強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百七話「おたから」

「いざ」

 

 開いた扉の向こうへと踏み込む時が来たが、油断する気はサラサラ無かった。

 

(あれだけ手の込んだ仕掛けだったんだ……)

 

 納められているのが、原作通り目的の品(かわきのつぼ)だけとは思えない。

 

(ほしふるうでわは、そのままだった気もするけど、あっちは入り口こそ解りづらくしてあったけどこんなパズル無かったし……)

 

 何より、ここのところこの手のパターンにはロクでもないおまけがついてきていた。

 

(つぼと一緒にがーたーべるとが仕舞ってあったとしたって、「ああ、やっぱり」と思えてしまうと言うか……)

 

 これまでがこれまでだから、警戒してしまうのだ。罠がないかと。

 

(罠はだいたい気を抜いた直後に牙を剥く)

 

 別段せかいのあくいが差し向けた罠だけの話ではない。

 

(これだけ手の込んだ部屋だもんな)

 

 宝物庫として利用し、収蔵品を増やした上で防犯用の罠が仕掛けられていたって納得はできるのだ。

 

(生き物の気配は無し、当然か。仕掛けで施錠された内側なんだから)

 

 続いて罠の有無を調べてみるが細長い通路には何もなく。

 

「罠はなさそうであーるな」

 

 大丈夫そうであることをポーズによってトロワに訴えると、そのまま通路を奥へと進み。

 

「ドーサ様、あれが」

 

「うむ。これだけ手の込んだ造りなのに宝箱一個とは理解に苦しむであーるが、間違いないのであーる」

 

 辿り着いた先の小部屋にあったのはかわきのつぼが入っているのであろう箱のみ。

 

(何かある、と思わせておいて原作通りでこっちの気力を削ぐトラップが設置されていた、ということかな)

 

 うん、むり が あるのは わかってる。

 

(深く考えすぎたかぁ)

 

 まぁ、こういう事もあるだろう。

 

「では、私が箱を開けてみるから後方の警戒を頼むであーる」

 

 気を取り直し、照れ隠しにトロワへ後ろを向いて貰って箱へと近づく。

 

(鍵のかかってる様子はなし、見たところ罠もなさそう……よし)

 

 ここまで来れば逡巡する理由は皆無。思い切って箱を開け。

 

「え゛」

 

 飛び込んできた肌色に俺は硬直する。

 

(なに、これ?)

 

 思わず問うが、わかる。たぶんかわきのつぼだ。この箱に入っているのは間違いないはずであり、シルエットだけなら攻略本で見たイラストそのものだった。ただ、問題の壺は裸のお姉さんが描かれた紙でくるまれており。

 

(かわきのつぼ と いうか、ひわいのつぼ なんですけど)

 

 解っている、壊れやすいモノを保護するために紙で包むというのは、祖父母の家で仕舞ってあった食器一式が新聞紙にくるまれていたから目的は同じだろうと理解出来る。

 

(けど、なぜ こんなかみ で それ を やったんですか?)

 

 罠がないかと思ったら、最後の最後でこれだよ。

 

(おのれ、せかいのあくい……って、それはそれとして、こんなのトロワに見せられないな。壺は鞄にしまうとして、包んでた紙だけは箱に戻しておくかぁ)

 

 個人的には燃やしてしまいたいところだが、火をつけたことにトロワが気づけば、焼却処分した理由を問われる。やむを得なかった。

 

「待たせたであ-る、壺は手に入れた。さ、階段を上って部屋の入り口まで戻るであーる」

 

 乱暴に剥がした紙を丸めて箱に放り込んだ俺は、トロワの方に向き直り歩き出す。

 

(透明化呪文は部屋の入り口で唱えれば外に出るまで保つ筈)

 

 帰りはいちいち部屋を確認しつつ進まなくても良いのだから。

 

(壺を包んでた紙とか、地下牢に居たシルクハットの人とかのことは、もう忘れよう)

 

 壺さえ手に入れば、用はない。

 

(ここを出たら、イシスに行って……ムール君達無茶してないといいんだけど)

 

 発泡型潰れ生き物(はぐれメタル)との模擬戦は、効果抜群だからこそタチが悪い。

 

(やればやる程強くなれるからなぁ)

 

 しかも野生の同種を戦って倒すのとは違い、逃げられるという形で失敗することがない。

 

(やれば確実に強くなれる……もし、そんな修行法が現実に有ったなら――)

 

 ムール君にしろ、クシナタさん以外のジパング出身なクシナタ隊のお姉さん達にしろ、一度魔物に殺されているという共通点がある。

 

(「二度と同じ目に遭わないためにも」と強さを求める。充分あり得るよな)

 

 俺にも目的がある、仲間が強くなってくれることはもちろん嬉しいが、ムール君も一部分を除けば女性だし、他の面々だって全員女性なのだ。

 

「ドーサ様?」

 

「何でもない……いや、イシスの皆の事が少し気になったのであーる」

 

 訝しそうな顔をしたトロワに頭を振ってから、俺はレムオルの呪文を唱え始め。

 

「レムオル!」

 

「あっ」

 

 呪文の完成と同時にトロワの手を握る。

 

「これではぐれないし、ぶつかる危険性も半減なのであーる」

 

 だから、他意はない。

 

(トロワだって、こうしょっちゅう手を繋いでれば慣れがあるだろうしな。俺だけドキドキしてたらアレだし……あるぇ?)

 

 自分に言い聞かせようとしてふと、疑問がわいた。

 

(何故、ドキドキする?)

 

 エジンベアの兵士に見つかるかも知れないという緊張感からか。

 

(異性と手を繋ぐから……ってのは、ないな)

 

 手を繋ぐどころじゃ無いことをやって来たというか、やらされたことが有るのに今更手を繋いだだけでドキドキするというのは、おかしい。

 

(うーん)

 

 首を捻ってみたが、結局答えは出てこなかった。

 

 




まさか、恋?

次回、第百八話「意外な答え」

あ、風土病ってオチではありませんので、ご安心を。
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