強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第九十六話「この国に来ると、あの時のことを思い出す」

「……見えてきたな」

 

 何度も訪れた国、だからこそ眼下に見えてきた時、俺は到着が間近だとすぐに悟ることが出来た。

 

(最初に来たのは一人で、魔物に変身して海を渡った後だったっけ?)

 

 その後シャルロット達とお忍びで休暇に訪れたのもこの国だった気がする。

 

「着地に備えておけよ」

 

「はい、マイ・ロード」

 

 かけた言葉に返ってくるのはトロワの声一つのみ。

 

(旧トロワだったら……二人っきりになったとかではしゃいでいたかもな)

 

 別にあの方が良かったとか変態的罰当たりを言う気はない、寧ろありがたいくらいで

不満なんて欠片もない。

 

(だからこれは……ああそっか)

 

 そんな思考に至った訳を考え、すぐに辿り着く。そう言えばシャルロットもバカンスの時にはしゃいでいたなと。何のことはない、思い出から来た連想だったのだ。

 

(シャルロットかぁ……アレフガルドには向かったみたいだけど)

 

 不意に気になってしまう自分は我ながら度し難い。目的のためにパーティーから去ったのは俺なのだ。

 

(そんなことより、今は着地だ)

 

 生き恥を晒す羽目になるのは、あのバハラタだけでいい。

 

「っ……さて」

 

 気負っていたからと言う訳でもないのだろう。危なげなく着地した俺は顔を上げると視線を王城にやる。

 

(船を借りるなら、お城に向かうのはほぼ確定だよな。ただ、堂々と訪問して俺の足跡が残っちゃうとそこから俺の足取りを追えてしまう訳で……)

 

 流石に船を借りるとすれば目的を告げぬ訳には行かない。

 

(まわりまわってシャルロットの耳に入ったら、きっと追ってくるだろうなぁ。一方的な離脱だったし……)

 

 一応、王城の訪問は止めてエジンベアまでの交易船がないかを探して見るという選択肢もある。ただし、存在するかどうかが不明な上、有ったとしても出航は一週間後と言われれば諦めるしかなく。

 

(乗せてくれる保証もない、となればエジンベア行きだけのために船を借りた方が確実かつ早いよね)

 

 そもそも今シャルロットはアレフガルドにいるはず、なら船を借りて即座にエジンベアに急行、かわきのつぼだけ手に入れてルーラで去れば話がシャルロットの耳に入る前に足取りをたつのは難しくなく。

 

(あまり使いたくないけど、勇者の師匠の肩書きを出すことも視野に入れとかないとな。中途半端に足跡を気にするぐらいなら、さっさと船を借りて目的果たしちゃった方が早いかも知れないし)

 

 場合によっては、逆にシャルロットが俺の足跡に気づくことを想定して伝言なりなんなりを残しておいたっていい。

 

(例えば「親父さんの兜がとある村にある」とか……)

 

 アレフガルドまで行ってしまった後では性能的に微妙かも知れないが、親父さんの兜は稀少な耐性付き兜だった気もする。

 

(滞在した村だし、エピソードだって残ってるかも知れない、それに……)

 

 オルテガは原作だと記憶を失っていた。もし、シャルロット達がゾーマの城に乗り込んで命を落とす前のオルテガと出会うことが出来たなら。

 

(そのままゆかりの地を回って親父さんの記憶を取り戻す、なんて展開も――)

 

 クシナタさん達が加わって旅の進行速度が早まっていれば、可能性はある。

 

「トロワ、ひとまず王城に行くぞ? エジンベアまでの船を借りられるか交渉してみる。はぐれるなよ?」

 

「え?」

 

 俺が手を差し出せば、トロワはきょとんとし。

 

「どうした?」

 

「あっ、あ、ああ……はっ、はい、マイ・ロード」

 

 訝しむとようやく差し出した手の意味を理解したらしい。おずおずと指の第一関節より先をぎゅっと握り。

 

(やっぱり、トロワは変わったなぁ)

 

 しみじみと思う。旧トロワだったら腕ごと持っていく勢いで抱きついて二の腕辺りを胸で挟むぐらいまでは間違いなくやらかしたであろうに。

 

(変わってくれて本当に良かった)

 

 あのままだったら、町を歩く時、周囲の視線がどうなっていたことか。

 

「もし、そこの方‥…」

 

 そんな矢先のことだった。王城に向かう俺達の背に声はかけられ。

 

「はい」

 

 応じたのは、俺ではなく、トロワ。

 

「旅のお方とお見受けしました。ぶしつけですが、アリアハンを訪れたことはおありですか?」

 

「アリアハン、ですか?」

 

「はい。先程空を飛んでこられたのをお見かけして……」

 

 オウム返しに問い返すトロワへと頷いた女性の言葉に俺達が呼び止められた理由はあった。

 

「つまり、俺達に声をかけたのは……」

 

「はい」

 

 もうスルーは難しかろうと会話に加わった俺に女性は首を縦に振って見せ。

 

「もしアリアハンへ行けるのでしたら、私とカルロスをアリアハンへ連れて行って欲しいのです」

 

 続く質問は、まぁそう言う類の物だろうなとつぶやける程度におおよそ予想出来ていた。

 

「カルロス……?」

 

 ただ一点、女性の口にした男性名が引っかかり。

 

「……どうされました、マイ・ロード?」

 

「いや、何処かで聞き覚えがあるような気が――」

 

「まぁ、失礼しました。そう言えばお願いをするのに名乗っても居ませんでしたわね。私はサブリナ、カルロスは私の恋人です」

 

「っ」

 

 思い出せそうで思い出せないむず痒さを感じていた俺は、女性の名乗りと補足でようやく思い出す。

 

「そうか、ドアの隙間に手紙を……」

 

「えっ?」

 

「あ」

 

 おもいだした ついで に おもいきり よけいなこと を くちばしっちゃったんですが、これって なかったこと に できませんかね。

 

「では、あなたはあの時の――」

 

 願いも虚しく、サブリナさんはすぐさま俺が忠告文の送り主だと気づいたのだった。

 

 




ポルトガの城下町を行く主人公。そこで出会った女性とは?

忠告分については前作参照。

次回、第九十七話「思い通りに行かないのが世の中だなんて割り切りたくないから」


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