強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第九十四話「出立」

 

「……ふぅ」

 

 昨晩はちゃんと宿に泊まった筈なのに、やたら疲れた。

 

(うん、理由は解ってるんだけどね)

 

 両方ついてるというのは初体験だった。

 

「それはそれとして……」

 

 朝だ。窓の外からは早起きな鳥のさえずりが聞こえ、窓からも日の光が差し込んでいる。

 

「とりあえず、着替えるか」

 

 三人部屋でありながら男は俺だけ。寝息が二つ聞こえる今なら着替えても二人に見られる恐れはない。そして、着替えた後、二人が目を覚ましたらトイレに行って二人の着替えの時間を作ればいい。

 

(しっかし、昨日は何というか……)

 

 全力で教えたものの、会得出来たのは二回行動の方のみ。きっと一日で全てを教えようと言うのが欲張りすぎたのだろう。

 

(トロワが下着を完成させてくれれば、実演や練習の負荷も減るし、二回行動だけでもものにしたんだからあれはあれで良しとしないと……うん)

 

 自分を戒めつつ、清潔な服の袖に腕を通す。

 

(奥義伝授は次の機会にしよう。会得したって防具も武具も身につけていない俺としての最終目的(ラスボス)の神竜相手じゃ奥義の使いどころなんてないもんな)

 

 役に立たない奥義の伝授よりも昨日低いと感じたムール君のレベル上げの方がよっぽど急務だとも思う。

 

(下着作りに関してなら、制作者と使用者が離ればなれになっちゃうけど、ムール君からパンツ一枚借りていけばいい話だし、最悪俺がモシャスするって手もある)

 

 モシャスする時実物側には居ない、だが。

 

「昨晩散々荒ぶってくれたお陰で、大きさはだいたい覚えたからな」

 

 自慢にはならないと言うか、口に出すと無性に虚しくなるんだが、きっとそれはそれ。

 

(とりあえず、ムール君の為にも……ん?)

 

 早く下着を完成させて貰わないとと思った時だった、隣の部屋で何かが倒れるような音がしたのは。

 

「今のは……」

 

 音の出所は、記憶が確かなら女性陣が泊まっている部屋。

 

(寝ぼけて誰かがベッドから落ちた?)

 

 その辺りが妥当なところだと思うが、急病とか、思わぬアクシデントに見舞われてる可能性だってある。

 

「行ってみるか……」

 

 念のために。だが、俺は同時に分かっていた。

 

(しんぱいして おんなのこたち の ところ に いったら、きがえちゅう で おれ が へんたい の らくいん を おされる ながれですね?)

 

 俺だって成長する。そんな分かり易い世界の悪意のトラップに引っかかる筈もない。

 

「入室前にノックして、扉の外から声をかければいい」

 

 ただそれだけで、罠は防げる。

 

「おい、さっきの音はな」

 

 扉の前まで到着し、ノックしつつ問おうとし。

 

「うわっ」

 

「止めないで下さい、カナメさん。スーさ――」

 

 ノックして声をかければ罠は防げる、俺はそう思っていた。だが、ノックの最中に扉の方が開くなんてのは想定外であり。何故か下着姿な魔法使いのお姉さんが内側の取っ手を握って目の前に居るという状況も想定外だった。

 

「あ、スーさ」

 

「ウヅキー、服、服」

 

「え? あ……」

 

 理解不能な状況に固まった俺の前で何かを訴えようとした魔法使いのお姉さんはスミレさんの声に自分の身体を見下ろし。

 

「わた……あ、見……きゃぁぁぁぁぁぁ」

 

 おおよそを理解した瞬間、自分をかき抱いて悲鳴をあげた。

 

「ちょっ」

 

 なに これ。

 

(じぶんから あけて おいて これ は ひどくありませんか? と いうか、いしす で ふつう に したぎすがた を みてるんですけど、おれ)

 

 意識して見せたかそうでないかで違うって事なんだろうか。ともあれ、こんな場所を第三者に見られたら、洒落にならない。

 

「す、すまん。だが、急病で倒れたとかそう言うことではなさそうだな? 俺はこれで失礼する」

 

「あ、スーさ」

 

 とりあえず、見ないように目をつぶって頭を下げると、俺は逃げるようにして来た廊下を引き返し。

 

(はぁ、酷い目にあった。そう言えば、さっき誰かが何か言いかけてた気もするけど……後で、いいか)

 

 引き返す気にはなれず、頭を振ると扉に手をかける。

 

(さて、二人のどちらかが起きてたら、部屋を任せてトイ――)

 

 トイレにでも行こうと思った、だが。

 

「へ?」

 

「あ」

 

 目の前に飛び込んできたのは、パンツを持った全裸のムール君であり、その視線は扉の開いた音に釣られたのだろう、こっちに向いていた。

 

(うわぁい……って)

 

 酷い二段トラップだった。だが、呆けている暇は皆無。

 

「っ」

 

「んぶっ」

 

 我に返るなり床を蹴り、ムール君に肉迫して口元を塞ぐ。隣の物音が聞こえたのだ、今叫ばれたら最悪の状況が爆誕してしまう。

 

「ん、んん゛っ」

 

「すまん、この部屋の壁、割と薄いようでな」

 

 俺にもついている何かを除くと全裸の女の子の口を塞いでいるというとんでもない絵面になるが、流石に今手を放す訳にはいかなかった。

 

(ムール君、絶叫系ツッコミの人だし、先に状況を話して理解して貰わないと……って、ちょっ)

 

 なぜ、なみだめ で ほほ を そめるんですか。

 

「ん、んぅ、ん……」

 

「いや、何が言いたいか解らないんだが……とりあえず、先に俺のはな」

 

「んんぅ……あ、おはようございます、マイ・ろぉ……ど?」

 

 そして、この たいみんぐ で おきてくる とろわ って なんだろう。

 

「トロワ……」

 

 何と続けて弁解すればいいモノか。とりあえず出立の日はロクでもないハプニングから始まったのだった。

 

 




お待たせしました。ようやく復帰です。

せかいのあくい「休みを貰ってリフレッシュしたので張り切ってみた」

まぁ、主人公にはご愁傷様と。

次回、第九十五話「大空を行く」

バハラタに別れを告げ、飛べ主人公!

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