秋津洲ちゃれんじ   作:秋津洲かも

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秋津洲チャレンジ!
秋津洲の新生活


 

拝啓 寒さの中に春の気配を感じる頃になりました。

 

お変わりなくお過ごしでしょうか。

さて私こと水上機母艦 秋津洲はこのたび、佐世保鎮守府にて新しい生活をスタートしました。

横須賀鎮守府においては、いろいろとお世話になり、ありがとうございました。

慣れない新生活に戸惑うことばかりですが、新天地において自分の実力を十分発揮できるよう邁進していく所存です。

佐世保鎮守府の皆さんには本当に温かく迎えて頂き、近々演習に参加することが決定しました。

今後ともご指導ごべ・・・

 

 

 

ごべんたつ

 

 

 

どういう字だったっけ?

 

本棚から辞書を取り出す

 

 

 

ご鞭撻

 

 

 

む、難しいかも

 

本紙に書く前に一旦、メモ紙で練習をしておこう

 

ペンを走らせる

 

なかなかうまく書けないかも

 

 

「あれー?秋津洲さん、そんなに真剣に何書いてるんですかー?」

 

突然、顔の横からふわりとシャンプーのいい香りがする

 

「ぴゃあ!?」

 

「わわ、驚かしちゃった?ごめんね」

 

「びっくりしたかも!夕張さんお仕事中じゃなかったかも?」

 

私のルームメイト、軽巡洋艦 夕張さん、コーヒーカップを片手にこちらを覗いている

 

「うん、ちょっと休憩中。それにしてもピンクの便せんまで用意して、どこの殿方へのラブレターなんですか?」

 

「ラ、ラブレターなんかじゃないかも。お世話になった人への感謝の手紙かも!」

 

あわてて机に覆いかぶさり手紙を隠す

 

「あらあら、邪魔しちゃってごめんね。ふふ、じゃあわたしは退散するから続きをどうぞ」

 

夕張さんは手をひらひらさせながら部屋から出ていく

 

そう、これは大事な人への手紙

 

元大本営主席監査官

 

そして現在は横須賀鎮守府提督

 

そうあの笑顔のおじいちゃん

 

私が自身の解体を望んでしまった時、佐世保提督とおじいちゃんは私を救ってくれた

 

解体からというだけでなく、私の心も

 

少しの間、佐世保提督が横須賀鎮守府の指揮を執り、期間が終了すると私は提督と共に佐世保へ来た

 

既に私は横須賀鎮守府には存在しないことになっていたから

 

千歳さんたちと別れるのは辛かったけど、最後はみんな笑顔で送り出してくれた

 

飛行機の形のペンダント、大切にするよ

 

みんな元気かなあ

 

と、いけないいけない

 

お昼ご飯までに書き終えないと

 

えっと、ご鞭達 ご鞭達

 

 

 

 

 

 

 

佐世保提督はご機嫌だった

 

執務中にも関わらずその手にはペンもマウスもない

 

手を頭の後ろで組み、背を椅子にもたれ部屋の天井を見ている

 

最近は佐世保・上海ラインの輸送作戦が順調に推移している

 

こちらの損害はゼロ、深海棲艦の動向もほぼ把握することができている

 

そして新たな仲間も鎮守府に加えることができた

 

 

彼が当初から秋津洲を着任を希望したのは、あるプランを心に秘めているからだった

 

これがうまくいけばさらに他の艦娘の負担を減らせる

 

その期待は表情に明確に現れていた

 

そんな彼をじっと見つめる者がいる

 

 

「提督、まもなく正午となります。どこか体の調子がお悪いのですか。普段の半分も終えていないではありませんか?」

 

対照的に少し不機嫌そうな雰囲気をまとう青い袴の女性

 

「ああ、加賀、ちょっと考え事をしていたんだ。体はどこも悪くないよ」

 

「頭を動かすのも結構ですが、手を動かして頂かないと。今日中に終わりませんよ」

 

「ハハ、すまない。午後から本気だすからさ。ほらもうお昼だ。食堂へ向かおう」

 

佐世保提督は返答を得る前に席を立つと、一度背を伸ばしてから歩みを始める

 

加賀はため息のあとそれに続く

 

二人の歩みはゆっくりだった

 

 

 

 

 

加賀は前を行く白い制服の背に思う

 

歩幅を合わせてくれている

 

彼からは私が見えてないはずなのに、私に無理のない速度で進んでくれる

 

二つの足音が重なっている

 

いつも通りだけれど、やはりこういった気遣いは心に響く

 

階段を下るときは、注意深く私を見てくれている

 

もし転んだら受け止めてくれるだろう

 

そうなったら存外に嬉しいけれど、そんな勇気はない

 

少しでも私のことを考えてくれるのなら十分なはずだったのに

 

ずっと一緒にいるから分かる

 

今、彼の心のなかは新しく着任したあの子のことで一杯なのだと

 

彼はあの子のどこが気に入っているのだろう

 

 

容姿だろうか

 

 

性格だろうか

 

 

性能だろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋津洲はご機嫌だった

 

「ごちそうさま!」

 

「はい、お粗末様でした」

 

「間宮さん!デザートの水まんじゅう、最高に美味しかったかも!秋津洲生まれてきて良かったかも!」

 

「あら、良かった。自信作だったの。また作るから楽しみにしててね」

 

ほっぺたが落ちるほどおいしかった。手紙も書けたし、あとは郵便屋さんに渡すだけ

 

部屋に戻って、歯磨きしてから手紙を出そう

 

食堂の出口扉に手をかけると、正面から来た人物に目が止まる

 

「提督、こんにちはかも!」

 

「おう、秋津洲、嬉しそうだな。好物でもでたのか?」

 

「デザートがとても美味しかったかも!でも提督には食べるまで秘密かも!」

 

「ハハ、そうかそうか。じゃあ俺も早く・・・。加賀?」

 

提督は扉が閉まらないよう手で押さえたまま、加賀の入室を促す

 

加賀の視線は一直線に秋津洲に向けられ、次に口が開く

 

 

 

 

 

 

「秋津洲さん。明後日の演習ですが、まず私がお相手致します」

 

 

 

 

(続く)

 




美味しかったかも!

作品の雰囲気が少し明るくなりました

楽しい鎮守府ライフをお送りするかも!

次回、「秋津洲チャレンジ VS加賀」


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