強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百五話「宿」

「トロワ」

 

 断りようもなく、案内されるまま連れてこられた俺は同行者の名を呼んだ。

 

「はい、マイ・ロード」

 

「あ、あたしちゃんもついてく」

 

 スミレさんと遭遇する直前にやりとりをかわしたからこそ、それ以上の言葉は不要だったのだ。

 

「さて、泊まる場所は確保出来たとして……次はカナメ達に会いにゆかねばな」

 

 出来ればトロワが宿の部屋を取っている間にスミレさんから修行の進展具合について聞きたかった所だが、当のスミレさんは俺がトロワに何を頼んだか瞬時に察したらしく、トロワを追いかけて宿のカウンターへと向かったところだった。

 

(ま、チェックインの手続きが終わった後、格闘場までの道すがらに聞けば良いだけのことかぁ)

 

 真面目な話をして後どれだけメンバーが強くなれば危なげなく神竜撃破が可能かを思案していれば変なことを考える余地なんて無いだろう。

 

(とりあえず、カナメさんもスミレさんもムール君も修行はしてるだろうし、神竜と戦うとして一番戦闘能力的に不安なのは……考える余地もないよな)

 

 他のメンバーがイシスで修行をする中、唯一俺にくっついてきた女性にして従者であるトロワ。

 

(魔物としてはラスボスの居城に配置されてるからそれなりに強い部類に入る筈なんだけどさ、うん)

 

 神竜は原作でそのラスボスを倒した者達が挑む相手なのだ。強さが据え置きなら瞬殺される未来しか見えない。

 

(出来ればここで鍛えて転職させておくべき……それはわかってる、わかってるものの)

 

 トロワには今頼み事をしてしまっている。

 

(しかも、得たい効果のおおよそだけ告げてお任せしちゃった形だから完成予定なんて不明なんですよね)

 

 ついでに言うなら、アイテム作成について素人の俺では作業を横から眺めていられる立ち位置にあろうと、後どれぐらいで出来上がるか何て目測もほぼ立てられないと思う。

 

(せめて使いっ走りぐらいはしたいけど、トロワに俺の側に居るって縛りがあるから、それも叶わない)

 

 材料を買いに宿を出れば、作業の手を止めてトロワもついてきてしまうであろうから。

 

(それが一度だけなら、トロワへの感謝の品を買うついでに色々買えば良いとも少し前の俺なら思えたんだろうけどなぁ)

 

 転職し、戦力の一人として数えられるよう育って貰うには時間もあまり無駄に出来ない。

 

(シャルロット達の方はクシナタさんパーティーってもう一組の勇者一行が居るんだ、原作とは比較にならないペースで攻略が進んでいても、俺は驚かない)

 

 実際どの辺りまで進んでるかは、このイシス滞在後、アリアハンにて直接顔を合わせる時当人から教えて貰えるかも知れないが。

 

(まぁ、当然ながらこんな状況でシャルロットに会うのは危険すぎる)

 

 シャルロットにせよ、元バニーさんにせよ、無茶苦茶無防備なのだ。

 

(抱きついてこられたら、耐えられるかどうか……)

 

 良くない方に身体が反応してしまえば、俺が社会的な終了を向かえる。

 

(俺の評判は、弟子であるシャルロットにとっても無関係じゃない。そもそも、俺の油断が招いた一件でシャルロットに肩身の狭い思いをさせるなんて――)

 

 許されよう筈もない。

 

(シャルロット……)

 

 空を見上げれば、そこには際どい水着姿のシャルロットが挑発的に肢体を見せつけて来る。

 

(って、ちょ、おまっ)

 

 なんでそうなる。何でそうなるんだ。

 

(やっぱり、イシスだから……いや、確かにこの国でシャルロットがせくしーぎゃるった事は有った気がしたけどさ)

 

 いくら何でもあんまりではないだろうか。

 

(いや、考えようによってはこれもシャルロットがここで味わった苦悩を今俺が味わっているようなものか)

 

 性格に引っ張られてロクでもなくなった自分、所謂黒歴史を認識してしまったからこそ感じる己への嫌悪と羞恥。シャルロットはがーたーべるとを外してまともに戻ったが故に直視することとなり、俺は性格改変が中途半端だからこそ、まともな部分が最低の自分を認識してのたうち回りたくなる。

 

「お待たせしました、マイ・ロード」

 

「スー様、お待た」

 

「っ、ああ」

 

 戻ってきた二人の声で我に返った俺は応じるなり、通路の方へと視線をやる。

 

「部屋番号は? 貴重品はともかくそうでないモノは置いておいてた方が良いだろうからな。カナメ達のと」

 

「スー様、カナメは今ダーマ」

 

 荷物を置いて、カナメさん達と再会しようと思っていた俺の予定は、スミレさんの言葉で、途中だった言葉の続きと共に砕けた。

 

「転職、か」

 

「そう。賢者になってくるって言ってた。あたしちゃんにも後輩賢者が出来ました、みたいな?」

 

 酷い先輩を持って苦労しそうだな何て言葉は間違っても表に出せなかった。

 

(と言うか、思うのも危険だよな)

 

 スミレさんは時々心を読んでるかと思うぐらい察しが良いし。

 

「あたしちゃんはまだ身につけられそうな呪文があるからこのまま」

 

「ムールは?」

 

「スー様から奥義を伝授して貰うまでは盗賊で居るつもり風味?」

 

「……そうか」

 

 となると、ダーマに居ないのはカナメさんと、覚える呪文が多い魔法使いと僧侶及び賢者以外のメンバーが他に数名と言ったところだろう。

 

「それでも他の者が居るなら予定は変わらん。トロワ、部屋番号は?」

 

「は、はい。Bの07――」

 

 トロワから部屋番号を聞き出した俺は荷物を持ったまま、手配された部屋に向かうのだった。

 




むっつりしたことで、主人公は弟子が苛まれた過去の苦悩を再認識する。

次回、第百六話「予定通りに」
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