男女逆転あいえす   作:かのえ

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2 ブリュンヒルデの収入は想像を超える

 プリプリ怒りながら教室に戻る箒を背後に感じながら俺は廊下を急ぐ。途中すれ違う女生徒たちがこっちを見てくるのだがそれに構うこと無く教室に滑り込んだ。俺らがここを出た時よりかは穏やかな空気になっており、何人かは集まって会話をしていたようだ。女子のコミュ力はあっちの世界もこっちの世界も大差無いんだなあと何度も思う。

 俺がドアをくぐった瞬間にこちらへ視線が殺到した、そして背後の箒にもだ。そしてチャイムが鳴って全員座席に戻る。

 

 次の授業も難しく、山田先生に分からないところがないか聞かれた時にごまかすように大丈夫と言ってしまった。いかんせん前提知識が無いのだから他の生徒とスタートラインからして違う、俺一人のせいで授業が遅れてしまうなんて申し訳ないし大丈夫としか言えなかったのだ。

 俺をじとっとした目で見てきた千冬姉さんは俺がなにを思っていたのか気付いているようで苦笑をするしか無かった。

 

 そして休み時間となる。これから毎日毎日通常科目以外でこんな気苦労をしなければいけないのかと早々に家に帰りたくなってきたのだが、そんなことをして困るのは自分なのだから諦めるしか無い。それに努力なしに高倍率な学校に入ってしまったのだから努力して駄目だった女の子に申し訳ないというのもある。

 休み時間を一人で過ごすのもどうかと思い箒に話しかけに行くか、近くの席の子に話しかけるかで考えていたところ、机の上に影が差した。

 顔を上げるとそこには綺麗な金髪が目に入った。彼女はたしかイギリスの人だ。名前は確かオルコットさんで、代表候補生だかなんかだったと記憶している。

 

「ごきげんよう、今日はいい天気ですわね一夏さん」

「ああ、雲1つないいい天気だ。えっと、オルコットさんで……あってるかな?」

 

 視線を合わせる。金髪は綺麗にロールしていてその瞳は碧。日本人とは違った白い肌に良く映えている。

 

「まあ、名前を覚えてくださってたのですね!」

「海外の人だから印象に残ったんだ。それに代表候補生ってあれだ、エリートだ。すげえよ」

「おだててもなにも出ませんわ。それに、代表候補生とは言っても貴方のお姉さんに比べたら月とスッポン、今の地位にあぐらをかいてはいられません」

 

 なんていい子なんだ、遠回しに姉を褒められて嬉しくなってしまう。そうだ、千冬姉さんに頼るだけじゃなくて同級生に頼ってもいいじゃないか。そう、例えば目の前の彼女や『あの』篠ノ之束の妹である箒とか。

 

「授業の様子からしてあまり内容を理解していないみたいだったので……私で良ければお手伝いましょうか?」

「いいのか? いやあ助かる!」

「では放課後私と『二人っきり』でお勉強をしましょう。そうですね、図書館とかどうでしょうか。確かこの学校の図書館には個室が――」

 

 オルコットさんが喋っているちょうどその時だった、いきなり手が彼女の肩にぬっと伸びて俺の机から引き離される。その手の持ち主は眉をひそめながら俺に声をかけた。

 

「おい、やはりお前は無防備すぎるぞ」

「何ですの貴女は――って、篠ノ之箒さん」

「いきなり一夏を口説こうとして……どういうつもりだ! オルなんとか!」

 

 箒はオルコットさんの名前を覚えていないらしい。

 

「オルコットです! 彼のような美男子を前に口説かないのは無礼でしょう? 何か間違っていますか?」

「イタリアではそうだろうが日本人はそんなことしない!」

「イギリス人です!」

 

 箒は昔から人の話を聞かないからな。

 

「まあ箒、おちつけ。全くオルコットさんはただの善意で言ってるんだからそう勘ぐらないであげよう。な?」

「……お前は相変わらずか」

 

 まあ多少はオルコットさんにも下心はあるだろうが、けれども金髪美女と仲良くなれる機会なんてめったに無いんだし良いじゃないか。

 

「そう言えば箒さん」

「いきなり馴れ馴れしいなオルコ」

「オルコットです。私の国では名前呼びが普通なので……さておき、貴女と一夏さんは仲が良さそうですね? どういう関係なのでしょうか――といっても大体察しはつきますが」

 

 オルコットさんが俺と箒の関係を聞いてくる。前の休み時間に俺を連れ去っていった箒に対して興味が有るのか周囲の生徒も聞き耳を立てているようだ。彼女が察しが就いているのはおそらく俺らの姉同士の関係からだろう。

 世界一のIS乗りと誰もが知る織斑千冬、世界一の科学者と名高い篠ノ之束。彼女らは昔からの古い付き合いで、そして親友であるのは衆知の事実である。

 なぜ知られているのかというと千冬姉さんの自伝のせいだ。彼女の自伝『弟可愛さにブリュンヒルデになった』とかいうどこのラノベだと突っ込みたくなる本はベストセラーとなり印税でウハウハである。お買い求めはお近くの書店でどうぞ。

 

「ああ、私と一夏は幼馴染だ」

「なるほど幼いころは毎日のように一夏さんとお風呂に入ったというあの箒さんで間違いないですね?」

「黙れオルコート!」

「惜しい! オルコットです!!」

 

 自らの知らないところで昔の私生活が晒されてしまっていた俺と箒。そういえば千冬姉さんはISに乗る人の憧れだろうし本を買ってみんな俺らの過去を知っているんだろうなあと遠い目になりつつ、鳴ったチャイムが知らせる次の授業の合図にため息をつくのだった。

 授業が始まるなり千冬姉さんはこんなことを言った。

 

「そう言えばクラス代表者を決めなければな。選ばれた者はクラス全体の指標として立ってもらうことになる。自薦他薦問わず誰かいないか?」

 

 順当に行けばオルコットさんが選ばれそうなものだ。だが、自薦すると思っていたオルコットさんが挙手をする様子がないようで、しばらくたってから他薦でオルコットさんの名前が上げられた。すると立ち上がる音が聞こえる。

 

「推薦ありがとうございます、ですが私は辞退したいです」

「何故だ? お前なら誰も反対しないし認める。実際それだけの力量はあるはずだぞ主席」

 

 入学生代表挨拶をした彼女は主席として皆に知られているようだ。さっき箒が自分の席に戻る前にこっそり教えてくれた。そのために推薦されたのだろうかと考える。

 

「もともと力量のある私が代表になればクラス全体の指標になんてなれません。例えば……そうですね、全くの初心者で知識も薄い織斑一夏さんなんかがふさわしいのでは? 私達と同じスタートを切れていない彼が代表として他のクラスを打ち破る――そうすれば学年全体の成績が向上するのではなくって?」

「つまり一夏を推薦するということだな?」

「はい」

 

 これは大変なことになった。




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