男女逆転あいえす   作:かのえ

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8 彼女は忘れていたようだ

 友人の非常識な行動に頬をひくつかせる千冬姉さん、いまにでもコンテナに飛び乗って束さんにアイアンクローをかましかねない勢いであったのだが、グラウンドで部活をしていたところの轟音に目を白黒させていた生徒に、何事かとグラウンドにやってきた人たちへの対応をしにこの場を離れた。

 ギャラリーは空から降ってきた謎人参、その近くにおいてあるコンテナ、そして上に乗る束さんへと順番に視線を向けていった。

 

「し、篠ノ之束……実在してたのか」

「誰だいま人を妖怪か何かのように扱ったやつ」

 

 誰かのつぶやきを拾った束さんは心外だよ、といった表情でコンテナの上から飛び降りる。いや、その高さは生身で飛び降りていい高さじゃないと思うのですが、やっぱり束さんも千冬姉さんと同類なんですかね。

 足が痺れたような素振りすら見せずにそのまま俺の方へと歩いてくる。久しぶりに見た生の彼女は箒を少し柔らかくして成長させたような可愛らしい大人の女性だった。が、多分間近で見たら肌とかボロボロで枝毛とかぴょんぴょん飛んでいると思うが。

 

「や、いっくんに箒ちゃん。学園生活はどうだい?」

「ええと、まあまあ? まだ一週間ですし」

「さっきまで上手くやれてると思ってたけれど姉さんのせいで一気に不安になってきた……」

 

 箒の不安になる気持ちもわかる。

 

「って、あれちーちゃんさっきまでそこいたよね?」

「この学園の教員だからこの騒ぎについて説明しに行ったんだが?」

 

 妹からの少し棘がはいった言葉にうぐぅ、と声を漏らした。だがすぐに取り繕って咳払い一つ、コンテナの中に入っているそれについて説明をはじめた。

 中身はIS、真っ白なそれの名前は『白式』。まだファーストシフトができていないためにこの姿はまだ仮の状態。だが、ISのブラックボックスについて全て知り尽くしている彼女はこれにどういった能力が発現するのかをすでに知っていた。

 

「ワンオフアビリティは『零落白夜』。ちーちゃんのISだった『暮桜』と同じ能力さ。説明は不要でしょう?」

「は、はあ……」

「この機体には箒ちゃんの『紅椿』によって得たデータを流用してるから3.5世代ってところかな? どうせいっくんは剣以外使わないでしょ? 拡張領域に無駄なの入れるより高性能な剣一本でいいよね?」

 

 何も言ってないけど俺の考えていることはお見通しといった感じだ。確かに剣以外に使うつもりはないし、姉弟子である千冬姉さんが長くISに乗って行き着いた武器と同じであればそれはつまり俺の手に一番合ったもの。これ以上を求めることはない。

 

「はいはいじゃあ最適化とデータ取りするからこっちきて。あ、箒ちゃんも『紅椿』出しといてよ『絢爛舞踏』の調整もするから」

 

 テキパキと作業を進めていく束さん。確かに誰よりも優れた科学者であることは確かなので素直に従って彼女の言うとおりの行動をする。束さん直々に俺専用に作られた機体だからか、乗った瞬間から『打鉄』との違いが強く感じられた。

 これは俺の手足だ、体の一部だと思えるほどに気持よく動かせる。全身に少しだけ動きづらさを感じていたところも束さんの手によって瞬時に解決される。三十分もしないうちにすべての作業が終わり、そしてファーストシフトか完了した。

 

「これで『白式』は君以外を受け付けない。君だけの力だ」

「ふん、これは『雪片』か束?」

「あ、最近いっくんのご飯が食べられなくて凹んでたら一緒のベッドでええええええええええええ! 痛い痛い!」

 

 束さんの頭からミシミシと聞こえてはいけないはずの音か聞こえる。彼女の頭部をガッとつかんで持ち上げたのはほかでもない千冬姉さんだった。どうやら学園への説明が終わったようだ、お疲れ様。

 

「え、織斑先生……え?」

「羨ましい。美少年の弟と同じベッドで寝るなんて妬ましい! というか仲良すぎ、弟と交換して!」

「私の妹はいま学園にいないのに! 織斑先生ずるい!」

 

 周囲がざわつく。そして最後のひと、あなた生徒会長でしょうに。この事態に対応してくださいよ。

 

「姉の特権だ」

 

 そして千冬姉さんもドヤ顔するな。

 

「そうだ。箒ちゃん」

「……何です」

「お姉ちゃんと一緒に寝る?」

「いいです」

 

 細腕に持ち上げられた人間と家族と思われたくないのか、とてつもない塩対応を箒がする。わかる、わかるよその気持ち。この混沌空間からすごく逃げ出したい。わあわあぎゃあぎゃあと沈静化するまで時間がかかったが、ともかく。束さんが人参ロケットで飛び去っていった時に俺たちはとてつもない疲労感をその身に受けたのだった。

 あと束さん、ロケットの噴射で砂ものすごく巻き上がってたんだけど。

 

「その、なんです? お疲れ様でしたお二人とも」

「オルコットさんの優しさが身に沁みる」

「オルコット、私達の苦労を分かってくれるのか?」

 

 対戦相手にまで心配されるのだった。

 そして翌日、授業が終わり放課後。俺達の一組だけでなく他のクラスからも大勢人が詰め寄ってきていた。そこまで大事になるようなイベントだろうかこれは。まず最初にデモンストレーションも兼ねて同年代でトップレベルの実力を持つ箒とオルコットさんの試合が行う。

 

 それを聞いた時の箒の顔が忘れられない。

 

「あれ、私も試合をするのか?」

「箒だって推薦されてたじゃないか。ほら頑張ってこいよ、応援してる」

 

 ニッと笑って見送る。彼女は『紅椿』と共に飛び立っていった。

 俺も言わなかったけど箒と同じ気持ちだった、というかすっかり忘れていた。このあと俺も箒と戦うことになるとは思ってもおらず、毎日の練習も対オルコットさんばかり考えていた。しかしどうせこれだって付け焼き刃なのだし全力でぶつかるしかない。

 

 とりあえず二人の対戦からどう戦っていくのかを脳内で考えることとした。




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