放課後、俺は箒と一緒に寮へと移動する。千冬姉さんに箒と一緒の部屋にすると伝えたところ「そ、そうか」とものすごく動揺した表情を見せてくれた。いままでずっと一緒に暮らしてきたため、千冬姉さんは初の一人暮らしである。
一時期事情があって彼女がドイツに行ってた時は俺も短期留学という形で一緒にくっついていった。身内なんてものが千冬姉さん以外にいないし、あと海外での生活というものに興味があったからだ。ドイツと言ってもISが世に広まってからは日本語もある程度通じるようになっていてそこまで不自由しなかった。それに同年代のちっこい女の子が街に出るときにはくっついてきてくれていたし。
軍人だからなあ、IS学園に来てないのはとても残念だ。
と、以上のことを箒に話してみた。
「……現地妻か何かか?」
「ちげーよ!」
箒は一体俺を何だと思っているのか。
「千冬さんはその……やはりアレなのか」
「俺が掃除しないと部屋は確実に魔窟になる。ホントこれを機に自分で掃除するということを覚えてほしいな」
「あの人の唯一の欠点だな」
千冬姉さんは致命的に整理整頓をしない。一人暮らしなら空き缶を万年床のそばにいくつも散乱させ脱いだ衣類は床に、そのためスーツが私服になる。間違いない。修学旅行とかで家を離れた数日でも酷い有様だったし少しは考えなおしてもらいたい。
彼女が一人暮らしできるようにするにはどうすればいいのか、二人で話していたら部屋につく。開けると結構な広さだった、二人以上でも余裕で過ごせそうだ。
「シャワーも完備か。すげえな」
「それくらい入学案内のパンフレットに――ああそうか、お前はそうだったな」
首をかしげてすぐに思い当たる。入学試験を受けるとなればその前に学校紹介のパンフレットやらを触る機会があるのだろうが、俺は気がついたらここに通うようになっていたしそれを見たことすら無い。一応大風呂があるらしいのだが女子専用となっている。そもそも男が入り込んで生活するようなことを想定されていない学校だから仕方がないか。
2つのベッドのうちどちらを使うのか決めてから運び込まれている荷物を整理する。鼻歌交じりで衣類を出していたら箒がこっちをガン見して硬直、どうしたのかしばらくわからなかったのだけれどもすぐに合点がいった。
「あ、ごめん箒。男の下着とか見たくもないよな」
「いい加減にその無防備さをどうにかしろ一夏!」
ベッドの上で正座させられた。床でさせないあたり箒のちょっぴりの優しさが見て取れた。ううむ、これシャワーつかってから上裸で歩いてたら一時間説教コースだろうか、注意しないとな。
説教が終わり荷解きもある程度、といったところで夕食でも食べようかという時間になる。制服からすこしゆるい服に着替えた俺達は食堂に向かう。大体自分が料理していたからこう、この時間に台所に立っていないのが不思議でならない。そう言えば洗濯もコインランドリーみたいなのがあるとか。これは今まで家事に使っていた時間を勉強に充てられるということか。
基礎科目は前世知識のお陰か成績は良いはずだ。ただ社会科目と理科目は世界と時代の違いを大きく受けてまあまあ勉強の必要があった。歴史の偉人の名前がほとんど知らないんだけどそこが本当につらい。何かの事例を過去の出来事に当てはめて言いたい時とか本当につらい。
お昼は全員休み時間だからかかなり人が集まっていたけれど、今はそうでないからかそこそこにしか人がいない。けれども注目されるのは変わりなかった
「わ、男の子の薄着はじめて見た」
「体のラインセクシーじゃない?」
俺は何も聞こえてませんよ? というかそう言うならば君たちもだろう。なんか目のやり場に困るというか、ブラつけてください突起が見えるんですけど。
「……これ着ろ」
箒が上着を貸してくれた。やっぱりどこまでがやっていい薄着の範囲なのかがいまいち分からない。彼女もあまり言い出せなかったのだろう、だってもし前世で薄着の女の子がいてもえっちい服装だからもうちょっと厚着しろ、なんて言えないね俺は。
「とりあえず練習用のISでも押さえるのがいいか」
「そうだな。一夏は私と同じように近接主体がやりやすいだろうし『打鉄』を使えるように手配するか」
「なーんか千冬姉さんがやらかしてすでに数機押さえ終わってそうな気が……」
「嫌な予感がするからこの話は終わりだ」
はいはいやめやめ。
「起きる時間はどうする? 起きてから運動したりするんだけど箒は大丈夫か?」
「ん、ああ私もだから気にするな。というか道場の時と同じ生活リズムを維持している」
「引っ越しても変わってないのか。箒らしいな」
箒は照れたようにはにかむ。束さんがやらかしてから篠ノ之一家はバラバラになった。要人警護だかなんだかのせいらしいのだが、彼女らの家族は笑って受け入れたらしい。「女たるもの人の道を外れないなら時に破天荒になるべきだ」とか言いながら。どこかおかしいよ。
そのせいで箒と会えるのは盆や年末年始、あとは剣道の大会くらいとなった。俺も彼女も自分で言うのもなんだが全国レベルなので、結構会う頻度は高かった。通称優勝カップルである。
「老後のことも考えて今のうちから健康的な生活リズムを維持していけたら良いな」
「おっさん臭いぞ」
「偉人になるには生活リズムの維持から、なんちゃって」
この後数分口を聞いてもらえなかった。なんで?