男女逆転あいえす   作:かのえ

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10 箒はすごく頑張るいい子である

 剣道では負けを多くもらったが、もしIS勝負で同条件となれば話は別である。この世界、なんとまあ不思議な事で女子のほうが肉体的スペックが男子よりも高いのである。筋肉無いのに、インナーマッスルというやつだろうか。おそらく近くの大陸の三国時代など美女がドでかい獲物を振り回してたり軍師がはわわとでも言ってたのだろう。まあこれは前世的な記憶にあるゲームの事だが。

 

 ISは機械である。人間とは比べ物にならない出力は本人の筋力に関係なく発揮される。極端な言い方をすればそこにいる骨と皮だけになったおばあさんとピッチピチの我が姉が同じISを使っても出力は一切変わらない。故に、勝負を左右するのは本人の技量に寄る部分が大きい。その技量というものが厄介なもので、出力は同じなのに破壊力が異なるとかつまりどういうことだってばよ状態が多々ある。

 ISの実力に必要なのは搭乗時間とよく言われるが、厳密に言えば『身につけた身体能力をISにどれだけ反映させられるか』が実力差となって現れるのである。

 

 と箒が言ってた。ギュイーンとかバーンとか擬音を多用しつつ。

 

「くっ、やはり同条件なら厳しいな!」

「なにが同条件だ! そっちは武装を減らしてるだろうに!」

 

 鍔迫り合い、男のロマンである。夢にまで見た高速機動からの火花バチバチ。戦闘中に行われる噛み合ってそうで微妙にズレている会話。まるで自分が物語の登場人物になったかのようだ。

 

『一夏さん、戦いの中で成長していますわ!』

 

 オルコットさんは解説キャラ枠かなにかかな?

 まあしかし彼女の言うことは正しい、とどこか他人事のように考える。この体は顔だけでなく肉体的スペックも想像もつかないほどに高い。数度の反復練習で技術をあっという間に身につけてしまうなど、やっている自分が驚いてしまうほどだ。現に今やっているイグニッション・ブーストだって一週間やそこらで簡単にホイホイできる技術じゃないようだ。

 

「だからといって!」

 

 箒は俺のそういうところを嫌というほどに知っている。技術では俺にかなわないが、肉体的スペックでどうにか優っている状態だ。彼女はそれを自覚しているからこそ俺にISの実力とはどういうものかを口を酸っぱくして言った。何度も何度も、それはつまり

 

「私だって、力を磨いてきた!」

「――ッ、疾い!」

 

 俺が動くより先に、一足先に――零拍子か!

 急所への攻撃をガードする、だが彼女だってそれは織り込み済みだ。人間はギリギリ対応できる事象以上にはどうしても体に力がこもり動きが鈍くなってしまう。不意打ちからの俺にギリギリの回避を求める連撃。徐々に徐々にシールドエネルギーが削られていく。

 だがそれを黙って見ているわけにはいかない。俺は手に持った『雪片弐型』に力を込めて、そして光る。

 

 一瞬の煌めき、『零落白夜』の発動は瞬間的だったがごっそりとエネルギーを持って行かれた。まったく、束さんもほんとピーキーなものを寄越してくれる。けど、こういうのは嫌いじゃない。刃を掠めた箒のほうも俺以上にダメージを食らっている。さっきまでのあいつの猛攻とでイーブンか、それよりも俺が悪いか。

 

「なるほど、一日でそれほどまで使いこなせるようになったか」

「誰かさんの教えのおかげだ」

「う、嬉しいことを言ってくれるな……」

 

 照れたような声を上げる箒。アリーナからは彼女に罵倒が浴びせられる。イチャイチャするな、こっちは男日照りなんだぞ、部屋変われなどなど。

 

『皆さんが一夏さんを応援してくださってますわ……っ!』

「大丈夫? オルコットさんに良い耳鼻科を紹介しようか?」

『まあ! デートのお誘いですか、喜んで。夕方なら空いていますわ』

「あちゃ~、紹介するべきなのはあたまの病院かあ」

 

 しかしまあおふざけもこれが最後だ。箒がこの程度であるはずがない。あっちが俺に付き合ってくれているんだ、それは十二分に分かった。

 

「だから、本気で来てほしい」

「――承知した。オルコット、頼むぞ」

『承りましてよ』

 

 そして数分後、箒の勝利という形で試合が終了した。控室に戻るとオルコットさんが健闘を讃えてくれた。

 

「初心者ながらアッパレでした。そうですね、私も本気を出さなければ危ないですわね」

「だから言っただろ? 俺は守られるだけの男じゃないんだ」

 

 彼女は部屋を出ていき、そして入れ替わりに箒がやってきた。今回の敗北の原因は彼女の攻撃以上にやはり『零落白夜』によるダメージも大きかった。全力の本気を出した箒に食らいつくためにはラッキーパンチ狙いでもこれに頼るしか無かったからだ。実力差があるとは言え、あとで千冬姉さんに怒られるかなあと思いつつも、自傷ばかりだったおかげですぐ次の試合に行けることに喜ぶべきかと頭を切り替える。

 

「本当に燃費最悪だな、『打鉄』だったなら倍の時間は試合が続いていただろうに」

「でもそれじゃあ俺と機体が噛み合わないですぐ負けてた可能性だってある」

「そう、だな」

「なんだ、勝ったってのにあんま嬉しそうな顔じゃないな」

 

 どことなく目をそらす箒。どうしたのだろうかと思いつつお腹のあたりのスーツをつまむ。ぴっちりスーツだからか蒸れるかなあ、と思ってたら意外や意外そうではない。搭乗者保護の観点からも何かしら機能があるらしいしなるほど近未来万能スーツか。どこにそんな技術が詰め込まれているのだろう。

 

「というかそろそろ時間だ、準備しなきゃ」

「あ、ああ。その一夏、体を冷やすといけないから上着を着たほうがいいと思うのだが……」

「なるほどだから箒は服を羽織ってるのか。けどこれ高性能で寒くないしむしろ暖かいというか。箒って実は寒がり?」

「いやそうじゃなくて……」

 

 なんとなく歯切れの悪い箒だった。顔もちょっと赤いしもしかして風邪気味なのだろうか、夜に生姜湯でも作ってあげよう。なんだかんだずっと付き合ってもらってたしね。

 とりあえず次の試合に向けて俺はよし、と気合を入れなおした。




2/7記
244さん、しゃのあさん、誤字報告ありがとうございます。
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