「ふむ、ここまでくれば良いか……」
魔物の襲撃を警戒しつつ少し進んだところで、ちらりと後方を振り返った俺は足を止め。
「そ、そうですね、マイ・ロード。初めてが洞窟の中というのはちょっと斬新な気もし」
「……はぁ」
言葉不足を後悔しつつも、ローブをたくし上げようとする変態娘のそれを嘆息と共に鷲掴みにする。
「ま、マイ・ロード? い、いつものも嫌いではあり゛」
「斥候だと言っただろうが」
流石に叫ぶのは拙いと声は抑えつつ、感じた頭痛の何分の一でも伝わればいいと空いた手でトロワの口を塞ぐと同時に頭を掴んだ指に力を込めた。
「ん゛んんーっ」
「まったく……」
女性をいたぶって喜ぶような趣味はないが、こうも逆セクハラを繰り出して来るようならこれぐらいは許されると思いたい。
(とは言え、女性に暴力振るう癖がついちゃうのも問題だよなぁ。うーむ、次は縛った上でくすぐってみるとか……って、そうじゃなくて!)
危ない、わざわざトロワを連れて先行した理由を忘れるところだった。
「二人になって内密の話が出来ると思えばこれか。トロワ、俺がお前を伴って先行したのは、ここに居るであろう魔物がどんな魔物かを知らないか聞くためだ。アンの様に過剰戦力が配置されてるケースもあるからな」
原作にさえ登場しなかった洞窟に棲息する魔物だ、いかに元バラモス軍の軍師といえど把握している保証はないが、聞くだけならただである。
(その為にわざわざ連れ出す必要があったし、連れ出したら連れ出したでとんでもない勘違いをやらかされたけど、まぁそれはそれで)
とにかく、俺としては欲しかった。俺の想像した最悪のケースを否定するトロワの答えが。
「そうですね……ここを抜けた先に有るのは遺棄された村と聞きましたし、居るとすれば付近を住処とする者が中心かと。こちらに報告が上がったこともありませんでしたので、断言は出来ませんが……」
「そうか、ではあやしいかげとしてお前のようなアークマージが居る可能性もないか?」
「はい、ママンの様にアレフガルドから配属された者が居る場所はバラモス麾下の魔物と諍いを起こさぬように配属される場所については通達されております」
「なるほどな」
よってここには居ないという説明を受けてようやく安堵し、付近を住処にするという言葉に記憶を掘り起こす。
(この辺って言うと雲の魔物とトロルが居たよな……えーと、後は何が居たっけ)
こういう時、手元にガイドブックがあってくれればとか攻略サイトが見れたらなとつくづく思う。
「そこまで解れば重畳だ。だが、斥候に出ると言った手前もある。念のために確認しておくぞ」
試みようと思ったのは、足音と気配を殺して近づいての強行偵察だが、先方に気づかれたなら倒してしまってもいい。
(その程度の実力はあるし、今やり過ごせても後で遭遇する可能性もあるもんな)
もしこれがシャルロットとの行軍だったら、魔物使いの心得が作用して仲間になりたそうに倒した魔物が起きあがってくる可能性もあるが、シャルロットとは別行動の今、そんな心配とは無縁だ。
(って、待てよ? 魔物使いの心得かぁ……確か、神竜の元に至るまでの道中にはアレフガルドに出没する魔物より凶悪な魔物が居たよなぁ)
同行者の誰かに魔物使いの心得を学ばせておけば、強力な味方を得られるかも知れない。
(これは一考の価値有り、だな。最初から魔物の言葉がわかってライオン頭の魔物をあっさり追っ払ったトロワとか元々魔物だし、適正はありそうな気がするけど)
問題はシャルロットに魔物使いの手ほどきをした人物がアリアハンにいることだ。
(手ほどき受けてる間にシャルロット達が帰ってきたら……とは言え、側に侍ると誓ってるこの変態娘が俺から離れて教えを受けてこいと言われて首を縦に振るとも思えないしなぁ)
ならば、同じ魔物枠でエピちゃんはどうか。
(たぶん「嫌です」って言うよな。慕ってるカナメさんと離ればなれじゃ)
そのカナメさんには遊び人から転職して賢者になって貰いたいので、アリアハンで遊んでいて貰う訳にはいかない。
(人間でありながら魔物の言葉がわかるエリザは面識があるからってシャルロット達についていって貰うように指示してる……となると、これはジパングに行ってバラモスから離反した魔物の中から協力者を募る形にするしかないか)
洞窟の天井を仰ぎつつ、方針を定めた俺はマジマジと天井を見て呟く。
「しかし、こんな洞窟があったとはな」
ゲームでは全く見覚えのない天井にぶら下がるのは魔物でも何でもないごく普通の蝙蝠。
(ふーむ、あの位置に居るということはこの洞窟には空を飛ぶ魔物が棲息していないのか、それともまだ入り口から近いからか)
不意に目を留めた生き物に考察をしてしまった理由は一つ。
「トロワ、ついてきても良いが音は立てるなよ? 何か居る、おそらくは魔物だろうがな」
やりづらい相手であることも考え、左腕を鞄に突っ込んでチェーンクロスの柄を掴みつつ、もう一方の手にまじゅうのつめをはめると、俺は忍び歩きで歩き始めた。
原作になかったダンジョンでの初エンカウント、はっじまっるよー?
次回、第九話「まさかまた女の子の魔物とか思ってませんよね?」
はわわ、胸の大きな子なんてもう読者さんも一杯一杯だと思うのです。