ダンジョンに緑のアイツが出没するのは間違っている 作:サンマ味のヨーグルト
太陽が沈み始めた頃、夜は刻々と迫っている時刻
平原の傍にある集落、村と言った方が正しいか、木造の家がちらほら見える。一軒一軒離れているが、住民は60を超えているのだろう
街灯のない村は夜が近づく前に仕事を終わらし、家に帰る。そう、夜に出歩く人間なんていない筈だ。この村には酒場は無い
しかし村の東にある門の近くに、二人の男が立っていた
夜に関わらず二人は言い争っていて煩い筈なのだが何故か村の住民が野次として見に来ることは無かった。
争っている二人の内片方は、初老の老人だった。老人といっても腰は90度にピンと立っていて、齢100を超えても死にそうに無いほどに健康的だった。もう一人を警戒しているのか手には鍬を持っている
そして片方は栗色の髪をした青年。何故か服を緑一色にしている顔は2枚目で何処か野生を感じさせる顔つきだった。彼は冒険者なのだろうか、腰に剣を下げている
「貴様は何度言っても問題を起こしてばかりで!この前も村長の嫁入り前の娘さんに手を出しおって!貴様にはモラルという物がないのか!最早獣じゃ貴様は!」
二人のボルテージは見ただけで一触即発だと判別できる。今にも剣で殺し合いに発展しそうだ
恐らく巻き込まれたくないという理由で村人は家から出てこないだけなのか
「あれはセラの姉ちゃんとの合意の上の行為じゃ耄碌ジジイ!頭皮とともに考える脳まで亡くなったか!」
「なんじゃと?!なら3か月前に泣きながら帰って来たライラの嬢ちゃんはどうなんだ!」
「あれは俺様を誘惑したライラちゃんが悪い!だから俺様は悪くないのだハゲジジイ!」
自身に罪は無く、相手が悪いと言い放った青年の言葉に怒りのパラメーターが振り切れたのか、老人は最終手段を言い放った
「~~~~~~!!!もう我慢ならん!さっさとこの村から出ていけ!!それと儂には髪はまだある!」
青年の発現に激昂し、老人が鍬をブンブン振り回し、青年に斬りかかる。その動きは老人というよりは一人の戦士を彷彿させる動きだ。老人の恰好は農家のソレなのだが……
どうやら片方の青年が村で問題を起こしたようだ。しかもかなりの数を。
老人は問題児を面倒見切れなくなったのか、青年を強引に村から追い出そうとしているようだ。確かに彼を追い出すだけでこの村には平穏が訪れるのだろう
「誰がこんな僻地に居てやるか!俺としても外に出れるのは万々歳じゃ!」
青年は口の汚さの割に精練された動きで老人の攻撃を回避する。
青年としてもこの村から出るのは吝かな事ではないのだろう。少し怒りが収まっていて、声には嬉しさが感じられる
出て行かされることに対する怒りよりも命令されることが嫌いなのだろう
「二度と村に帰ってくるな!!!」
「うるせー!誰が皺くれた爺に頼まれても戻ってくるか!後で戻ってきてくれと懇願しても許してやらんぞ!」
門から数m離れた青年はそう言い切り、身を翻して村から走り出した。その足取りは悔しいという感情ではなく、愉しいという足取りだった。そして夜に関わらず、灯りも無く、魔物とあっさり遭遇しそうな大声を、喜びの声を無邪気に挙げていた
「がはははははは!!待っていろよ未だ見ぬ世界のかわいこちゃん達!俺様が会いに行ってやるぜーーー!!待ってろよーーーー!!」
青年が走り出した時間は一分も経っていないのにも関わらず、青年の姿はあっさり平原から見えなくなった。
驚くべき程の脚力である
「ふー……ふー……はあ、やっとどっか消えたわい」
老人はスタミナが切れたのか、肩で息をしており、息も絶え絶えだ。残り少ない髪は額にへばりつき、見るだけで少し残念な気分となる。しかし顔はやりきった。と済々したような色をしていた
「あいつが居るだけで問題は起こすし、何故か女子供は大体アイツの味方をするし、子供たちの教操に悪いし……生きてるだけで害があるわい」
老人は青年が走り去った先を睨み、ぽつぽつと呟き始めた。その顔は先ほどの嫌悪する顔から一変し、面白いモノを見るような表情だった
「村八分のような環境で7年もあんな性格で押し通すとは逆に凄いわい…………あんな子供は見た事が無い……まるで世界のバグのような男じゃ」
そう、青年は昔から問題を起こしていた為。村から忌避されていたのだ。食料を与えない、集団無視など。しかし青年は気にせず、いや寧ろ気づいていないという感じで村で生活していたのだ。
親も居らず、孤児としても関係無く、天真爛漫に生きている彼の生き方は
老人が知っている中で、最も逞しい、いや愚鈍な人物なのだろう彼は
老人は、青年が去った方から向き直り、一人になった孫が待つ家へと帰って行った。
実は青年は老人と孫と暮らしていたのだ。確かに老人は青年の面倒を見ていたが、青年自身は此処は自分の居場所ではないと一人暮らしをしていた。
故に老人は気に留めている扱いだけにし、青年を放置しておいたが、
青年を邪険にしていた老人にとっては問題を起こすけど可愛い孫。と実は内心思っていたのだが、青年が知る余地は無い。
「おじいちゃん!お帰り!」
家に帰ると一人になった孫が出迎え、老人の帰りを喜んでいた。老人も眉間の皺を解き、笑顔で孫が作った夕食にありついた
「あれ?おじいちゃん。お兄ちゃんは何処なの?もう晩御飯の時間だよ?」
孫は青年の姿が見えぬことを疑問に思い、老人に直接疑問をぶつけた
「あいつは村を出て行った。もう戻ってくることもないじゃろう」
老人は無骨に青年が村を離れたと、言い放ち、孫を言い聞かせた
孫は青年に懐いていた。問題ばかり起こす青年だが、何故か子供に好かれていて、どんなに青年が邪険にしようと、どんなに大人達が子供に言い聞かせようとも、子供たちが青年を嫌う事は無かった。
ここで丁寧にアイツが悪いので追い出したとこつこつ子供に言い聞かせたとしても、子供たちは大人に刃向かい、一方的に青年を追い出し、彼は悪くないと決め付けるだろう
青年を追いかける可能性もある。
故に一言で済ませた。後に子供たちに少し嫌われる可能性のある言い方ではあるが、青年自身が村を自主的に出て行ったと言う方が青年を追いかけて危険に遭う可能性は無い。そう思い老人は孫に無理やり納得させた。
しかし孫の発言は違った。
「やっぱりお兄ちゃんはやっぱりここでゆっくりすることは無かったんだね」
意外である。孫は同世代の子供に比べ、泣きやすく、非常に打たれ弱い性格だったのだ。青年に一番に懐いていたのも孫である。
「ほう、何故そう思ったんじゃ?」
老人は思わず孫に尋ねた。確かにじっとしていられない性格だったとしても、孫が言ったニュアンスが少し違う気がしたのだ
「うん!だってお兄ちゃんはおじいちゃんから貰った英雄譚に出てくる登場人物にそっくりなんだもん!」
孫が片手に持つ、英雄譚。それは老人が孫の誕生日に与えていた絵本であり、孫の宝物だった。実は老人が自作で作った絵本なのだが、孫が知ることは無い
「は?あんな男、絵本には載っていないぞ?アイツの人柄は大体ギルドで絡んでくる三下じゃぞ?一体誰にそっくりなんじゃ」
老人はえ?どこが?とびっくりし、孫に問い詰めた
そして孫はこう答えた
「――――――――英雄!だってすごく強いし、カッコいい!」
「は?」
老人は今までかつてないほど目を見開き、顎が外れそうな程口をあんぐりと開いて、唖然としていた。
持っていたフォークを落としていて、腰を椅子から少し上げている。
「あいつは英雄なんかじゃないわいさっさと寝なさい――――――ベル」
そして残念なモノを見る目で、孫の名を呼んだ。老人は落としたフォークを拾い、孫の見る目の無さに哀願を抱いた
「……………【ランス】が英雄なんぞ天地がひっくり返ってもありえんわい」
青年の名は、【ランス】。
栗色の流れるような髪に、澄み渡る綺麗な眼、彼は自由な風を彷彿させる性格であり、誰も彼を抑えることは出来ない。
故に彼がこれから起こす騒動は、老人であっても見抜けなかった
「あ、忘れてたけどおじいちゃんが大切に持っていた剣、お兄ちゃんが持って遊んでいたけど、ちゃんと返してもらった?」
「なぬぅ?!あ、無い!儂の剣が無い!!……………あいつううううううううううううううう!!!!」
☆☆☆☆☆
俺様の名はランス。皆のスーパーヒーローランス様だ
実は俺様はかわいそうな事に村を追い出されたのだ。あのクソジジイめ、ちょっと女の子にスケベな事をしただけで怒りおって。心が狭すぎだ!
ただセラの姉ちゃんとライラの嬢ちゃんとエミーゼとカレンとリアに手を出しただけではないか。
そのうち血管が千切れてポックリ逝くぞ?
まあいい、ポジティブな俺様は村を追い出されたくらいでは挫けんのだ。この機会に世界中のかわいこちゃんとイチャイチャするのだ!
そうそう、実は俺様前世の記憶があったのだ。まあだからなんだ?と思った奴、今すぐ切り殺してやる。大事な話に茶々を入れるな。
うむ、では説明してやる。
実は前世の俺様は普通のサラリーマンだったのだ。何の変哲もない平凡な男だ。今思うとかなり人生を損しているな。うん。
毎日糞つまらない会社に行き、道中絡んで来たヤンキー共をゴミ箱にドッキングし、家に帰り勉強する。そして時折泡の名前が付く店に通い、また絡んで来た酔っ払いを線路にドッキングさせる
昔は普通の人生だと思って何の感慨も無かったが、いつかあの人生に戻ると思うと鳥肌が立つな。
そして神と名乗る姉ちゃんに出会ったのだ。確かALICEとか言っていたが今はどうでもいいな
その神の姉ちゃんに人生詰まらなくないか?と言われ、俺様はこう答えた
「だから何だ。俺の人生に文句でもあるのか」と。カッコいい発言かも知れんが、あれで決まったと俺も思ってしまった。
うむ、そう偉そうに言ったら姉ちゃんが俺様の首を切り落としたのだ。
激痛に悶える暇などなく、意識を保たせたまま、俺様の足から1㎜ずつスライスし、見えた部位を丁寧に解説されるという恐怖の光景を無理矢理見させられた。あれはトラウマランキング1位だぞ
散々弄ばれた挙句、姉ちゃんは詰まらなそうな顔をしていたので俺様は叫びながら聞いた
何が目的だ。と
そして、姉ちゃんは転生してみないか?と言ってきた。
ぶっちゃけ俺様は激痛で何を言っているのかさっぱりわからなかったので。適当に何でも良いと答えた………気がする
すると意識がブラックアウトしたのだ。俺は思った。あ、やっぱり死んだ?と
しかし目が醒めると。よくわからない村に居た。
どうやら俺は親に捨てられ、この村で数年過ごしていたそうだ。俺様がこの事を知ったのは、6歳の熱を引いた時だ
今までの記憶の奔流に戸惑い、訳も分からない状況だったが、俺様は悟った
俺イケメンじゃね?あと転生してね?いやこれ憑依か?
前世では暇つぶしにネットで遊んでいた為、こういう展開はなんとなく理解できた。いやしかし嬲ってから転生させる神なんぞ知らんぞ。
だが転生したという事実がある以上、ここで燻っていても意味が無い。だったらハッチャケよう!と考え、好きに過ごしてきた。
かわいい姉ちゃんだな!冒険とは面白そうだな!ダンジョンとかワクワクするな!と
毎日見慣れぬモノを知り、ワクワクしていた。
そして俺は童貞を卒業した時にようやく思い出した
自身の名前と容姿が
前世から知っている人物と同じである。と
そして一人称を俺様に変え、服は緑に拘る。剣を練習し、気に入らない連中をぶっ殺し、いつの間にか村では最強の存在となった。
子供はわらわらとウザいが雑用させると便利だ。好かれて嬉しいのは美人の女の子だけで子供に好かれても嬉しくないのだ
村の男衆、ジジイには嫌われているが男なんぞどうでもいい。用があるのか美人の姉ちゃんだけだ。
俺様の名はランス。
鬼畜戦士と名高い。スーパーヒーロー・ランス
今から俺は、モテモテになる旅に出る!!!
「がははははははははは!!!俺様の冒険が今始まるぜええええ!!!」
そして俺様は、平原を抜け、山の登りはじめた。ここを超えるとデカい町がある筈だ
ついでにジジイの剣をパクったが、あまり溜飲は下がらんな
はい、緑のアイツとはランスです。ぶっちゃけベルの活躍食う事になりそうですね。原作でも勇者のやる事気づかずにぶんどってますし
性格は原作とは若干違います。
原作では男なんて見る価値も無い。と堂々と発言していますが、こっちのランスは内心罵倒しているだけです。男が絡んで来たら容赦無く半殺しにしますが
そして少し身内以外にも甘いです