強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第九十五話「大空を行く」

「……昨日言いと今日と言い、厄日続きだ」

 

 何なんだろう、本当に。

 

(しっかし、ムール君のナニカを見て固まってくれたのは、良かったのやら悪かったのやら)

 

 あの後、ムール君の耳元で叫んだら人が来るかも知れないと一つの事実を指摘してから手を放した俺は、トロワが我に返るより早く肉迫し、トロワの口を塞いだ。

 

(だからこそ被害は最小限で済んだし……誤解も解けた訳だけどさ)

 

 と言うか、誤解は解けたと信じたい。

 

(こう、微妙に納得していない感じがした気もするものの、しつこく弁解していたら逆効果ってのは火を見るより明らかだからなぁ)

 

 今は全裸のムール君と大接近事件をスミレさん達別室組に知られずに済んだことで良しとしよう。

 

(そう、スミレさんに知られなかっただけでも……なぁ)

 

 トイレに出る前にムール君には口止めしておいたし、トロワは自身に課した誓いがあるから俺と一緒にポルトガ行きだ。

 

(口止めしても若干不安は残るんだけど、今イシスに行って強くなって貰っとかないと厳しいのも事実だし……)

 

 それにムール君があちらなら一人部屋が使える。今朝みたいな事が無いというのは大きい。

 

(どうしようもないなら、良いことだけ頭に残した上でこれからのことを考えよう)

 

 スミレさん達は、ちゃんとシャルロット達の情報も仕入れてきてくれていた。

 

「アリアハンを立ち、西に……か」

 

 ルーラですれ違わなかった事からすると、俺達が船旅をしてる間か、ムール君の故郷でムール君を生き返らせ、悪霊や動く腐乱死体を倒し、地下墓地の浄化機能を復活させたりしてる間に頭上を通り過ぎていったんじゃないだろうか。

 

(バラモスはもう倒してるし、情報源になるトロワの母親(おばちゃん)も居る)

 

 シャルロット達はギアガの大穴経由でアレフガルドに行ったと見て良いと思う。

 

(シャルロット達が旅立ったアリアハンならもっと詳細な情報が入ってきたと思うけど、寄り道すると時間ロスするからなぁ)

 

 ポルトガに飛んでまずは船を借りる。そして借りた船でエジンベアに行き、城の地下でかわきのつぼを入手。

 

(アリアハンへ戻るのはその後だな。ポルトガからエジンベアなら船でもそうかからないだろうし……)

 

 カナメさんやムール君達イシスで修行組には移動時間込みで一週間後アリアハンに集合とでも伝えておけば良いと思う。

 

発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)風呂を使うかもしれない危険性を教えとかないと)

 

 効果は凄まじいが、あの変態施設は効率を最優先して色々大切なモノを失う、失うと思う。

 

(模擬戦でも五日有ればそれなりに強くなれるはずだし)

 

 転職のための腰掛けに遊び人になったカナメさんに至っては転職可能な所まで強くなればそれ以上遊び人を続ける必要はない。

 

(一日で充分到達出来るはずだから、ダーマで転職して戻ってきても二日残る計算だよな)

 

 二日だと流石に賢者が扱える全ての呪文を会得するのは厳しいだろうが、それでもそこそこ強くなっている筈であり。

 

(エジンベアまでの航海日程の方はいくらか余裕を持たせてるからなぁ)

 

 俺達の旅は日数が余ってもおかしくない。だから、余った日数をイシスに寄り道してカナメさん達と合流してトロワを一緒に修行させるなんて事もおそらくは可能なのだ。

 

「……と、だいたいそんなところか」

 

 用を足し、考えを纏めた所で部屋へと戻る。ただし、三度目のハプニングに見舞われるつもりはない。

 

(大丈夫、さっきの反省を踏まえれば――)

 

 まず、女性陣の部屋には行かない。朝食は部屋に運び込まれるタイプではなく、食堂へ食べに行く形のようなので、連絡はそこで行う。流石に他の宿泊客もいる前でさっきのハプニングについて言及する様な人は居ないだろうし、だからこそ俺もハプニングの件に触れて脱線することなくごく自然に用件のみを伝えられる。

 

(次に、着替えハプニング防止。こっちは簡単だ。全裸のムール君と大接近事件は女性陣の部屋で動揺してノックだとかその手のモノをすっ飛ばしていきなり扉を開けちゃったのが原因なんだから、今度はノックして入室許可を求めればいい)

 

 穴は、無いと思う。

 

「俺だ。入ってもいいか?」

 

「あ、はい」

 

 実際、部屋に辿り着きノックすれば扉の向こうでトロワがあっさり返事を返し。

 

「……と言う訳だ」

 

 合流後、ムール君とトロワを伴い食堂へやって来た俺は、残る面々に今後の予定を話した。

 

「ダーマに向かう時は、昨日買い出しに行って貰って補給したキメラの翼を使っても構わん。ムール以外の者はダーマに立ち寄ったこともあるし問題はなかろう?」

 

「そうぴょんね。もっとも、このメンバーだとスミレとウヅキは会得する呪文の関係で転職はなさそうぴょんけど」

 

 頷くカナメさんが見たのは、クシナタ隊の賢者と魔法使い。まぁ、その二人はしかたない。

 

「そして、ムールが転職したい場合はカナメについていってくれ」

 

「えっ?」

 

「クシナタ隊の面々と接していれば他の職業の良いところ悪いところが見えてくるだろうからな。俺はずっと盗賊でいろと強制はせんと言うことだ」

 

 ちなみに同行者をカナメさんにしたのは、原作では転職すると素っ裸(なにもそうびしてないじょうたい)にされたことを考慮しての人選だったりする。

 

(まぁ、リメイク版では適正装備を所持品から見繕って着せてくれてた気もするし、考えすぎかもしれないけどさ)

 

 念には念をだ。

 

(俺としては奥義を伝授して欲しいけどムール君の生き方を縛るつもりはないし、色々やらかしちゃった詫びというわけではないけど)

 

 ともあれ、言いたいことを伝え食事を終えると、チェックアウトを済ませ、宿の外に出た。

 

「ではな。イシスかアリアハンでまた会おう」

 

 トロワが人前で盛大にのろけてくれたりしたと言うのに町中を歩いて入り口まで行く気はない。

 

「トロワ」

 

「はい、マイ・ロード」

 

「ルーラっ」

 

 俺はトロワを呼び寄せると、呪文を唱えて空に浮かび上がる。

 

(さようなら、バハラタ)

 

 下は振り返らない。いや、何というか振り返りたくない。風を感じつつ飛翔した身体は大空をはるか西北西のポルトガに向けて飛ぶ。

 

「ポルトガ、か」

 

 経由地である国の名を反芻する俺の眼下に世界が後方へと流れていた。

 

 

 




せかいのあくい「はりきりすぎてつかれたのできょうはやすみます」

平和、もいいですね。

あれ?

次回、第九十六話「この国に来ると、あの時のことを思い出す」

前作でも色々ありましたよね、ここ。
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