男女逆転あいえす   作:かのえ

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6 これがゾーンだぞーん、なんちゃって

「今日はISが使えない」

「使えない」

「から剣道でもしよう」

「座学じゃないの?」

「いや焼け石に水だろう」

「それもそうだ」

 

 さて例の試合まであと半分といったところでISを借りられなかった。『ラファール』なら開いていたのだけれども戦闘スタイルに全然一致していないため使うだけ無駄という結論に二人で達した。

 いつものように脳みそフル回転で授業を受け終わり、俺は箒に連れられて剣道部へと来ている。箒はこの学園に入る前から入部していたらしく上級生に顔を覚えられているみたいだ。箒があっちを覚えているかは別として。

 

 やっぱり束さんの妹なんだなあと実感してしまう。束さんは身内以外への対応が至極雑で、それはもう千冬姉さんが矯正をする前までは話しかけられても無視、授業中に関わらず端末開いてキーボードを鳴らすなど比較的軽い問題行動のそれを聞くだけで関わりたくなくなってくる人物だったそうな。

 

 あの人との初対面を思い出す。

 

『へえ、ちーちゃんの家ってこうなってるんだ……っ! この子は……っ!』

『ん? ああ帰ってたか一夏。すまない遅くなって、留守番偉かったな』

『千冬お姉ちゃんおかえり。で、こちらの方は?』

 

 いきなりやってきた見知らぬ少女に驚きつつ俺は千冬姉さんに尋ねた。あの頃は千冬お姉ちゃんと呼んでいた。恥ずかしかったけれどもただでさえ苦労している千冬姉さんに自分の異常さを感づかれないように必死だった。

 俺は千冬姉さん無しに生きていけなかった、捨てられたくなかった、あんな冷たい絶望の感触を味わいたくなかった。

 

『篠ノ之束といってな、これはもう人の話を一切聞かないやつだ。絶対に家に上げないと言っているのに私が鍵をかけた次の瞬間にピッキングして今入ってきたところだ』

 

 千冬姉さんは続ける。今日はどれだけの苦労をこいつのせいで味わったのか、出るわ出るわ問題行動の数々。正直そのうち排斥されて孤独に野垂れ死にでもしていたのではないかとその時思うくらいに酷かった。だから、取り繕うこと無くこう口にしてしまった。

 

『うわ、千冬お姉ちゃんだめだよこんな人と付き合っちゃ。誰よりも頑張ってる千冬お姉ちゃんまで一緒にされちゃうだろ』

 

 いやほんと、言い過ぎたよなあ。

 

 その日、俺がこう言った後に泣きながら束さんは帰ってしまった。まだそんな世界を知らない頃だったから知らない人とはいえ、女性を泣かせてしまったのにとてつもない罪悪感を抱いた。いや、他人を泣かせた時に罪悪感を抱くのはそれ関係ないかもしれない。

 ともかく俺は千冬姉さんに明日謝りたいから家に彼女を連れて来てくれと頼み込んだ。

 

 翌日謝り倒して許してもらい束さんが帰った後、なぜか千冬姉さんが俺の抱きしめてありがとう、偉い子だと褒めていたのだけれども何だったのだろうか。謝ったことに対してじゃないと思うのだけれども。

 

「箒も束さんのことを言えないくらいに他人に無頓着だよな」

「む、あの人と一緒にするな」

「じゃあさっき俺達と話していた部長の名前は?」

 

 失敬な、といった表情が曇る。今どうせ必死に思い出そうとしてるだろう。

 

「――っ」

「いま防具に書かれてる名前見たな」

 

 口を開いた瞬間に俺が口を挟むと図星らしくなにも言わなくなった。

 

 とまあこんなことをやった後に俺と箒は竹刀を向け合って立っている。互いに相手の目を注視して動きを読もうと脳を回転させる。周囲の空気はピンと張り詰めてギャラリーは呼吸も忘れて見入っているのだろうが今の俺には関係がない。下手したら負ける、一進一退の攻防がここにはある。

 

 他の人からすれば数秒の時間、極度の集中でそれが俺達にとっては十秒よりも長く感じられた。無闇矢鱈と剣を打ち合うのが強い剣じゃないのだ。

 刹那の交錯、竹刀同士の激しくぶつかり合う音がやけに響く。耳から横隔膜、足までビリビリと震わせる音と踏み込みの振動。俺は俺を空から見ていた。

 

「くっそ、勝てなかったか」

「性差があるのだ、仕方がない」

「とはいってもなあ」

 

 負けを多くもらった。が、得るものはあった。これまでの中学では禁止されていた突きが解禁されたのだ、そしてそれはビーム攻撃とかを避ける練習になっている……と、思いたい。

 この世界では昔から女性が強かった、見た感じ筋肉無いだろとか言ってはいけない。世の中には細い腕で生身のままISの武装を使いこなし日夜訓練に励んだドイツのIS部隊を壊滅に追い込んだ修羅がいるのだ。当人のプライバシーのために織斑千冬という名前の女性ということは伏せておく。

 

 正直引いた。

 

 ふと視線を感じて汗を拭きつつ横に顔を向ける。そこにはさっきまで俺と箒の戦いを見ていた名も知らぬ部長がこっちを見て囁き合っていた。当然目が合う。

 この状況で知らんぷりするのも気まずいので軽く頭を下げてから手を振る、おまけに日本人特有の自分でもどうして出ちゃうのか分からない笑みを追加して。

 

「ちょ、こっちみた手を振った!」

「レスもらうとか爆アドかよ」

「私、一夏くん単推しになる!」

 

 なにを言っているんですかあなたたちは。

 ふと前世に置き換えて考えてみた。俺は前世の自分の顔があるせいか自分の顔を客観的に見ることができる、あなたとは違うんです。……このネタもここでは通用しないの悲しい。

 端的に言えばイケメン、男女逆転だからあっちでいう美少女ポジションである。そんな子がむさ苦しい、しかも防具とか汗を吸ってものすんごく臭いという環境で汗を流す自分に笑みを浮かべて手を振る――うわ、これ自分に気があると勘違いしちゃったあといろんな行動をポジティブに考え続けた結果放課後に告白とかして「君のことはそういう対象として見れないんだ、ごめん」と言われちゃうパターンだ。

 

 そう言えば昔、ツインテヘタレ美少女とバンダナイケメン友人に言われたな。俺の行動はたまに相手を勘違いさせちゃうから注意しろと。なにを馬鹿なアハハと流した中学一年、その後色気付いた女子に告白されること幾度。その度に友人たちの忠告が頭をよぎって罪悪感を抱く。

 

 自分はモテるという思い上がりかもしれないが、そうなのだ。前世の価値観に引っ張られる俺は無意識にそういう行動をしてしまう。男の心を弄ぶ悪女……もとい、女の心を弄ぶ悪男と自分で自分を見てしまう。

 

 千冬姉さんは自分が男を作るのはお前が結婚してからだ、と言っているが無理かもしれない。どこかそういう言葉にできない罪悪感を抱いているのだから。




※いつかの束さん※

私とちーちゃん、箒ちゃん以外カス!w

いっくんに一目惚れでござるwww

一夏「社会生活をまともに送れない人は嫌いだ…」

(´;ω;`)ブワッ
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