「『性格を変える装飾品を作って欲しい』と頼むつもりだった」
口にしたのは、嘘ではなく真実。
「装飾品、ですか?」
「ああ、かわきのつぼを取り出した時、壺をくるんでいた保護用の紙が性格を矯正する本の一部だったらしくてな。幸い、影響を受けたのは俺だけで済んだようだが……」
「えっ」
俺の告白で驚きの声を上げたと言うことは、打ち明けるまでトロワは気づいていなかったのだろう。
(けどなぁ、四六時中一緒にいる今の状況じゃ、俺は必ず何処かでボロを出す)
それぐらいなら正直に打ち明けておいた方がマシと言うのが考え抜いた末に出した結論だった。
「本のページだったからこそ、性格を完全に変えるには至らなかったが、未だ影響は残っている。一時的な効果か永続的な効果かもわからん。一時的なモノだったとしても現状を鑑みるにイシスに着いても効果は残っているだろう。だが、俺としてはその状況は好ましくない。知り合いの様子が変なら、普通心配する。俺としてはお前にも黙っているべきか迷ったが、常に一緒にいる相手へ異変を隠し通せる程役者だとは思っていないのでな。ついでに言うなら、先程話題にしたスミレのこともある」
「……マイ・ロード、大丈夫なのですか?」
「ああ。若干性格が変化してる程度の異変、ではあるからな。装飾品を付けて上書きしてしまえばどうと言うこともあるまい。ただ、その手の品をイシスでは扱っていた覚えがない」
だから、作って欲しいと頼んだのだと俺は言葉を続け。
「で、ですが、指輪がどうとか、仰っていませんでしたか?」
「ん?」
何故か食い下がってくるトロワの言葉に首を傾げる。
(指輪? 性格を変える指輪なんて……結構あったな。けど、そんな話何処かでしたっけ?)
記憶をひっくり返してみても、心当たりはない。
(指輪、指輪……ゆび、あれ? ひょっとして性格矯正は関係ない?)
ただし、ただの指輪であれば思い切り覚えはあり。
(トロワへのお礼? けど、声に出しては……いなかったら、トロワもこんな風に言わないよね?)
ひょっとして、あれだろうか。
(思考の一部が声に出ちゃってた、とか?)
手の中に嫌な汗が滲み始めた、拙い。
(え、えっと……思い出せ、何を考えた? そして、口から出た恐れがあるのは……)
指輪についてはトロワが尋ねてきてるのだから、まず口にしたと思っていい。
(えっちな紙切れのせいで性格が変わったことと装飾品を作って欲しいって言ったことは、驚いてたから多分口にしてなかった筈)
トロワ自身のリアクションから、無いセンは消して行く。そう、消去法だ。
(残ったのは、イシスでトロワに何かお礼に贈るものを買……あ)
そこまで絞り込んで、ふと思い出した。
「到着自体は隠しようがない、か。しかし、まるでこっそりデートする計画でも――」
聞かれてたら、とんでもないことになりそうな思考の一端を。
(うーん、つまり、なにですか? とろわ は あれ を きいていて、そうしょくひん を つくってくれって はなし も かんじん の ぶぶん を かっとされたから……とんでもない ごかい を していたと?)
あの時遮られたのは、真ん中の部分、目的語だけ。
(デート云々まで聞かれてたとしたら、「俺のためにデートの時間を作っってくれ」ってとこかな)
うん。
(あなうめしてみたら、しゅっぱつまえ とろわ の ようす が へんだったりゆう が よくわかりますよ)
なんだ これ。どうして、こうなった。
(よ、よ、よし、落ち着こう。まずはトロワの誤解を解かなきゃ)
自分で選び取った未来はいきなりの自爆でしたとかいきなりこっちの出足をくじいてくれるが、こんなところじゃ終われない。
「指輪か。ここのところお前に世話になりっぱなしだったからな。あれは、感謝の気持ちを形に出来たらと思って何が良いかを考えている際につい口をついて出てしまったものだ。もっとも、指輪にするにしてもお前の指のサイズを知らん。そして、どうせついてくるのだから直接宝石屋に行って買えば良いか考えたところで、その買い物がお忍びでデートしているように見られる可能性に思い至った。まぁ、それだけだ」
なんて感じで言い聞かせれば、誤解だって解けるだろう。
(大丈夫、落ち着いて、トロワの方は極力見ないようにすれば、胸とか胸とか胸とかに気が逸れたりすることも……うん、信じよう自分を)
ここが勝負の時でもある。
「トロワ……どうやら、要らん誤解をさせてしまったようだな。すまん」
まずは謝罪し、前置きをしてから一呼吸置き、本題に入る。
「指輪のことだったな?」
「は、はい」
「ここのところお前には世話になりっぱなしだったからな」
トロワの相づちが入り、想定とは若干のズレがあるものの、今のところ上手くいっている。
(視線を逸らしてるのだって、お礼がしたいって話だから、照れ隠しととってくれるはず)
密着して飛んでる訳でもないので、ボディタッチなんてハプニングもなくて残念。
(って、ちょっと待て、残念ってなんだ? いかん、あの紙切れの影響が。落ち着け、落ち着いて邪念を捨てろ)
こんな所で性格に足を引っ張られて失敗とか、あり得ない。
「あれは、そうだな……感謝の気持ちいいだ」
俺は内で自分と戦いつつ、言葉を続けた。
割と早めに勘違いへ気づけた主人公。
傷は浅い、だから負けないで主人公ッ!
このままおかしくなった性格をどうにか出来なきゃ、カナメさん達との再会がとんでもないことになっちゃう。
次回、第百十三話「主人公、死す(社会的に)」
デュエル、スタンバイ!
……とか、勢いで伝説のネタバレ回みたいなサブタイつけそうになりましたが、正しくは↓こちら。
次回、第百十三話「再開の地」