強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百九話「主人公、煮え切らない」

「はぁ」

 

 思えば、トロワにも頼りっぱなしなのだ。

 

(ムール君の村でのトラップ、浄化装置にムール君の下着。これだけやって貰ってるもんなぁ)

 

 しかも、下着の件は現在進行形で作ってもらっている最中でもある。

 

(これだけやって貰っておいて、俺がしたのって……村で悪霊を引っぺがして倒したぐらいだし)

 

 ポルトガでの食事は後のことを考えればノーカウントとせざるを得ず、従者と主という関係とはいえ、せめて何かお礼をすべきだと思う。

 

(ただ、なぁ……旧トロワならおばちゃんにモシャスで変身して頭を撫でてやるとか喜びそうなことは簡単に思いつくんだけど……)

 

 きれいなトロワは何をすれば喜んでくれるのかが、わからない。

 

(おまけに今の俺にとってトロワって劇物なんだよ)

 

 人目を惹かないようにつけていた袋下着を外したトロワは、既におばちゃん譲りの出るところだけが酷く自己主張する体型に戻っている。

 

(きにするな って いうほう が むりですよ、これ)

 

 話しかけて、視界にあの質量兵器が入ってしまったら目をそらせる自信はなく、だからこそ話しかけ辛かった。

 

(せめてもの救いは今のトロワが旧トロワじゃないこ……あれ? 前にもそんなことかんがえなかったっけ?)

 

 いけない、思考がループしている気がする。

 

(状況を整理しよう。「俺はこれからイシスに行き、他の面々と合流し、ムール君が充分な強さを得ていれば奥義を伝授したい」)

 

 だが、かわきのつぼに巻かれていたえっちな紙の影響を受けたために、奥義の伝授が出来るか怪しく。

 

(「紙の効果が一時的なモノか永久効果なのかもわからず、女性の多いメンバーとの旅に支障をきたすかも知れない」と参ってた訳だ)

 

 だから、状況打破のためにトロワを頼りたかった。

 

(うん、破綻はしてないはず。ただ、再確認して思ったこともある)

 

 トロワを頼るにしても、方法は色々あるのではないかと。

 

(例えば、「下着作り大変そうだな。気分転換に他のモノを作ってみるのはどうだ? 身につけた者の性格を変えるアクセサリーとかな」って、打ち明けはせず問題の一時しのぎを図るとか)

 

 不誠実この上ない方法だが、全部を打ち明けてトロワが実物を見ないとどうにもならないなんて言い出せば、最悪のケースへ発展する恐れがある。

 

(そう、トロワまでこの症状にかかって微せくしーぎゃるるって言う、ね)

 

 下手をすれば旧トロワよりも危険な存在が誕生してしまうかも知れないのだ。だったら、あの紙切れに近寄らせない為にも事実を隠蔽するというのは、間違っていないと思う。

 

(トロワの実力なら性格矯正装飾品の一つや二つ作れてもおかしくはないし)

 

 嘘をつくことには良心の呵責を感じるが、あんなロクでもない罠の犠牲者なんて俺一人で充分なのだ。

 

(だから、問題は……)

 

 トロワのたゆんとした何かだろう。

 

(結論は出たって言うのに……)

 

 そちらを見てしまえば、半自動的に目がセクハラしてしまうのではと思うと用件が切り出せず、ただ時間だけが過ぎて行く。

 

(拙い……イシスまでは船旅じゃないんだ。トロワの裁縫が終わったら――)

 

 ルーラの呪文でイシスへと旅立つ事になるだろう。かわきのつぼは手に入れた。俺が打ち明けていない問題以外、出発延期する理由なんてないのだ。

 

(うぐっ)

 

 何ともどかしいことか。本当に歯がゆいと思う、だから。

 

「……トロワ」

 

 まごついた末、気が付くと俺は当人の方を見ず、名を口にしていた。

 

「マイ・ロード? 何か――」

 

 そして、それはしっかりトロワの耳に届いていており。

 

「作業中に、こんなタイミングで言うのもどうかと思ったがな……その」

 

 もはや引き返すことは出来なかった。俺に出来たのは、視線さえ向けられないまま言葉を紡ぎ。

 

「お、俺のために「旦那、いやすかい?」を作っ、なっ?」

 

「えっ」

 

 何とか用件を伝えることだけの筈だったが、ノックと共に扉の向こうから投げられた声にそれまでが潰される。

 

(なにこれ、よりによって なぜ このたいみんぐ で だいさんしゃ が やってきますか)

 

 せかいのあくいか、せかいのあくいの仕業か。

 

「どうやら、いらっしゃるようで。船長から言伝てでさぁ。旦那達がルーラで飛び立ち次第、当船も後を追うそうですぜ」

 

「わ、解った。こちらはトロワの作業が終わったら甲板に出て呪文で飛ぶと伝えてくれ。……はぁ」

 

 最悪の間だったが伝令の船員に罪はない。ドアの向こうへ返事をすると、思わず嘆息する。

 

「まっ、マイ・ロード。あの、さっきのは……」

 

「あ、ああ。すまんな。間が悪かったというか……」

 

 肝心の所で邪魔をされたというか。

 

「下着が出来たらもう一度話をしよう」

 

「は、はい」

 

 すぐさま仕切り直す気力はなく、ただ一旦話を打ち切るのが精一杯であり。

 

(流石に下着はもう良いからなんて言えないしなぁ)

 

 先延ばしにして状況が良くなる事なんてまず無いとは思う。

 

(いちおう、こうして時間が経過する内にあの紙切れの効果が切れるって可能性もゼロじゃない、ゼロじゃないけど)

 

 ただただそれを信じ、時が解決してくれると思えるほど楽観的にもなれなかったのだ。

 

 




紙切れの効果に苛まれつつも、主人公は言う。

「俺の為に毎日飯を作ってくれ」

 あれ? 間違えたかな?

次回、第百十話「結局」
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