強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百二話「北へ」

「おはようございます、マイ・ロード。あの、私……マイ・ロードに何か失礼なことをしませんでしたでしょうか?」

 

 目を覚ましたトロワの第一声に俺は心の中で胸をなで下ろした。尋ねてくると言うことは、しっかり覚えていないか記憶にないと言うことだろうし、旧トロワに戻っているんだったら、失礼なんて言葉は出てこなかったと思う。

 

「おはようございます、マイ・ロード。先程はお楽しみでしたね? いっ、いえ、これからお楽しみしてくれても全然構いませんよ? と言うか、せっかくの二人きりですし、全力で楽しみましょう! え、お昼の事は覚えていないのですかって? いやですねぇ、マイ・ロード。覚えてるに決まってるじゃありませんか。マイ・ロードが初めてなのできっちり責任を……あの、マイ・ロード? 何故、手を握ったり開いたりしていらっしゃあぎっ、ま、マイ・ロード鷲掴みにするなら頭じゃなあ、あ、アーッ」

 

 何故か我慢の限界が来てアイアンクローをかけるところまで想像してしまったが、旧トロワなら反応は概ねそんな感じだろう。

 

「気にすることはない……と言いたいところだが、当面酒は控えた方が良いだろうな。甲板に出てみれば解ると思うが、もう今日は日も落ちた」

 

「えっ? あ……申し訳ありません」

 

 俺としても旧トロワの相手は疲れるが、酔った間に粗相をやらかしたのではとビクビクしてるきれいなトロワをいじめるつもりはない。だからこそ、問題は酔って長時間寝てしまったことにして何かやらかしたと言う部分には全く触れなかったのだが、きれいなトロワとしては酔いつぶれて寝続けて頂けでも駄目だったらしい。

 

「気にするな。酒を勧めたのは俺だ。どうしても気になるというなら、寝た分俺が寝ている時の番を頼む。俺とて眠らぬ訳にはいかんだろうし、夕方に聖水を撒いているから魔物と遭遇することもない筈だが万が一のこともある」

 

「で、ですが……」

 

「何かあった時起こしてくれればいい。従者のお前だからこそ頼めることでもあるんだが……嫌か?」

 

「マイ・ロード……はい」

 

 少々主としての立場を利用した言い分になってしまったのは否めない、否めないが、何とかその条件でトロワを頷かせることに成功し。

 

「なら、話はここで終わりだ。……外に出るぞ」

 

「外に……ですか?」

 

「ああ、今日は空が晴れて星がよく見えると聞いたのでな。たまには星を眺めてくつろぐのも悪くあるまい?」

 

 怪訝な顔をするトロワへ首肯を返しつつ、俺は折りたたまれた毛布を拾い上げた。

 

(旧トロワの変態行動もひょっとしたらトロワが色々溜め込んでることの裏返しだったのかも知れないし)

 

 専門家でもない俺に正しいケアの仕方なんて解らないが、それでも、出来ることを考えて動きたい。迫るシャルロット達との再会に備えて、説明なり何なりを考える必要もある。トロワだけに構っても居られないが、あいつを疎かにして良い理由にもならないのだから。

 

「旅の最終目的はまだ先だ。養える時に英気を養っておかねば、ならん」

 

「……ありがとうございます」

 

「何のことだ?」

 

 ただ、一つ。気遣いが少々あからさまだったのかも知れない。

 

「まあ、いい。先に行くぞ?」

 

 照れ隠しにそっぽを向いて客室を出ると、船の揺れに合わせて揺れるカンテラの明かりの中、廊下を階段へと進む。

 

(……気晴らしになってくれると良いけど)

 

 今のところトロワに頼んでいるのは、ムール君の下着作りと夜番のみ。

 

(けど、あのきれいなトロワにムール君の下着作りは……なぁ)

 

 ムール君への奥義伝授の時も恥ずかしがってた様な気がするし、その点を鑑みればある意味酷いセクハラととられても弁解の仕様がない。トロワでなければ作れないという理由はあるにせよ。

 

(トロワだけが使える技術……か)

 

 トロワの負担を減らすなら、あの劣化番チート袋作成技術を扱える人材の確保が急務だが。

 

(あんなモノを生産する技術が広まったらやばいよな)

 

 軍事転用すれば物資を簡単に運搬できるし、商業面で利用でも隣国から安い作物を膨大な量運び込んで売られて殆どの農家が失業したなんて悲劇も起こりかねない。

 

(シャルロットのふくろと同じモノがアリアハンで使われていないところからすると、あれは偶発的に出来た一つ限りの品なんだろうけど)

 

 だからこそ、劣化品でも生産出来る技術を任せるなら相手は選ぶ必要が出てくる。

 

(信用面を考えればクシナタ隊がベスト。ただ、トロワにさせるのは気が引けるモノを任せるなら男の方がいいんだよなぁ)

 

 信用出来る、男。

 

(そんな しりあい、おれ に いましたっけ?)

 

 国に繋がっていると言う意味で、ルイーダの酒場に居たヒャッキという武闘家や、スレッジとして修行をつけた交易網補助の老魔法使いや今乗っている船の乗員は消える。サマンオサの戦士ブレナンや勇者サイモン、シャルロットの魔物使いとしての師匠の人なんかも駄目だろう。

 

(ムール君の村で別れたオッサンは、何処にいるか不明。残ったのは――)

 

 シャルロット達に同行してるアランの元オッサンとおろちの婿に収まった元イシス王族のマリクくらいか。

 

(他にも居なかったかなぁ? そもそも、信用出来て男だとしても、アイテム作りへの適正があるか不明だし)

 

 トロワへの負荷を考えると、早めにつけてやりたいところだが、俺達の旅に同行可能な心当たりは浮かばず。

 

「あ、マイ・ロード、流れ星ですよ」

 

「ん?」

 

 トロワの声で我に返れば、いつの間にか甲板に出ていた俺は毛布を羽織り星空を見上げていた。

 

「ああ、本当だな」

 

 知覚出来たのは尾の部分だけだったが、すぐさま別の流星が夜空を横切り。こうしている間も船は動いている、北へ、目的地エジンベアへと向かって。

 




男の知り合いが少ないことを今更認識した主人公。

次回、第百三話「顔合わせ」
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