「もう、船があんなに小さく……」
トロワがポツリと漏らした理由はわかる。
(気になってるんだろうな、俺が言いかけて有耶無耶になった一件が)
だが、従者の身で主に直接聞くのはおこがましいと、全然関係ない独り言を口にしたのだろう。
(いや、全く関係ないとも言えないか)
船が小さい、つまり距離が開いたのでもう内緒話しても大丈夫ですよ、ともとれる。
「そう、だな。流石にこの距離ならあの船員も邪魔はしてこないだろう」
だから、話をするなら丁度良い機会だった。
「まず、注意をしておく」
最初に話すことは、ほぼ決まっている。
「旅の仲間でクシナタ隊の一員でもあるスミレだが、からかい甲斐のある相手を見つけると、玩具にする悪癖がある。俺も散々からかわれたが、そう言う意味で、これから話すことをスミレにかぎつけられると非情に拙い。よって、他言厳禁と心得ておけ」
「え、あの方が? ……わかりました」
「すまんな」
全てを話すか、一部を話すか、どちらにしてもスミレさんの事を説明して注意喚起と口止めをしておくのは外せず。
(問題はここからだ)
話す順番、どの段階まで打ち明けるか。
(無難なところからなら、まずイシスでの行動、かな)
お礼はどのみちしないと行けないし、スミレさんの事に触れた理由にもなる。
(続いて、さっき邪魔された会話のこと)
作って欲しいと言う部分は聞かれていると思うので、何を作って欲しいのかは話さないと不自然だ。
(理由まで言及するかも話す時には決めないと行けないけど、嘘をついてお茶を濁すことだって出来る。逆に言うとここで何を話すかがほぼ全てを決めるよな)
今のトロワなら俺が紙切れの影響下にあることを知っても変なことはしてこないとは思う。
(むしろ警戒すべきはスミレさんと今は別行動であるものの、俺にきんのネックレスを装備させようとしたクシナタ隊のお姉さん辺りの筈)
これにせくしーぎゃるった女戦士をくわえた三名が今の俺の天敵となる。
(おろちもマリクとくっつかなかったらやばかったけど……って、そうじゃなくて、この内スミレさんとはイシスに着けば確実に顔を合わせることになる訳だから)
協力者が居てくれた方が、逃れやすくはある。
(ただ、これもその協力者が腹芸を出来るって条件が付いてくるんだけどさ)
顔にすぐ出る者では、聡いスミレさんの獲物になるのが関の山だ。
(その場合、敵を欺くにはまず味方からって嘘を吹き込んでおく手も……)
色々考え、自分に問う。
「トロワはすぐ顔に出すか?」
たぶん、内容による。
(きれいになったから下ネタとかえっちなことは駄目だろうけど、元々バラモス軍の軍師だし、腹芸の一つも出来なければ務まるような役職じゃない)
ただ、この辺りはもうスミレさんも把握している気がするのだ。
(違和感を感じれば、確実に弱点を突いて探りを入れてくる。間違いない)
相手は、腐っても賢者。その賢さを無駄過ぎる場所にフル活用して人を弄る具現化した悪夢なのだから、その程度のこと確実にやる。
「では、トロワには嘘をついて攪乱するか?」
これは止めた方が良い。
(俺の思考パターンもある程度は把握されてると見ていい。下手に小細工すれば逆に利用されるだろうしなぁ)
極端な事を言えば天才軍師に謀略戦を挑むレベルの無謀だと思う。
(となると、全く話さないか、話した上で装飾品を作ってもらい不自然さを消すかの二択、か)
前者の場合、まずトロワが訝しまない嘘を考える必要があり、後者の場合は致命的な欠点が存在する。
(うっかりトロワが何処かで飲酒してしまうと、「紙切れの影響で俺が微むっつりになっていることを知ってる旧トロワ」って最悪の天敵が誕生してしまう訳で)
出会ってしまえば既成事実待ったなし、だろう。
(一応、トロワはルーラの呪文とかは使えないと思うし、トロワと出会う前にしか訪れた事のない場所へとルーラすれば逃げ切れる可能性もあるとは思う)
ただし、ルーラの呪文で逃げられるのは、空が望める屋外だけだ。
(まぁ、洞窟とかなら脱出呪文のリレミトでも逃げられるかな……いや、変態でも天才なトロワの事だ。命綱とか結びつけてついてくるぐらいのことはしても不思議じゃないような……)
何故だろう、考えれば考える程トロワに打ち明けるのは拙いような気がしてくる。
(いや、だけど打ち明けなかったとしたら、嘘の完成度によっては違和感が残るかもしれない)
そして生じたモヤモヤをを抱くトロワがスミレさんに見つかり、最終的に全てをスミレさんに知られる。有りそうで笑えない展開だ。
(うぐぐ、何という二択)
どちら でも ぜつぼう の みらい が みえてしまった ばあい、おれ は どちら を えらべばいいのだ。
(けど、何時までも迷っている訳にはいかないし……)
時間は有限。こうしている間にも俺達の身体は、イシスへと近づいているのだ。
(っ)
だから、俺は覚悟を決めた。
「トロワ、聞いてくれ。あの時、遮られて言えなかった事なんだが――」
そう、己が手で選択したんだ。
主人公、決断する。
次回、第百十二話「己が手で選んだあした」