秋津洲ちゃれんじ   作:秋津洲かも

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秋津洲 解体の危機!
見捨てないで欲しいかも


人は生まれながらにして不平等である

 

彼女はそれを身をもって、感じていた

 

容姿、家柄は選べない

しかし、それだけで後の人生は大きく影響される

 

けれども正しく努力を行えば、少しは報われる

 

でもどうしようにもならないこともある

 

あきらめが肝心

 

 

なぜ私は艦娘に生まれてきたのだろうか

 

 

 

 

「秋津洲、異動もしくは解体どちらを選ぶ?」

 

目の前にいる男は私に問うた

 

もはや、私に興味がないとでもいうように、書類に目を通しながら

 

 

 

私は驚かなかった

 

いつかこの日がやってくるだろうと思っていた

 

それがたまたま今日だった

 

「判断は、お前に任せる」

 

時刻は1700

 

空の色が青からオレンジへ変わる

 

この場所にいるだけで、全身から汗がにじみだしてくる

 

休めの姿勢のその背後では

 

いつものように両手をぎゅっと握りしめている

 

提督執務室は私にとって常に処刑台のようなところだ

 

ここに来るたびに、叱責され、蔑まれ、まったくと言って良い思い出がない

 

 

いや、着任初日だけは違ったか

 

皆、本当に喜んでくれた

 

それが遠い昔のことに思える

 

 

どれだけの苦労をして私を手に入れたのか

 

どれだけの資源・時間・犠牲を費やしたのか

 

大本営が私の顕現を報じ、どの鎮守府に配属させるか募集をかけたとき、艦娘を有する全ての鎮守府が私の着任を希望した

 

 

うれしかった

 

必要とされていることが

 

でも、その周囲からの期待が失望・無関心に変わるのに大した時間はかからなかった

 

「返答は明日の1700までだ、以上。さがっていいぞ」

 

私は敬礼し、回れ右

 

執務室を出て、一目散に自分の部屋に戻る

 

誰にも会わないように

 

後ろ手に扉を閉めるとふいにため息が出た

 

一人部屋で良かった

 

扉に背をもたれながら、うずくまる

 

涙が頬を伝う

 

必死に声を押し殺して、泣く

 

誰にも聞かれたくない

 

悔しくて、惨めで、情けなくて

 

いっそこと、お前は解体だと言われた方がまだ良かった

 

 

自分で決めなくてはならない

 

私は新しい場所で戦うことを望んでいるのか

 

それとも自身の解体を望んでいるのか

 

 

 

 

 

 

 

―――――2週間前

 

 

空の色がオレンジから青へ変わる

 

太陽が顔を出す

 

全長200メートルをゆうに超える巨大な輸送船が横浜港へ向け、神奈川県三浦半島城ケ島沖南西5マイルを北東へ向け航行していた

 

天気は雲一つない快晴、波も穏やか

 

巨体は自分こそ海の覇者であるかのように優雅に揺れることなく進んでいく

 

ただ、その周囲は平和には程遠かった

 

輸送船から少し離れたところに自衛隊の駆逐艦が2隻、輸送船を横から挟み込む陣形で航行している

 

それだけではない

 

輸送船の近傍を4隻の艦娘が前後左右を取り囲む形で護衛している

 

軽巡1駆逐艦3の合計4隻

 

この遠征が成功すれば、約1年ぶりに中東から東南アジア、シーレーンを通り日本の太平洋側に直接、物資を送り届けることになる

 

これは大本営にとって大戦果である

 

深海棲艦に奪われた日本の海を取り戻す、そのための第一歩を成し遂げたと明日の新聞にでも載れば、困窮にあえぐ国民へのメッセージとしては最高のものとなる

 

 

 

「みんな、もうすぐよ、横須賀鎮守府はもう目と鼻の先よ」

 

輸送船の前方、リーダーである軽巡の艦娘が無線機に伝えると、すぐに返答

 

「あー、つかれたー、腰いたいー」

 

「大丈夫?」

 

「横にいると、輸送船の作った波が腰にひびくんですよ」

 

目の下にクマをつくった左の駆逐艦が腰をひねる

 

「横須賀に着いたら、カレーを食べにいきませんか?」

 

とは、右の駆逐艦

 

「あともうちょっとだから気を引き締めて。敵潜水艦の反応はどう?」

 

「「「異常無し」」」

 

3人から簡潔に報告がかえってくる

 

よし、みんないい子ね

 

「ここまで、来たらもう大丈夫ですよ」

 

あら

 

今度は後方の駆逐艦が、気が抜けるようなことを言う

 

「ふあー、あ、あれは・・・?」

 

左の駆逐艦があくびをしながら視線を上に向ける

 

上空、左前方から1機の飛行機がこちらに向かってくる

 

「じゅ、11時の方向!航空機を視認!」

 

11時の方向、つまり陸地の方向からこちらに向かってくる

 

プロペラを4つ装備している

 

機体の形からすると自衛隊の戦闘機、そして艦娘の運用している戦闘機や攻撃機の類ではないようだ

 

「大丈夫、あれは味方の偵察機よ、今、横須賀から連絡が入ったわ。エスコートしてくれるそうよ」

 

「よかったー、ここまで来て敵機なんて勘弁ですよー」

 

ほっとしていると、飛行機の姿はどんどん大きくなり、輸送船の上空に差し掛かった

 

「わー、見たことない機体ですよ!フロートがついてますし、水上機ですよね」

 

無邪気に手を振っている

 

飛行機はバンクをかけ、艦隊の上空で円を描き始めた

 

「んー?瑞雲とはちょっと違うかな」

 

「二式大艇という機体だそうよ」

 

味方の偵察機が到着し、安心したのか艦娘は皆、空を見上げている

 

 

 

 

現在、三浦半島沖南西3マイル

 

 

ザザッ

 

≪大艇ちゃん、異常はないかも?≫

 

「こちらだいていようせい、いじょうなしです」

 

「ふきんをこうこうしてるふねはいません」

 

≪わかったかも、引き続き偵察おねがいかも≫

 

「りょうかいです」

 

プツン

 

送受信の赤ランプが消える

 

それを確認すると、二頭身のかわいらしい女の子は再び首に下げた双眼鏡を構える

 

隣の子は操縦桿を握っている

 

また、機内の後部座席には左右の見張り窓に座っている子たちがいる

 

全部で4人

 

妖精さんである

 

大艇妖精さんである

 

「ていさつけいぞくするです!」

 

機内のスピーカーから聞こえてくる

 

上空200メートル、二式大艇は輸送船と艦隊の上空を旋回しながら、周辺警戒を行っていた

 

機体後部の見張り窓の座席に座った大艇妖精さんは目を凝らし海をじっと見ていた

 

これ以上高度を上げると、深海棲艦のサイズでは確認するのは厳しい

 

深海棲艦は人間よりも一回り大きいぐらいで、しかもその色は海に紛れるには絶好の黒

 

目視と双眼鏡で見つけるのはなかなか難しい

 

ではどうやって探すのかというとそこは長年の経験と勘が頼りだ

 

ここは横須賀鎮守府から近い、鎮守府近海、地図上では1-5エリアと表記されている

 

船ならばできれば避けたいのだが、東京湾に入るにはここを通らざるを得ない

 

ここで敵が奇襲をかけるとするなら、潜水艦の待ち伏せ攻撃の可能性が高い

 

もし輸送船単艦であったのなら非常に危険な場所だ

 

敵のやり方は縦長の輸送船の横腹へ向け、魚雷を発射、その後急速潜航で逃げ切る

 

となると、敵の潜望鏡を優先的に探す必要が・・・

 

視界に何か入る

 

ん、海に浮かぶあれは漁船用のブイ?

 

そんなわけがない

 

このエリアで漁をするなどそれこそ自殺行為だ

 

間違いない、あれは

 

 

予感的中

 

 

潜水艦の潜望鏡

 

「みつけたですー!」

 

無線機に叫ぶ妖精さん

 

 

 

 

現在、三浦半島沖城ケ島から南1.5マイル

 

「はい、分かりました。長音2回ですね。陣形変更了解です」

 

軽巡が無線機を耳に当てている

 

「みんな、聞こえる?もうすぐ浦賀水道に入ります。狭路に備えて自衛艦が輸送船の前後になるよう陣形を変えます、さっき、言った通り、私たちはここからは二名ずつ、輸送船の左右につきます。いい?」

 

「「「陣形変更、両舷二名ずつ、了解」」」

 

いい返事ね

 

私は輸送船の右わきへ動く

 

後ろを見ると100メートル以上離れてはいるが駆逐艦がちゃんとついてきているのを確認できた

 

この遠征ももうすぐ終わりを迎える

 

私たちは呉鎮守府を出発して、和歌山県沖で佐世保鎮守の艦娘と合流、輸送船護衛任務を引き継ぎ、ここまで来た

 

この重要な任務を担当することができて誇らしい

 

 

 

ボ―――ボ―――――

 

 

自衛艦の汽笛が鳴る

 

自衛艦の陣形変更の合図だ

 

右手の自衛艦が増速、左の艦は減速の手筈だ

 

私の右にいた自衛艦がゆっくりとした相対速度で前へと離れていく

 

その航跡に足を取られないように重心を低くする

 

そういえば左のあの子は本当に大丈夫なのかしら

 

腰が痛いと言っていたし

 

横須賀に着いたらゆっくりさせましょう

 

カレーもいいけど、せっかくだし買い物に行きたいな

 

私服を買いに行って、甘いもの食べてそれからそれから

 

やりたいことが頭の中をめぐっている

 

 

航跡の波が穏やかになり、姿勢を戻す

 

自衛艦がさらに離れていき、私の右の視界が開けてきたと同時に

 

 

 

え?

 

ソナーが何かを捉えた

 

と同時に無線を受信

 

「こちら横須賀鎮守府!こちら横須賀鎮守府!輸送護衛C隊へ」

 

「は、はい!こちら輸送護衛C隊です、そちらの感明良好どうぞ」

 

突然の無線にびくっとする

 

「そちらも感明良好、上空の偵察機が潜望鏡を発見した。方位0-8-0、距離750。繰り返す方位0-8-0、距離750」

 

ソナーの反応は、これのことだったのね

 

無線に返答する前に反射的に右を見る

 

何も見えない

 

ソナーの妖精さんに確認する

 

すると妖精さんは真っ青な顔をしつつ、状況を必死になって伝えてくる

 

状況は切迫していた

 

嘘?

 

ほぼ右真横から、魚雷が何本も、10いや20以上・・・数えきれない・・・

 

こちらに向かってきている

 

まだ距離は十分ある

 

私は余裕をもって魚雷を回避はできる

 

それは私たち艦娘ならばの話しである

 

 

 

でも私の左には巨大な輸送船がいる

 

なんとかしなきゃ!

 

でも増速した自衛艦とは大分距離が離れてしまった

 

この状況の私たちに何ができる

 

海面を塗りつぶす多数の魚雷

 

絶望に息が詰まり声が出ない

 

唾を飲み込む

 

横須賀鎮守府からの無線は何かを言っているが、耳に入ってこない

 

なぜこのタイミングで・・・

 

「あ・・・」

 

やっと出たわずかな声

 

私が身を挺して輸送船を守る?

 

いや、向かってくる魚雷はそれで済む本数ではない

 

輸送船への直撃はは避けられない、頭の中で冷静に確信した

 

 

私は足が震えて動けなくなってしまった

 

恐怖からだろうか

 

輸送船を守れなかった自責の念からだろうか

 

時間だけが過ぎていく

 

私ももう避けられない、来る!

 

あと数秒で魚雷は到達する、目をつぶり覚悟をした

 

「みんな、ごめんなさい」

 

私の命はあとわずか、最後に口にした言葉は謝罪だった

 

 

 

 

 

 

 

 

魚雷は私には命中しなかった

 

 

おそるおそる目を開ける

 

 

 

 

 

 

 

 

が、さらに数秒をおいて

 

 

 

左から爆風が襲い、私は意識を失った

 

 

 

 

情報が入ってこないことに秋津洲は焦っていた

 

先ほどから大艇ちゃんはいくら呼びかけても沈黙していた

 

「どうなってるかも!黙っていたら分からないかも!」

 

つい声を張り上げる

 

≪あ・・・と、ゆそうせんにてきのぎょらいが・・・たくさん、め、めいちゅうしたです≫

 

≪ゆそうせん!えんじょう!けいしゃしていきます≫

 

≪きゅ、きゅうえんをようせいするです!≫

 

「え?ど、どうしてっ!潜望鏡のことは、すぐに提督さんに伝えたかも!護衛する艦娘だっていたんでしょ!」

 

≪せいぞんしゃさがすです!≫

 

≪はやく!きゅうえんをむかわせるです!≫

 

「うっ・・・。こちら秋津洲、至急指令室へ-------

 

 

 

(続く)

 

 




見るに耐えない駄文かと思いますが、
書く側のしんどさ、これを少しでも理解でき、ぐったりしてるかも!

ありがとうございました

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