強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百四話「到着」

「島が見えて来やしたぜーっ!」

 

 マストに設けられた見張り台で船員が叫んだ。

 

「いよいよか……」

 

 聖水を撒き魔物を退けたが故に航海は何事もなく平穏そのものだった。だからこそ、シャルロットと会ったらどう話そうかを考える時間も充分持て、今、俺は甲板にいる。

 

(こいつも初お目見え……かぁ)

 

 懐に忍ばせるは、シャルロットに語る言葉が思いつかず、現実逃避半分で作成したエジンベア潜入用秘密兵器。

 

「トロワ、支度をしておけ」

 

「はい、マイ・ロード」

 

 従者を一瞥して声を投げると振り返ることはせず、船首へと歩み寄る。

 

「エジンベア、か」

 

 城は鬱蒼と茂る森林の向こうに有るはずだが、流石にまだ距離が遠く、かろうじて見えるのは陸地とそれを覆う森林の濃い緑のみ。

 

(原作じゃお店の類は全く無かったはずだから、盗るモノ盗ってさっさと退散したっけ)

 

 異国人を田舎者と馬鹿にする気風の人間に溢れてる国に長居しても精神衛生的に良い事なんて無いし、それが正解だったのだろうけど。

 

(一つの国に店が一つもないなんて、常識的に考えてあり得ない)

 

 だから、おそらくエジンベアにだって店はあると思う。

 

(興味がないと言うと嘘になる、けどかわきのつぼを忍び込んで盗み出す以上、長居は禁物だからなぁ)

 

 透明化呪文だってあるし、見つかるつもりはない。

 

(それに、予想もしてなかったロクでもないアクシデントに巻き込まれる可能性だってある。さっさと目的果たして撤収が正解だよね、きっと)

 

 滞在時間が短くなればなる程変なハプニングに見舞われる確率は減少するはずだ。

 

「そろそろ着きやす。接岸用の小舟に乗り込んで下せぇ」

 

「ああ。世話をかける。トロワ」

 

「はい」

 

 船員の声に頷き、目礼で感謝を伝えた俺はトロワと共にそのままつり下げられた小舟へと乗り込み。

 

「そいじゃ、船を海面まで降ろしやすぜ」

 

「頼む。……トロワ、掴まるか?」

 

 船員に応じつつトロワへ二の腕を示して問う。

 

「マイ・ロード?」

 

「勘違いするな。倒れてくると問題だからな」

 

 きれいなトロワになっている今、意図しての逆セクハラは考えにくいが、ラッキー何とかと俗に呼ばれる事故は起こりうる。

 

(よろけたトロワとハプニングをやらかす寄りはよっぽど良い、筈)

 

 たとえ、それで笑顔になったトロワと準密着するようなことになったとしても。

 

「旦那もすみに置けやせんねぇ」

 

 とかニヤニヤしつつ寝言を言う船員に見られても、問題はない。

 

「旦那ぁ、お待たせしやした。深さからするとこいつが寄れるのはこれが精一杯でさぁ」

 

「そうか。さて、と」

 

 何とも言えない気持ちと戦いつつ小舟に揺られること暫し、船員に呼ばれた俺は縁をまたぎ、くるぶし辺りまでを海水で濡らしつつ、浅い海底へと降り立ち、俺は小舟に向かって背を向けたまま口を開いた。

 

「ブーツが浸水しないなら許容範囲内、か。トロワ、背中に乗れ。お前のローブだと間違いなく裾が濡れる」

 

「ま、マイ・ロード、そんな……」

 

「早くしろ。ローブの裾を濡らしたまま入国する訳にも行くまい」

 

 忍び込むのにローブの端が濡れているなど問題外。俺としてもトロワを背負ったらどうなるかは解っていたし、掴まれとか言った意味だってなくなってしまう気もしたが、これは仕方ないことなのだ。

 

(おのれ、せかいのあくい)

 

 地味に嫌がらせをしてくれる。

 

「あ、あのマイ・ロード……重くないですか?」

 

「何がだ? この程度トレーニング用の重りとしても軽すぎる」

 

 恐縮するトロワに減らず口で応じつつ、背中を圧迫する柔らかさから意識を逸らし。

 

「それよりも、森に入ったら着替えるぞ? 聖水の効果が残っていれば魔物は寄って来んからな」

 

 前方に広がる森を天然の更衣室にすると俺はもう決めていた。

 

「気づかれるつもりはないが、万が一のこともある。偽名と変装は必須だ」

 

 トロワはあの自己主張が激しすぎる胸とお尻を例の袋下着で誤魔化して貰う必要があるだろうが。

 

(って、俺のアホ。意識逸らそうとしてるのに、思い出してどーする)

 

 再び認識してしまった柔らかさから意識を引きはがそうと苦心しつつ、足を動かし、浅い海を抜ける。

 

「ふぅ、もういいぞ?」

 

「ありがとうございます、マイ・ロード」

 

 立ちやすいように腰を落としてしゃがみ込めば背中から降ってきたのは、感謝の言葉。

 

「違う」

 

 否定しつつ懐から取り出したのは、マントと一体化したお手製の覆面。

 

「え?」

 

「今より私は謎の大泥棒、ドーサ・ルマーノなのであーる」

 

 マシュ・ガイアー、怪傑エロジジイに継ぐ謎の人物となった俺は得意げに胸を反らす。

 

「し、失礼しましたドーサ様」

 

「うむ。今日の獲物はかわきのつぼ。かってスーの村から奪われし一品、つまるところ相手も犯罪者、盗み返されても文句は言えぬのであーる」

 

 そして、今回俺はかわきのつぼ以外に手を出す気はない。原作では、王の居室でしゃれたスーツが手に入ったような気もするが、そんな場所まで侵入するのも骨だし、俺の第六感が行くなと告げている。

 

「まぁ、そういう訳であるからして……早く森まで行ってさっさと着替えるのであーる」

 

 泥棒コンビが揃わねば、仕事は始められないのだから。

 




次回、第百五話「謎の男」

ちなみに、今回の偽名の由来は、ゾーマ。

逆にするとマ-ゾなので、そこからサドとノーマルを逆にして伸ばし棒をつけて組み合わせてみたのです。

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