「転入生って?」
「ああ! なんかこんな時期に中国からだそうだ。一体誰なんだろうなあまったく想像もつかないなあ誰なんだろうなあ」
「……箒?」
「ん? 私は転入生のことなんてこれっぽっちも知らないぞ。でもきっと貧乳ツインテなんだろうなあ」
朝、なんか転入生の話題で教室が盛り上がっていたのだがどこか箒の様子がおかしい。
「なになに転入生の話?」
「知ってるよ、確か中国の代表候補生だって」
俺らが転入生について話していると近くにいた女の子たちが寄ってくる。いったいどんなのが転入してくるのかみんな気になるようだ。
だが、中国の代表候補生でかつ箒の様子がおかしくなる、となるとなんか一気に誰が転入してくるのか分かってしまった気がする。俺の予想が正しければおそらくずっとつるんでいた――
「誰が貧乳ツインテだって牛(うし)乳デカ女!」
「リン!なぜリンがここに……逃げたのか? 動物園の檻から自力で脱出を!」
「誰がパンダだ!」
バチコーン、とどこからか取り出した鈴のハリセンが箒の頭に。やっぱり鈴だった。
凰鈴音、中国人であり箒が要人警護なんとかで俺の住む街から遠くに行ってしまった頃に出会った幼なじみで親友である。つまりセカンド幼なじみ。
日本語があやしくていじめられていたところを、精神年齢的なおじさん心でお話したりしてから仲良くなった。活発でツインテールが似合う美少女である。
「久しぶり一夏、その元気にしてた?」
「元気元気。鈴こそどうなんだよ、連絡は取り合ってたとは言え顔合わせるのほんと久しぶりだな」
「もちろん万全よ。代表候補生は体が資本、具合悪くなんてなってられないわ」
実はこの目の前の少女は代表候補生である。日本にいる間まったくISについて触っていなかったのに、中国に帰ってから一年たたずに代表候補生にまで上り詰めるという怪獣だ。怪獣ツインテールだ。これが稀代の天才というやつだろうか。
「え、この子って噂の乳を持って行かれて才能を手に入れたっていうあの鳳さん!?」
「乳と等価交換したって!? 畜生あたしは交換できる乳持ってねえ!!」
「外野! 誰がナイチチまな板だって!?」
うがー! と吠える鈴。うんうん、やっぱり鈴は鈴だなあ。昔と変わらずみんなからの人気者。見ていて元気になるし自然に笑顔になる。その内容はなんというかアレで聞いているとちょっと気まずいものがあるけれど。
みんな乳がないというけれどもじゃれあっているし前世で言う男の身長みたいなものなのだろうか、そこらへんの感覚がいまいちよく分からない。
「同じ鈴でも五十鈴はね、50になったら爆乳になったのよ。あたしにだって希望はある!」
「ほう。HRが始まるというのに他のクラスで騒いでいるやつが、そこまで生きていられると?」
あ、と思う日まもなく鈴は千冬姉さんにゴン、と叩かれた。ものすごく痛そうな音がなったし、どれだけの脳細胞が死滅したのだろうか想像もしたくない。頭を抑えて「おぉぉう……」と声にならない声を出しながら転がりまわっている鈴は、その、パンツが見えている。
「クラスに帰れ小娘」
「イエスマム!」
昔っから千冬姉さんに頭が上がらなかったからなあ鈴は。そんな彼女の姿を見て箒が笑いをこらえていた。「まだだ、まだ笑うな」といった表情になっていて周囲の女子が少し引いている。俺も若干引いた。
授業が始まり時刻は昼過ぎ、昼休みの時間である。休み時間の間に鈴と俺達の関係を聞いたオルコットさんは実際に会って話してみたいと俺らに願い出て、共に昼飯を食うことになった。
「この愉快な方が中国の代表候補生の、あのファンさんなのですね?」
「ああ。非常に、非常に納得の行かないが天才という評価を受けている凰鈴音その人だ。まあ、ヘタレだ」
「誰がヘタレだってむっつりスケベ!」
「誰がどう見てもヘタレだろう貧乳ツインテ!」
ムムムと睨み合う二人。昔からの間柄をしらない周囲の人間はおろおろとしているが、見慣れた光景であるのでむしろ仲がいいなあと微笑ましく見ている。
「えっと、どういう関係なのでしょうか」
「箒が昔同じ小学校に通っていたって言っただろう? 箒が転校していってから転入したのが鈴さ。まず俺が仲良くなって、俺の剣道の試合を見に来た鈴に箒がつっかかってからの間柄。幼なじみだよ俺たちは」
そう言うと睨み合っていた二人がオルコットさんを向く。
「ヘタレと幼なじみではないぞオルコット」
「スケベと一緒にしないでちょうだい」
同時に同じようなことを言って、言葉が被ったとまた睨み合う。ほんと、仲がいいなあ。
「なるほど、これが日本に伝わる喧嘩した後川べりで語り合うような関係なのですね!」
「あー、うん? まあそんな感じでいいよ、たぶん」
とりあえず食べ物が冷めてしまうので席に座らせる。隣で座らせたからか体が少しあたるたびに互いをつねり合っている。そんな姿を見てオルコットさんがコクコクと頷いている。分かるよ分かる、美少女が仲良くしているのは本当に目の保養だ。
「聞いたけど一夏がクラス代表なんだって?」
「そうだな。どうした?」
「いや、あたしが二組のクラス代表になったから。もし戦うことがあったら胸貸したげるわよ」
「ふん、一夏ならお前くらいギッタンギッタンにしてくれる。あと貸す胸ないだろう」
なるほど鈴がクラス代表なのか。クラス対抗戦が近々あり、それで優勝すればデザートなどのフリーパスだそうで。食べ物も大盛りにできると聞いたよく食べる女の子たちから頑張れとの熱い応援を頂いている。
が、相手が鈴となると厳しいというか対オルコットさんや箒並の無理ゲーだろう。指定強化選手にパンピーの高校生が挑むようなものだ。非常に申し訳ないけれどもフリーパスは諦めて欲しい。
「一夏」
「どうした箒」
「特訓だ!」
何故か燃え上がった箒に困惑する。
「あんたはお払い箱よ。一夏の特訓はあたしがするわ」
「誰がさせるか。特訓と称してやらしいことをするつもりだろう」
「……はぁ~ん? アンタそういうことを考えていたのね。さすがむっつり」
「なんだと!」
仲良くじゃれあっている二人を見ていたが、そろそろ時間だ。オルコットさんに視線をやると彼女もこちらを見ていた。互いに置いていこう、とアイコンタクトで会話をしてすっと立ち上がり食堂を出る。
数分後、千冬姉さんに叩かれて沈む女生徒が二人出たのだが、いったい誰なんだろうなあ俺は知らない。