強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百十四話「再会は戦い」

 

「そろそろだ」

 

 言外に着地へ備えるよう警告しつつ、俺は眼下で大きくなって行く城下町を見ていた。

 

(おそらく、見られている筈)

 

 もっとも、いくら視力が良いとは言え高度を落として着地するまでの間に城下町の中から空を見上げた特定の人物を捜す事なんて無理なのだが。

 

(それでもなぁ。慢心と油断は出来ない。状況が状況だし)

 

 最悪のケースを想定して、指針は決めておいた。最悪のケース、それ即ち俺がいつもの俺じゃないとばれることなので、紙切れの影響を受けなかった場合とったであろう行動をほぼなぞる形で動く事になると思う。

 

(幸か不幸かこの国で俺はシャルロット程ではないが、英雄として認識されている。騒ぎになるのを避けるため、変装したところを見つかったとしても言い訳は立つ)

 

 だから、降りたってまず向かうのは宿屋。

 

「宿屋で変装を終えたら、闘技場へ向かい……カナメ達と合流する、ここまではいいな?」

 

「はい、マイ・ロード」

 

「なら、いい。ゆくぞ」

 

 危なげなく着地し、姿は見ずに確認すれば、トロワの声に少しだけ口元を綻ばせ、歩き出す。

 

(どう考えても、ここでカナメさん達と再会しないのは不自然だもんなぁ)

 

 自分から危険に飛び込んで行く形だが、やむを得ない。

 

(接触を最小限にするのだって、俺には修行が必要ないこととトロワにムール君の下着を作ってもらっているからって理由がある。理論武装で納得させられれば、時間は稼げるだろうから)

 

 カナメさんやスミレさんが感づく前にそうして稼いだ時間を使ってトロワが性格矯正アイテムを完成させてくれれば、俺達の勝ちだ。

 

(下着を作るトロワは、俺の側に侍るという制約があり、俺とトロワは一緒にいる必要がある。そして、作業をするなら静かな環境の方が適しているからという理由で、引きこもってしまえば――)

 

 俺の敵は紙切れの影響のみ。

 

(女の子と同じ部屋に二人っきりって状況はあの紙の影響を鑑みると若干危険な気もするけど、きれいなトロワだったらあちらから間違いを起こすことは無いだろうし)

 

 後は防音効果の高い部屋を取れば、いつかの様にお隣さんの物音で煩わされると言うこともなくなる。

 

(ん? 待てよ、トロワみたいな女性泊まる部屋を「防音性の高い部屋で」何てリクエストしたら要らぬ誤解を招くんじゃ?)

 

 とりあえずチェックアウト時にあの有名な台詞を言われるのは間違いない

 

「さくばん は おたのしみ でしたね」

 

 と。

 

(そして、そのシーンをスミレさん辺りに見られて拡散、社会的に死亡……)

 

 こういうとき、こうけい が しゅんじ に うかんできてしまう のは なぜ なんだろうか。

 

(おのれ、せかいのあくい! ……じゃなくて、考えないと)

 

 例えば、いかにも何か作業しますよと言った感じの荷物を持ってチェックインすればどうだろうか。

 

「少々作業をしたいのでな、隣室の音が気にならないような防音の効いた部屋が良いのだが」

 

「作業するのに防音、ですか。あー、はいはい。わかりました。いやぁ、若いって良いですな。では思う存分『作業』して頂ける部屋をご用意致しましょう。ええと、これだ。このお部屋なら、ちょっとやそっと声を上げても外には漏れません。充分お楽しみ、いえ、満足して頂けると思いますよ」

 

 って、のうない で そうぞうした やどのしゅじん の うけこたえ が あきらかなごかい を されてるかた の はんのう なんですが。

 

(これ絶対作業だと思ってないパターンだよね? 作業であげる声って何?!)

 

 拙いことになった、紙切れの影響はもう思考にまで及んでるらしい。

 

(何だよ、これ。まだカナメさん達とさえ会ってもいないのに)

 

 自分自身と戦い始めちゃってるんですけど、どうすれば良いですか。

 

「マイ・ロード、どうされました? もしや――」

 

「いや、何でもない。それより、まず宿を取ろう。……そうだな、チェックインは頼めるか? お前の作業する部屋にもなるだろうからな。俺が注文を付けるより良かろう」

 

 泊まる部屋のリクエストを自分がした場合のシミュレートをしたらロクでもないやりとりしか浮かんでこなかったなんて事はとても話せない。もっともらしい理由を付けて、人任せにすることとし。

 

「で、だ……何故隠れる?」

 

「んー、なんとなく?」

 

 感じた気配の方に俺が声を投げれば、建物の影からひょっこりと顔を出したのは、スミレさんと言う名の天敵だった。

 

(うわぁい)

 

 わかっていた、盗賊としての気配察知能力があるからこそ居ることはすぐ気が付いた。気配なんて感じなかったことにしてスルーしようかとも思った、だが。

 

(トロワには盗賊の心得なんてないからなぁ)

 

 ここで捨て置けば、誰も居ないと思ってポロリと聞かれたくないことを零してしまうかもしれず。

 

(仕方なかったんだ、これは……)

 

 そもそも、最初に再会したのがよりによってスミレさんとか、誰かの嫌がらせじゃありませんかね、これ。

 

(運の悪さを嘆くべきか、誰かの作為を疑うべきか……)

 

 後者なら犯人はせかいのあくいだろう。

 

「ただ、あたしちゃんがここにいるのは、降りてくるスー様達を見かけたからだけどね。スー様のことだから、みんなに会いに行くか、宿の確保かどっちかだろうとは思ってた」

 

「あっさり行動パターンを読まれるとは、俺も未熟だな」

 

「ま、それはそれとして……宿を取るなら一緒の方が良くないかとあたしちゃんは提案してみる」

 

 自重する中、俺の耳がとらえたのは、理にかなっているからこそ反論はし辛い意見であり、こちらからするとロクでもなさすぎる提案だった。

 

 




せかいのあくい「社会的に、死ぬがよい」

完全に殺りにきてるか、世界の悪意。

次回、第百五話「宿」

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