強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第九十八話「城、そして」

「ヘイル? しょ、少々お待ち下さい」

 

 それは、ポルトガ王と謁見すべく門番の兵に声をかけた後のこと。門兵は何やら慌てた様子で城の中へと引っ込んで行き。

 

(あるぇ? なに、この はんのう)

 

 ただ謁見を申し込んだだけだと言うにしては妙な反応に俺が違和感と共に嫌な予感を覚えたのは仕方ないことだと思う。

 

(あれって、絶対何かあるよな……)

 

 とは言え、ここで立ち去っては船が借りられないし、あの兵士だって叱責されるかも知れない。

 

「マイ・ロード、どうされました?」

 

「いや、やけに慌てていたなと思ってな。その理由に心当たりが無ければ訝しみもする」

 

「確かに、慌てていましたね。ですが、マイ・ロードはこちらの人間達にとって英雄の一人でしょう? 突然の訪問が有ればああ言う態度になっておかしくないのでは?」

 

「っ、そうか。英雄……だが、バラモスを倒したのは勇者一行であって、俺個人で何かをしたのはアッサラームの件ぐらいだぞ?」

 

 サマンオサではスレッジやマシュ・ガイアーなど名と姿を偽ったし、ジパングの件は駄蛇(おろち)が公にするとも思えない。

 

(イシスの件はそれこそシャルロットとクシナタさん達の手柄だし、表立って俺が有名になるような出来事なんてあったっけ?)

 

 これで謁見を申し込んだのがシャルロットを始めとした勇者一行なら不思議には思わなかったのだが。

 

「おお、あの時の……確か、勇者様の師の方でしたな?」

 

「なっ……あ」

 

 突然かけられた声に驚きつつ振り返り、俺は自分の名が兵士に知られていた理由を悟った。

 

「確か、あの時の」

 

「ええ、私が船長です」

 

 頷いた老人と最初に出会ったのは、シャルロットと一緒に変態(カンダタ)を追いロマリアへ向かった時だったと思う。

 

(カンダタを確保するため、陸路より早い海路を使ったんだっけ)

 

 船員と比べてほっそりとした体つきだったのと腰が低かったのが印象的だった。

 

「しかし、何故ここに?」

 

「実は呼び出しの狼煙があがりましてな。ルーラを使える魔法使いは貴重ですから、船の役目がない時、こうして他国との連絡役に呼ばれる事があるのです」

 

「なるほど、理にかなっているな」

 

 航海予定がないなら船長とは言え貴重な魔法使いを遊ばせておく理由はない。

 

「だが、少し困ったことになったな。実はここに来たのも王に謁見を申し込んで船を借りるつもりでだったのだが……」

 

「おお、そうでしたか。ですが、船を借りたいと言うこともお伝えに? 私が呼ばれたのもあなた様を船に乗せよと」

 

「いや、それはあるまい。目的まで伝える前に話した門兵は城の中に入っていってしまったからな」

 

 スミレさんの様に言ってないことまでお見通しな兵士なんて事は無いだろうし。

 

(この船長さんの言うとおりだったら手間が省けたって喜ぶところなんだけど)

 

 楽観的予測は禁物だ。と言うか、それならあの門兵が引っ込んで時点で嫌な予感何てしないと思う。

 

(どうしたものか……そうだ、レムオルを――)

 

 少し考え、思いついたのは、一つの呪文を使うこと。

 

「では、私はこれで」

 

「ああ……トロワ」

 

 別れを告げた船長さんが城の中に消えたのを見計らい、俺はこの場に居るもう一人を手招きする。

 

「何か?」

 

「いや、嫌な予感がしたのでな。念のために俺は呪文で透明になって隠れておく。側にはいるつもりだから安心しろ。そして、先程の兵士が帰ってきたら忘れ物を取りに行ったとでも言って、何か俺に用事がありそうなら聞き出しておいてくれ。もし、嫌な予感が気のせいであれば、そこで機を見て合流すれば良いだけだしな」

 

 自分だけ隠れるのは男としてどうかとも思うが、二人揃って消えては何の用件だったかも解らないのでそこは許して欲しい。

 

「わかりました。お任せ下さい、マイ・ロード」

 

「すまんな。では、呪文に巻き込まない様少し離れるぞ」

 

 ここでトロワまで透明になっては意味がない。断ってから距離をとり、柱の影に移動して気配を探る。

 

(あの兵士はまだ戻って来なさそうかな)

 

 あまり長くない効果時間を鑑みるなら、呪文を唱えるのはあの兵士が戻ってくる直前が良い。

 

(……来た)

 

 幾つかの足音が近づいてくるのを感じ、詠唱を始め。

 

「レムオル」

 

 呪文が完成すると手が足が身体が消え、準備は調う。

 

「お待たせしま……あれ?」

 

「マイ・ロードでしたら忘れ物を取りに戻りました」

 

 ほぼ想定内のリアクションで周囲を見回す門兵に指示通りの内容を伝え。

 

「そ、そうでしたか。それで、いつお戻りに?」

 

「それ程かからないとは思います。思いますが、そちらは?」

 

 門兵とやりとりをしつつちらりと門兵の横を見た。

 

「私はアリアハン国王の使いです。ヘイル様がいらっしゃったと聞いて同行させて頂いたのですよ。あなたは……トロワ様ですね? 紫のローブを着てヘイル様に従う従者が居ると言うことは勇者様から伺っております。しかし、探しましたぞ。あなた方が姿を消したことで王もシャルロット様もかなり心をお痛めになり、こうして我々使いを各国に派遣、行方を捜していたのです」

 

 問いかけに応じた男性の言葉はある意味で爆弾だった。

 




実は指名手配されてたというオチでした。

どうする、主人公?

次回、第九十九話「強いられる選択」
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