強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百六話「not千年」

「……まぁ、そんなことだろうと思ったのであーる」

 

 階段を下りた先に並んでいたのは、等間隔に並ぶ鉄格子だった。

 

(うん、地下って言えば牢屋だよなぁ)

 

 原作のエジンベアにはなかったような気もするが、人が多く暮らしていれば犯罪も起こる。施設としてはあって当然なのだろう。

 

(一つ解ったのは、地下へ降りる階段だからって正解とは限らないってことかぁ)

 

 牢の一つにシルクハットを被って片眼鏡をつけたオッサンがいたが、見なかったことにして階段を戻る。

 

「いきなりアタリなんてそう都合の良い展開はないであーるな。しかし……」

 

 先程はぶつかり、意思疎通にも声を誰かに聞かれていないか注意しなくてはいけないことを鑑みると、思う。

 

(ぶっちゃけ、これって俺一人の方が話は早かったよね?)

 

 手分けして探せると言う二人居る利点は、俺の側に侍るというトロワの誓いによって潰れ。透明になっているが故に、お互いを認識せずぶつかるという危険性だけが残った。一応、手を繋げばぶつかる危険だけは減少させられるものの。

 

(どう かんがえて も しっぱいです。ありがとうございました)

 

 もう、背負っていった方が早い気すらしてしまって頭が痛い。

 

(足手まといだって悟ったら自分を責めるだろうし……うん、気づかせないようにしないと)

 

 さっさと目的の地下室を見つけ、回収してしまおう。

 

「とりあえず次の部屋を見てみるであーるが、そろそろ呪文が切れる頃であーる。そこで質問であーる。このまま呪文をかけ直すのと、見つかりそうになった時、人の目があるところを通らざるを得ない時だけ呪文に頼るののどっちが良いであーる?」

 

 今のところ遭遇したエジンベア人はまだ五人以下。そのうち呪文で透明化している必要性があったのは門兵だけだ。

 

(透明になっていなければ、ぶつかることもない)

 

 そして気配の読める俺が居るから潜入中にエジンベア人とばったり鉢合わせるなんて事もない。

 

「ドーサ様、ドーサ様はやはり、かけない方をお望みですか?」

 

「っ」

 

 ただ、この段階で聞いたのはあからさますぎたか。トロワは俺が質問した理由を半ば察したらしい。

 

「姿が見えればハンドサインが使えると言う利点があーる。城ともなれば兵も巡回している筈であーる」

 

 声を出さずにやりとり出来るのは大きいが、何よりも。

 

「ポーズが披露出来るのであーる」

 

 鳩尾の前辺りを横にした左腕で隠しつつその上に右肘を乗せ、自らの顔を掴む披露出来ますのポーズを俺はとる。

 

「ならば、ドーサ様の良いように」

 

「ありがとうであーる」

 

 結果としてトロワの好意に甘え、姿を消さずに向かった次の部屋は武器庫。

 

「ここも違うようであーる」

 

 立てかけてある槍と並ぶ鎧を見てすぐに俺は回れ右をし。

 

「これは……」

 

 覗き込んだ隣の部屋にあったのは地下へと降りる階段だった。地下牢へと続く階段のあった部屋とほぼ同じ構造になっているからか、降りた先がまたあの地下牢なのではと言う錯覚を覚えるが、城の廊下に無限ループなんて防衛機能が備わっているとも思えない。

 

「とりあえず降りてみるのであーる」

 

 降りた先が、目的地ならかわきのつぼ入手が大きく近づく。

 

「さて」

 

 何時までも降りてみるのポーズをしている訳にはいかなかった。右足で一段下りるのポーズと左足で一段下りるのポーズを繰り返し、俺は階段を下りた。

 

「っ、これは……」

 

 見えてくるのは下方を太らせた十字架の様な形に部屋の中を仕切る低い塀と、三つの丸い岩。仕切りの中に水を湛えた場所を三つ持つその地形に覚えたのは、既視感。

 

「ビンゴ、であーる」

 

 それもそのはず、おそらくはここが原作にもあったかわきのつぼのある仕掛け(パズル)部屋。

 

「ドーサ様?」

 

「あそこがかわきのつぼのある部屋なのであーる。部屋にある岩と仕切りの奥に有る色の違う床を見る限り、多分あそこに岩を置けば何かが起こる仕組みだと思われるのであーる」

 

 カンニング、と言う無かれ。こんな何かありますよと全力で叫んでるような部屋があって奥に扉があるなら、パズルを解けば扉が開く事ぐらい誰でも予想出来ると思う。

 

「問題は、水の張られた場所。あそこに岩を落としてしまっては、水の中から持ち上」

 

「あ、あの、ドーサ様。私が凍らせましょうか?」

 

「えっ」

 

 ああ、そういえば あーくまーじ って、こおりけい の ぶれすこうげき が できたんでしたっけ。

 

(なんだろ、この敗北感)

 

 ぐぎぎ、ぱずる とは いったい。

 

「……ふぅ、お待たせしました、ドーサ様。念入りに凍らせておいたので大丈夫だと思います」

 

「そ、それはご苦労様なのであーる」

 

 まさか、この仕掛けの考案者もこんな反則で仕掛けを攻略されるとは欠片も思っていなかったんじゃないだろうか。

 

(まぁ、俺も何だけどね。せっかく用意してきた筆記用具が無駄に終わったなぁ)

 

 岩を押す自分の視線がここではない遠くを見てしまう事を禁じえずも、丸岩を運ぶ作業は続き。最後の岩を動かし終えたのに合わせ、扉が開く。

 

「ドーサ様、扉が開きました」

 

「うむ、我らの勝利であーる」

 

 細かいことは考えない。今はかわきのつぼを手に入れることが出来そうな喜びを噛み締めて、俺はポーズをとった。決して現実逃避ではない。

 

 




原作との差異をものともせず、無事仕掛け部屋を見つけた主人公。

トロワの機転(?)によって仕掛けを動かし、扉は開かれた。

次回、第百七話「おたから」


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