強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百十三話「再開の地へ」

「感謝の気持ちいい」

 

 うん、なにがきもちいいんだろう。

 

(いやいやいや、えーっと、なに、これ?)

 

 何でこんなタイミングで言い間違えますかね、俺。

 

(たった におん で いみふめいじゃないですか、やだー)

 

 どうする、どうフォローする。

 

(「考えていた案にそれぞれ記号を振ると、感謝の気持ちA、感謝の気持ちB、感謝の気持ちCと来て、五番目の案、つまり感謝の気持ちEが指輪をプレゼントするというモノだったと言うことでな」って、駄目だ、何故唐突にこんな説明をし出す……つーか、信じて貰えたとして、「じゃあCはどんな案です?」とか切り替えされたら咄嗟にプランを思いつくか?)

 

 下手な嘘をつくとかえって自分の首を絞める、そんな一例を脳内で見た気がして、最初に浮かんだいい訳を俺は没にし。

 

(そもそも、なんで「気持ちいい」とか口走ったんだろ、あれか、何だかんだで邪念に心を引っ張られた結果とでも言うのか? 確かにトロワの胸は柔らかいし、おばちゃん譲りでかなり大き……はっ)

 

 危ないところだった。

 

(今の口には出てないよな?)

 

 口に出てたら、俺が社会的に終わりかねない。いや、むっつりスケベになりかけてることまで白状すれば、情状酌量の余地ありと思って貰えるかも知れないけれど。

 

(と、ともかく、黙ったままは拙い)

 

 口を開いて声に出さなければ、相手だってわからない。

 

(わからないだけならまだ良い、沈黙が悪い方向に作用することだって有るんだ。何か、変な誤解をされて、それが黙っている間に変な方向へ進んでしまったら――)

 

 取り返しが、つかなくなる。

 

「すまん、言い間違えた」

 

 だから、俺は素直に過ちを認めた。

 

(そして「感謝の気持ちだ」と修正する。間違っても余計なことは考えるな、俺)

 

 直前にやらかしたせいで自分がちょっと信用出来ないが、だとしてもここは俺を信じるしかない。

 

「感謝の気持ちだ」

 

 言い切ったところで、表には出さず、ガッツポーズする。

 

(ここで、「感謝の気持ちだ。べ、別にお前の胸が柔らかくて気持ちよかったのを思い出してムラムラして何て居ないんだからねっ」とか最悪の方向に口走ってた可能性だって皆無じゃないしなぁ)

 

 何でツンデレ風味とかツッコミを入れる以前に、口にしていたらもう取り繕うのは不可能だったと思う。

 

「マイ・ロード、では」

 

「ああ、お前には感謝している」

 

 時折揺れる大きな胸にも。

 

(そう。こうなんて言うか、時々拝みたくなるというか、触っ……って、ちょっと待てぇぇぇぇ!)

 

 何を考えた、俺。

 

(なんだか、ひどくなってる き が するんですけど?)

 

 これでは旧トロワの男バージョンというか、日の当たるところを歩いちゃ行けない変態さんではないか。

 

(そういえば、せくしーぎゃるは何人かみかけたけど、むっつりスケベを目にしたのは、ただ二人。ムール君の村できんのネックレスを着けてしまったオッサンとアッサラームで効果を知らずに付けてたパフパフのおっさんくらいだったけど……現物は、こんなにやばい性格だったのか)

 

 これは拙い、きんのネックレスもあの忌まわしいがーたーべると共々流通を完全に止めてしまわないと恐ろしいことになる。

 

(しかし、自分がその立場に置かれて初めてわかることってあるんだなぁ)

 

 シャルロットや魔法使いのお姉さんがせくしーぎゃるった後、打ちひしがれていた理由がよくわかるというか。

 

(あの女戦士にも性格矯正本を探し出して持っていかないと……もちろん俺の方を先に直してからだけどさ)

 

 せくしーぎゃるにむっつりのまま対面とか、考えたくもない。

 

(と言うか、考えちゃ駄目だ。今の自分だとお子様は見ちゃ駄目劇場が延々と繰り広げられかねない)

 

 そもそも、話は終わっていないのだ。

 

「感謝しているとは言っても、世話になりっぱなしの上にまた一つ頼み事をするのだからな、説得力なんて皆無かもしれんが」

 

「マイ・ロード、そんなことありません! お話はわかりました、性格を変えるアイテムは作ったことが有りませんが、やってみます! 必ず完成させて見せますから……その、ご安心下さい」

 

「……すまんな」

 

 トロワは良い子だと思う。旧トロワだったことが不思議なくらいに。

 

(だったら、俺だってその主人に相応しくあらないと)

 

 トロワを信じ、献身に報いる。

 

(この異常だってトロワがアイテムを作ってくれるまでの辛抱だ。だから、勝負はこれから)

 

 やがて前方に広がる砂漠が見えてきて、高度は下がり、俺達はカナメさん達の居るイシスへと辿り着くだろう。

 

(カナメさんやスミレさん、ムール君達に性格の事を隠し通す。永久にって訳じゃないんだ)

 

 それぐらい、やってのけてみせる。

 

(とは言え、接触時間が長いと隠せる気がしない。接触を最小限にする理由からまず考えないとなぁ)

 

 幸いにも時間はまだ十分ある。再開の地となるべくイシスは視力に優れたこの目でもまだ見えないのだ。

 

「あの、マイ・ロード……装飾品を作ると言うことですので、イシスについたらマイ・ロードのお身体のサイズを測らせていただいてもよろしいですか?」

 

 で、じかん が ある と おもったやさき に これ ですか。

 

「あ、ああ」

 

 味方の善意によってしゅつげんした大きな関門。だが、俺にはこの提案について頷くことしか出来なかった。

 

 




スタイルの良いお姉さんが身体のあちこちのサイズを測ってくれるだと?!

大丈夫なのか、主人公?

次回、第百十四話「再開は戦い」

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