強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第九話「まさかまた女の子の魔物とか思ってませんよね?」

 

(こう、何か予感すると大概2パターンのどっちかに行き着くよな)

 

 例えば胸が大きくて耳の尖った褐色肌の魔物なんて早々出くわすはずが無いと思ったとしよう。

 

(エピちゃんとその姉……あぁ、元親衛隊のエビルマージも該当するかな。元親衛隊のお姉さん達は胸の大きさには個人差があっ――あー、それは良いとして該当者がけっこう居る訳だ)

 

 彼方からもの凄い殺気をぶつけられた気がしたので怖くなって端折ったが、ともあれそんな心当たりの皆さんと俺が出会ったのは、そもそもエビルマージ達が配属されたバラモスの居城に乗り込んだからに他ならない。

 

(覆面とローブを身につけた魔物が自称とは言え大魔王の城にいるのは納得出来る者があるけど、ここはとある村と海を繋ぐただの抜け道、バラモス麾下のエビルマージが守るような重要施設とは思えない)

 

 よって、胸が大きくて耳の尖った褐色肌の魔物に出くわす理由はほぼゼロだ。

 

(だから、女性の魔物が仲間になってこれ以上ややこしい事にはならないと、俺が角の向こうを覗き込むと――)

 

 最初に見えたのは、褐色の肌。たゆんと揺れる胸はトロワのそれを大きさで凌駕し、しかも恐ろしいことに片方だけとは言えまるで隠されて居らず、尖った耳の先が、ピクンとはねる。

 

(そして、髪の毛一本無い禿頭と胸囲をぶっちぎって更に太いウェスト、短い足……どうみても とろる です。 ありがとう ございました)

 

 これ が げんじつ だ。

 

(かわいい おんな の こ だとでも おもい ましたか? 世の中そんなに甘く……いや、女の子だったとしても面倒なことになるかも知れないからね?)

 

 きっと俺に散々逆セクハラかましてくれる変態娘とかがいい例だ。

 

(まぁ、顔面視覚的ダメージの褐色不細工巨人はこの辺に棲息していたはずだから居ても不思議はないとして……)

 

 問題は、ここに棲息しているのがあの魔物だけなのかという点だろう。

 

(オッサンが船を先に帰すって考えたぐらいだから、あれは最初の一体と見た方が良いんだろうけど)

 

 あのデカブツだけなら問題ない。

 

(力押しの脳筋だけしか居ないならいいんだ。ただ、状態異常攻撃とかそう言う厄介なのが混じってた場合はなぁ)

 

 名目とはいえわざわざ斥候に出たのだから、厄介な魔物が居ないかどうかは調べておきたい。

 

(一旦、戻るか)

 

 俺はチェーンクロスの柄から放した手でハンドサインを送り、後退を伝えると、サインを伝えた手でそのままトロワの手を取る。

 

(逆セクハラはさせないっ)

 

 手を捕まえ、引っ張ってしまえば背中に凶悪兵器を押しつけたりは出来ないし、早足で進めばこちらの腕を抱き込む余裕もあるまい。

 

(後は妙な誤解さえさせなければ、問題なしだ)

 

 これで、一連の行動を斜め上に誤解されたらどうしようもないが、きっとそんなことは無いと思う。

 

(いや、させない)

 

 何故なら人には言葉がある、思いを口にすれば良いのだ。

 

「トロワ、聞きたいことがある。質問にはイエスかノーで答えろ」

 

「はい、マイ・ロード」

 

「っ、まあいい」

 

 応じる変態娘にそこはイエスだろと一瞬ツッコミかけたが、敢えて流す。

 

「お前ならあのトロルと話せるか? バラモスが倒されてからまだ一週間も経たん。同時にお前が離反したことがバラモス達に知られた日からもだが、報告が上がったことがないと言うことはここは重要と見なされていなかったのだろう? 最新の情報が届いていなければそれに乗じて仲間のふりをして情報を盗み出すのは効果的だと思うのだが」

 

 トロワの離反が知られていないという前提はあくまで俺の願望。その一点でも俺より元々あちら側だったトロワの方が正しい判断を下せるだろう。

 

「最初の問いはイエスです。ただ、マイロードの仰りたいことは解りますが、報告にさえ上がらない僻地だから私の離反を知らないと決めつけるのは危険かと。よって後者は条件付きならばイエスとさせて頂きます」

 

「ふむ、条件付きとは?」

 

「離反が知られている可能性を考慮し、マイ・ロードにはこちらの接触を利用して油断を誘い私にトロルや他の魔物が襲いかかってきた時の備えとなって頂きたいのです。下僕が主に守って欲しいと言うなどとんでもないことだとは思いますが――」

 

「離反を知っていて逆手に取ろうとした場合、注意がお前に向く。こちらから見れば隙だらけになると言うことか、良かろう。そも、言い出したのはこちらだからな」

 

 こうして俺はトロワと話を纏めると、トロルの居た曲がり角の手前まで再び進んだ。

 

(ふぅ、手間取ったけどいよいよかぁ)

 

 あとは気配と足音を殺したまま壁際を迂回してトロルの背後へ回り込み、成り行きを見守るのみ。

 

「ふん、随分暇そうだな?」

 

「ほぇ? そ、そんのお姿は?!」

 

「バラモス様より軍師の地位を頂いたアークマージのトロワだ。お前もバラモス様のお命を狙おうと人間共が何やら画策していることぐらいは聞いていよう?」

 

 微妙に懐かしい傲慢な態度の変態娘を見て一瞬棒立ちした禿頭巨人にトロワは名乗るなり質問を被せ。

 

「へ、へい」

 

「だが、報告さえこちらに上がってこなかった僻地だ。先に最新の情勢を教えておいた方が良かろう。お前は最近の事を何処まで知っている?」

 

「わ、わかりましただ。おでが知ってんのは――」

 

 鮮やかな手並みで情報を引き出して行く。

 

(うわぁ。変態でも元軍師ってことか)

 

 俺の前ではだいたい残念痴女でしかない事を鑑みると微妙に複雑でもあった。

 





次回、第十話「トから始まる三文字の」

トロワもトロルも三文字中二文字は同じなんですよね。

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