「あの文のお陰で私達は好奇の目に曝されることもなく、希望を捨てずに生きて行くことが出来ましたわ。本当にありがとうございました」
口が滑ったのは失敗だったものの、あの時お節介をしたことは間違いではなかったと言うことだろう。
「いや、礼には及ばん。そちらを探っていた男と出くわして、その言いようが気にくわなかっただけだからな」
一応バラモスを倒して結果的に呪いを解いたのも俺とシャルロット達だが、ここで明かす必要はない。
(俺はバラモス討伐から逃げだそうとしたもんな、この世界に来たすぐ後に……)
だから、バラモスを倒し自分達にかけられた呪いを解いてくれたことへの感謝をこの女性とその恋人からされるのは、シャルロットこそ相応しいと思う。
「それで、話を戻すがアリアハンへ行きたいというのは?」
「はい、あの手紙を書かれたのでしたらご存じでしょうが、私とカルロスはバラモスに呪いをかけられておりました。ですが、勇者様が大魔王を倒して下さったお陰で、再び私のカルロスに会うことが出来たのです。ですから、そのお礼をと」
「なるほどな」
原作でもバラモスを倒した後に立ち寄るとこの女性はお礼をくれた人だった。だから、申し出自体は渡りに船でもある。
(シャルロットに会いに行くなら、伝言を託してメッセンジャーになって貰えばいいもんな)
エジンベアとイシスを経由するものの、さいごのかぎを手に入れるためにアリアハンへは立ち寄る予定もあった。
「先に幾つか寄るところがあるが、それを済ませば俺達はアリアハンへ向かうつもりでいた。移動の殆どは船旅と空の旅だが、アリアハンへの出発はだいたい一週間後の予定でいる」
「本当ですか?」
「ああ。そこで俺からは二つ案を出そう。まず俺達についてくるのが、一つめ。この場合、一つめの目的地までは船旅となるため海の魔物との戦闘が予想される。二つめはアリアハンへ飛べる魔法使い宛の紹介状を俺から受け取り、その魔法使いがこの国に立ち寄ったおり、俺の紹介状を出して連れて行って貰うと言うものだ」
この魔法使いというのは、交易網作成にも関わった軍人口調のお姉さんを含む三人だ。バラモスが倒され世界の危機は去ったとアリアハンの国王は考えているだろうが、国民救済の為に張り巡らせたとは言え、せっかく作った交易網を放置するとは考えにくい。
(多分変わらず世界を飛び回ってるだろうし、ここの支部にも寄る筈)
場合によっては支部の方に寄ってこの国に三人の内一人を呼び寄せたっていい。
(まぁ、このサブリナさんが後者を選べば、だけど)
前者を選んだ場合、カップル一組分の食料やら寝床やらが必要になるが、幸いにも船を借りる前だ。十分対応出来る。
(あとは紹介状を書く場合……ん? うん、良さそうだな)
徐に鞄の口を開け、鞄の中を確認した俺は目的の物を見つけると鞄を閉じ。
「俺達はこれから船を確保しに行く。物資の積み込みを考えると船が確保出来てもすぐ出発とはいかんだろう。返事はすぐでなくていい。ただ……前者を選ぶなら食料を始めとした物資を二人分多く用意する必要が出てくる、なるべく早くして欲しくはあるが」
「わかりましたわ。カルロスと話してきます」
「承知した。こちらはこれから城に立ち寄り、その後港に向かうつもりだ」
すんなり船を借りられるかは気になるが、ここに来る前に俺達の居たのはバハラタだ。
(スミレさん、ひょっとしてこうなる流れを見越してた、とか?)
補充した品に混じって荷物にくろこしょうが入っていたことに気づいたのは、つい先程のこと。紹介状を書くなら紙と筆記具が必要と思って鞄の中を見た時、ひとつの革袋が目に留まったのだ。
(シャルロット達はアレフガルドでこっちの世界の船は使わない。勇者サイモンも今船を必要としてるとは思えないし)
船を借りるのは、可能と俺は見た。
(そもそも船がないとかわきのつぼが手に入っても壺を使って鍵を取りに行けないし)
どちらにしても船は必須だった。
「ではな。行くぞ、トロワ」
「あ。はい、マイ・ロード」
再び手を差し出すと今度はすぐさま理解したのかトロワが差し出した俺の手を握り、俺達は歩き出す。
「しかし、船……か」
「マイ・ロード?」
「いや、以前とある岬でまだ使える座礁船を見つけたことがあってな」
修理すれば使えそうだと思ったものの、岬の側に放置してきた気もする。
(ええと、確か船は置いて、口笛で呼び寄せた魔物にモシャスで化けて竜の女王の城を目指したんだっけ?)
そんなに前の事でもないはずなのに思い出さなければいけないのは、この世界に来てから色々ありすぎたせいだろうか。
(サブリナさんと会ったことにしても予定外だった訳だし、想定外に備えるなら船を借りられなかったなんて展開も考えてあの船のことも視野に入れておかないと)
万事が万事思い通りに行くとは思えない、だが。
(未来がどうあれ、ムール君やカナメさん達には予定を伝えちゃってる。賽は投げられてるんだ、とっくに)
船が借りられず、やっぱりなと達観したような目で割切る未来はノーサンキューだが、船は多くても無駄にはならない。
(クシナタ隊で手の空いてる人がいたら回収して貰っておくのもいいかな? ん?)
計画を練りつつ歩く俺がふいに知覚したのは、一際強い潮の香り。
「潮風、か」
鳴き声に首を巡らせれば遠くに羽ばたく海鳥の姿が見えた。
アリアハン行きを希望するカップルへ主人公は選択肢を提示する。
果たしてまた同行者が増えるオチになるのか?
次回、第九十八話「城、そして」