「織斑先生、さすがにそれはどうかと思うんですが……」
「拒否権はない」
「薄々わかってた」
小声でそう言うしか無かった。あと露骨に悲しそうな顔をしないでほしい、今は授業中なんだから千冬姉さんなんて呼べないよ。
いまの彼女の顔を例えるならば捨てられた子犬だろうか。普段キリッとした表情をしているせいか余計にそういったように見えてしまう。こういうギャップも魅力だ。
「じゃあせめて推薦だけでも。俺は篠ノ之箒さんを推薦したいです」
「ふん、まあ妥当だな」
いきなり俺に名前を出された箒はびっくりした表情でこちらを見る。俺は彼女の方に顔を向けてサムズアップした。
箒を推薦したのは『あの』篠ノ之束の妹だからという理由ではない、彼女は特別なのだ。IS開発者が手がけた最新鋭の機体のデータ取りを任されているのである。クラス代表となればそれだけ技術がある人間と戦うことが増える、それはつまり今後のISという存在全てに対して利益となるはずだ。
「篠ノ之の事情は皆知っての通りだろう。確かにデータ取りをするとすればクラス代表はうってつけのポジションだ。ほかに推薦する奴は……いないな。ではこの中の三人から選びたいと思うのだが」
しばらく考えた後千冬姉さんは妙案を思いついたようだ。
「ではこうしよう。三人はそれぞれ現在の実力、将来性、データの収集という理由で推薦された。ならばそれがもっともよく分かる『試合』という形で見てもらい皆に投票してもらおうじゃないか。勝敗関係なく、より良いと思った人間に」
こうして俺は一週間後に箒とオルコットさんと試合をすることとなってしまったのだった。千冬姉さんはこのあとすぐに授業にうつった。さっきまでと同じように必死になってノートを取り、としていたらすぐに時間がすぎる。これは充実していると言って良いのだろうか、初日だからまだやる気があるけれども時間が経つにつれて嫌になってきそうだ。
とりあえずわからないところをまとめ終わり一息、視線だけ動かすと昼休みだというのに誰も動き出そうとする気配がない。どこか牽制しあっているようにも見えるが。
「一夏」
「一夏さん」
そして二人同時に話しかけられた。その二人、箒とオルコットさんを見るとなにやら視線で火花を散らしているように見える。
こうしてみると二人共対称的だよなあ、和風美人と洋風美人のテンプレートって感じがする。箒はともかくオルコットさんとも仲良くなれそうで、もし前の世界だったなら三人で歩いた光景など視線で殺されそうなほど羨ましがられるものになりそうだ。
とりあえず目の前で喧嘩されても困るし仲裁に入る。
「とりあえず食堂にでも行こう、な?」
「む、いいだろう」
「ではエスコートいたしますわ、王子様。さ、お手を拝借」
オルコットさんは優雅に右手をこちらに差し出しふわりと微笑んで首をほんの少しだけ傾ける。おお、実に様になっているな、と思いつつ彼女の手を取り立ち上がる。
「ああもう一夏! オルコットもやめろ!」
「名前を覚えていただき光栄ですわ」
「いやあ、よかったな箒。友達の名前を覚えられて」
「誰が友達だ!」
なんだかんだで箒はオルコットさんと仲良くやっていけそうに見える。ちっこかった頃から面倒を見ていたせいか、どうしても妹の成長を見守るような心持ちになってしまう。現在は価値観の違いのせいで面倒を見られているような気がしないでもないが。
そんなこんなで食堂へ。まさに両手に花というやつだ、しかもふたりとも美人さんだし気分が良くならないわけがない。
たどりつくと学生殆どが使用するだけあってもう混んでいた。うん、どこを見ても女の子ばかりで不思議な気持ちになってしまう。それを振り払いどこか座れるところがないかなと探していれば、調度良く三人分の席が見つかった。オルコットさんに促されるまま真ん中の座席を取る。
真正面には見知らぬ上級生の人、相席してなにもないのも気まずいので挨拶をしておこう。
「こんにちは、先輩」
「うえっ!? あ、ど、どうもこちらこそ……」
彼女の食べてる焼肉定食が美味しそうだったのでとりあえずそれを頼もうと思う。券売機まで三人で移動するのだが、一歩ごとにこっちをたくさんの視線が向いているような気がしてならない。なんかこう見られていると身だしなみがきちんとできていただろうかと心配になってしまうのは俺だけだろうか。
「なあ箒、すっごいつらくなってきたんだけど」
「同感だ」
これから毎日こうなのだとしたら、ここを使用しないことを検討するべきなのかもしれない。しばらくして食事を手にした俺達は座席に戻り食べ始める。
「にしても来週戦う三人が一緒にごはん食べるってどうなんだよ」
「べつに良いのでは無いでしょうか? いがみ合っているわけでもないので」
「私たちはいつもどおりで良いのだが……一夏は違うだろう?」
まず操縦の基礎の基礎から学ばないといけないから一週間でどうこうなる気がしない。が、俺だってオトコノコなのだ、ロボットには熱い浪漫を感じてしまう。しかしながらこれを分かってくれる今世の男子はあまりいないのだけれども。ここでも世界の違いを感じ取ってしまう。ロボットを好きなのが女子で、俺みたいなのはごく少数な。
ちなみに日曜八時半からは魔法少年シリーズをやっている。どういう……ことだ……! それを見る大きいお友達はやはり女性である。
どうでもいい情報に話が逸れたがとにかく、ロボは男の浪漫だ、魂だ。こんな素敵なものを渡されて喜ばないわけがないのだ、束さんほんといい発明をしてくれたよ貴女は。
「クラス代表とか関係なく、俺は頑張るつもりだ」
「安心してください、万が一はありません。ケガが無いようにいたしますから」
だからこそ、オルコットさんのこの言葉に反発をせざるを得ない。
「手を抜くというのか? ロボは……ISはあんたの魂じゃないのか。それに乗って手を抜くなど、ISに失礼じゃないか」
「確かに私のブルー・ティアーズは誇りで魂。ですが、守るべき男性に銃口を向けられませんわ」
「俺は……守られるだけの男でいたくない。千冬姉さんが安心できるように、強くならなきゃいけないんだ」
前言撤回。俺はオルコットさんの手を借りない、そして絶対に倒す。倒してみせる。
「ふふ、そういう気の強さ。本気で惚れそうになってしまいます。良いでしょう、貴方の全力を私の本気で迎えましょう! 一週間後を楽しみにしていますわ!」
あ、このサラダ美味しい。啖呵を切った後オルコットさんはそう言った。うん、この食堂は当たりだなあ。
全く締まらない昼の一幕であった。