強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第十話「トから始まる三文字の」

(まぁ、それはそれとして)

 

 やるべき事を終えたなら、すべき事は決まっている。引き返して合流した後ここは通る道なのだ。

 

(トロワと接触したことを知られても面倒だし、バラモス側に与していた魔物だもんなぁ)

 

 ここはトから始まる三文字の魔物の死体になって貰うことにしよう。

 

(幸いにもこっちには気づいていないようだし)

 

 念のためにバイキルトの呪文を自分にかけ、変態娘との会話が一段落するのを待つ。

 

「ご苦労だった。要らぬ混乱を招くのは本意ではない。私が来たことは他言無用だ」

 

「へい、わかりま」

 

「では、ゆっくり休め」

 

「へ?」

 

 俺が声をかけ、ようやく褐色肌の巨人は声を上げたが、振り返ることはなかった。

 

「永遠にな」

 

「ぐげっ」

 

 短く続けて突き入れた爪の一撃だけで命を奪うには充分すぎたし、そもそも見た目通りに動きの鈍い魔物なのだ。

 

「さて、情報も手に入ったし一旦戻るとするか」

 

 トロワに倒した魔物が話した内容が正しいなら、洞窟にいるのは今し方死体になったトロルが中心であり、場所によっては動く腐乱死体や複数の腕を持つ骨の剣士が出没するぐらいであるとのこと。

 

「……人間がやってきたことも最近はない、か」

 

 捨てざるを得なかったとは言え故郷は気になるモノだったと言うことだろう。あのオッサンの奥さんと同郷の人間で故郷が忘れられずここに足を運んだ人間も居たと思われる。

 

(あの見た目からして頭のよろしくなさそうな魔物に人間の詳しい判別をしろって言うのも酷な話だもんなぁ)

 

 奥に村があったことを聞きつけてお宝目当てでやって来た冒険者もオッサンの様な村の関係者も褐色肌の巨人からすれば一括りに人間なのだ。

 

(人の目撃証言があるとなると、アンデッド系の魔物ってのが気になるけど)

 

 この洞窟に足を踏み入れ、魔物に殺された者のなれの果てなのか、それとも。

 

(魔物同士の話を盗み聞きしたことにしてあのオッサンに聞いてみるかな)

 

 命を落とした者が全て魔物になるとは思えない。その上で出没すると言われる程の数が存在するというのなら相応の犠牲者が居るはずだ。

 

(消息を絶ってる元村人でここまで様子を見に戻ってこられる猛者が何人も居るとは思えないし)

 

 魔物となった死体の出所が気になる。

 

「とは言え直接魔物が目撃された場所はかなり奥だし、あの男からの情報が欲しい。そろそろ引き返すぞ、トロワ」

 

 この辺りが潮時だろうと見切りを付け、俺は変態娘に声をかけ。

 

「あー、それだったら……オイラ、お力になれるかも」

 

「なっ」

 

 意図したところとは全く別の方向から聞こえてきた声に驚きつつも身構える。

 

「おっと、驚かせてごめんなさい。オイラはムール。あの男ってきっと村の人の誰かだよね?」

 

「村の? いや、妻が村の人間だったとは聞いて……っ」

 

 反射的に途中まで答えかけたところで、洒落にならない状況に気付き、顔が強ばる。

 

(こいつ、いつから居た? それに――)

 

 身構える俺の前に現れたムールを名乗る人物は、見たところ俺と似た格好をしていた。だから、顔立ちと体つきは中性的だが、男で盗賊なんだろうなと言うことぐらいは解る。

 

(だからって俺が気配に気づかないとか、だいたい)

 

 へたすれば、とろわ が とろーる と かいわしてる ところ とか も ばっちり みられたんじゃないですか、ひょっとして。

 

(うわぁぁぁ、致命的すぎるっ)

 

 わざわざ見られないように二人だけで抜け出してきたというのに決定的瞬間を目撃されていたなら、意味がない。

 

(しかも、話すことが確かならこのムール君、あの村の関係者だよね)

 

 オッサンと面識がある可能性すらある。とても拙い状況だった。

 

(そもそもさぁ、さっきから何でだんまり何ですかトロワさん?)

 

 だから、思わず変態娘に非難の目を向けてしまうのは、仕方ないことだと思う。俺は振り返る必要があったが、立ち位置的にトロワには見えていた筈なのだ。

 

「あの……マイ・ロード、どなたと話しておいでですか?」

 

「それはいい訳のつもりか?」

 

 独り言を言うことも良くあるが、ムールと名乗った少年はすぐそこにいて、視線を戻してみるが何処かに隠れた訳でもない。

 

「まあいい、その話は後だ」

 

 真っ先に確認すべきはトロルと変態娘のやりとりを見たかと言うことだが、こちらからそれを聞くのは悪手でしかない。

 

「話を戻そう、この洞窟の奥に出るという動く屍の魔物について何か知っていると言うことで良かったか?」

 

 俺は変態娘から視線を外したまま、少年に問う。

 

(「お力になれるかも」って言ってたんだから、まずは何でもないふりをしつつ先方に話して貰おう)

 

 魔物と化した死者の出所は気になっていた所なのだから、申し出自体は渡りに船だ。

 

「うん。多分だけど、この洞窟は村の下も通ってるから」

 

 俺が見つめる中、頷いた少年は言う。

 

「多分、何処かが崩落して村の外れにあった地下墓所(カタコンベ)と繋がっちゃったんだと思う」

 

 と。

 

「地下墓所?」

 

「そう。村自体もかなり前に封印されて放置されたっきりでしょ? だから、誰にも祀られなくなったことで悪いモノがたまって、残されてた死体が魔物になって動き出しちゃったんじゃないかなぁって」

 

「ふむ」

 

 考えられる話ではあった。死体が魔物になるなど普通ならファンタジーだがこの世界はそのファンタジーであり、動く腐乱死体となら実際に戦ったこともあるのだから。

 

 

 




まぁ、トロルが新ヒロインな訳ないですよねー。

そして、突然現れたのは謎の少年(?)。

彼は一体何者なのか、そんな謎を残しつつ。

次回、第十一話「取引」
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