男女逆転あいえす   作:かのえ

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5 好きな子にいいとこ見せようとし空回りするやつ

 夕飯を食べ終わり部屋に戻る。シャワーを交互に浴びてから荷解きの続き。さすがにさっき怒られたばかりだから色々気をつけてやらかしはしなかった。自宅だと風呂あがりに自分も千冬姉さんも半裸で歩きまわることがたまにあるからなあ。

 

「よし、と。もうこんな時間か」

 

 時計を見れば十時を回っている。規則正しい生活のためにはそろそろ寝る準備をするべきだろう。ぐっと伸びてからストレッチをする。毎日欠かさず行っているためにぐにぐにだ。股割りだって余裕でできちゃう。ふと箒の方をみれば、スマホに視線を向けたまま微動だにしていない。

 体をかるく温める程度のストレッチを終えても彼女は同じ姿勢のままだった。なにやら真剣な表情だったので声をかけられないでいると俺に電話がかかってきた。

 スマホから流れてくるのは某暗黒卿のテーマ。自分ではこの曲を入れた記憶はないのだが、これが流れた理由にある程度察しが付き充電器を差しているスマホに手を伸ばす。予想通りかけてきているのは束さんだった。

 

「はい一夏ですこんばんは束さん。スマホにハッキングかけるのやめてもらえます?」

『おっはよーいっくん! いい朝だね!』

「こっちは夜だバカ姉」

 

 横から箒の低い声がする。どうやらこんな遅くの時間に電話をかけてきた常識のない姉について怒っているようだ。というかおはようと言ったか束さんは、この人今はどこにいるんだ一体。

 

「あ、箒。束さんから電話だよ。変わる?」

『ちょ今かけてきたばっか――』

「お前にかけてきたんだろう? それに話すこともない、私はいい」

『箒ちゃんにフラれた!!』

 

 その叫び声から脳裏にいかにも『わたし傷ついてますよ!』な表情をした束さんを幻視してしまう。なんともまあ声だけでなんでもかんでも分かりやすいことで。俺が知る限りこの人は大抵言動と感情が一致している。すぐ熱くなるし気がついたら冷めていたりする。ようするに感情のままに動くから人付き合いが致命的にアレなのだ。

 身内の色眼鏡があっても多少コミュ障気味の千冬姉さんですら怒りを隠して顔だけ笑うということができるというのに……全くこの人は。

 こんな性格だからISを一回発表したときに総スカン食らうんだ。

 

『電話したのは他でもない、いっくんの専用機のことなんだよ。ちーちゃんから聞いてるでしょ?』

「初耳です。というか俺に専用機……?」

『白式っていってまあそれはそれは君にふさわしいピーキーな仕様になってるから! あと箒ちゃんの紅椿と同時に運用すると最強だよ!』

「アッハイ」

 

 人の話を聞いちゃいねえ。とりあえず彼女のマシンガントークから概要を抽出すれば「すごいつよいIS作ったからあげるね! すごく使いづらいけどいっくんならいける! ファイト!」ってところか。

 まあまあ話を合わせていらない情報は聞き流し、わからない内容は頭上にはてなマークを浮かべ、そして一方的に

 

『じゃ、こんど学園に行くから待っててね私の王子様! さらばだ!』

 

 と切られた。うん、いつもの束さんだ。元気そうでなによりだうんうん良かった良かった。

 

「……すごく疲れた。寝るか」

「なんかその、すまん」

 

 色々疲れた俺は布団に潜り込んだ。別に束さんのことは嫌いじゃない、美人だし胸大きいし。けれどもどこか相手との距離感をつかめず空回りしているところが見てて可哀想である。自他共に認める深い付き合いの千冬姉さんと会話するときにはそこまで変では無いのだけれども、俺と話すときはいつもこうだ

 そんなことを考えているうちに意識が落ちていった。そして朝日が昇り部屋に日が差し込んだ瞬間に目覚めるのだった。

 

 着替えて顔を洗い、歯を磨く。髪を整えて外を走る準備が終わったところで箒が起きだしてくる。少し寝ぼけている彼女をじーっと観察していたら俺がいるというのに服を脱ぎ始めた。

 なるほどそうきたか、なんかとてもお胸さんがおっきくなってるし体つきもすごく魅力的なもので視線を外しながらもチラチラと見てしまう。おお、鍛えた少女の肉体美、眼福だ。と、彼女が着替え終わった瞬間に起きていた俺に気がつく。

 

「えっと、ごちそうさま? ……外走ってきます!」

「ん、ああ」

 

 俺は部屋を飛び出した。去り際に彼女の不思議そうな顔が見えたが理由が思い当たらず、考えながらランニングをする。なんか衝動的に逃げ出したけれども走っているうちに冷静になり彼女の反応の鈍さの理由に思い当たった。

 失念してた、ここは男女観逆転世界だ!

 真っ昼間から女性の上半身裸が流れて桃色のアレがうつっても問題にならないし、温泉番組の下半身ぽろりも前世のお笑い芸人みたいにひどく雑な編集でごまかされる世界だった。寝起きの半覚醒状態のせいで以前の価値観に大きく引っ張られてしまった、ちょっと変だなと箒に思われちゃっただろうか。

 

 後悔しながらあとで箒になんと言おうと考えていれば声をかけられた。振り向けば俺と同じくジャージ姿の千冬姉さんがそこにいた。ちなみにペアルックである。俺が買ったジャージとわざわざ同じのを探して買ってるあたりその、アレだ。

 

「ペースが早いぞ、どうした一夏」

「あ、千冬姉さん。おはよ」

「うむおはよう!」

 

 うわあ、笑顔がめっちゃキラキラしてる。昨日は結局先生としか呼んでいなかったからだろうか、いい加減弟離れするべきじゃなかろうか。薄暗いからさっきまで気が付かなかったけれど、俺と千冬姉さん以外にも走っている人はちらほら見かける。後から箒も合流して朝食まで運動を続けた。

 

 朝食後制服に着替えて教室に、そして授業が始まりあっというまに放課後。さて今日からがISの練習だ。

 

「よっと……ふう。普通に借りれて良かったな箒」

「ああ、本当に。普通に借りれて本当に良かった」

 

 俺は『打鉄』を身にまとって箒の『紅椿』の補助を受けながら歩行訓練をしている。入学試験ではぶっつけ本番でやりはしたが、やはりISは体の延長線上。いつもの動作をISを使ってでもできるようにと丁寧に歩行を続ける。

 先日の嫌な予感は的中せずに本当に良かったと二人の思いが一致した。

 

「ほんと『紅椿』は綺麗だ。雑誌とかで見たことはあるけれど実際に近くで見ると違う」

 

 口では言わないけれども脳内で続ける。そしてそれを自由に扱う箒もすごく綺麗だ、と。

 

「姉が妹に与える玩具にしては高価すぎるがな」

 

 苦笑しながらそういった箒は、けれどもその顔に家族への信頼を映していた。

 彼女は本当に、本当に綺麗になった。

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