

 ≪猛者≫が吠え、直後に≪黒棺≫に一筋の亀裂が走る。

 

 

「なん……だと……!?」

 

 

 回避も、防御も、特別な手段を用いたわけでもないのに。

 真っ二つに両断された≪黒棺≫から、オッタルは何事もなかったかのように屋根へと降り立つ。

 

 

「……なにしやがった」

 

「斬った」

 

「……クソ脳筋がっ」

 

 

 苦虫を噛み潰すように吐き捨て、忌々しげにオッタルを睨み付ける。

 負けじとクロと交わされたオッタルの視線に、武人気質の彼には珍しい感情が宿る。

 まるで、遥かなる高みからこちらを見下ろすように。

 立ち上る強者の覇気が、燃えるような怒気と敵意と混じり合い、クロをひたと見つめた。

 

 

「先程はフレイヤ様に随分と生意気な口を利いたが……」

 

 

 嘲るように、オッタルは口元を歪めた。

 

 

「あまり強い言葉を遣うな、弱く見えるぞ」

 

「上等だ≪頂点≫……!!」

 

 

 夜は、更けていく。

 

 

 

 

 




アイズの服を見て≪瞬閧≫使えると思ったのは作者だけではないはず。
次回、≪猛者≫vs≪斬魄刀≫のガチバトル。


突然の報告。
気分転換に別の作品を執筆してみたんだ。

原作≪ToLOVEる≫
タイトル≪美柑と黒猫と金色の闇≫

本作と一緒に投稿したんで、興味のある方はご覧あれ。
そんなに長く続かないし、もう殆ど描き切ったので本作執筆への影響はほぼないぜい。
気分転換って本当に大切だと思った作者でした。
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