強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百六話「予定通りに」

「これで戻ってくれば作業を始められるな」

 

 部屋に入り、貴重品を除いた荷物をクローゼットへと押し込んで口にしたのは、スミレさんに聞かせるためのものでもある。

 

(これで、伏線は仕込めた)

 

 ムール君達と出会っていくらか言葉を交わし、すぐさま退散するとしても今の一言が立ち去る理由に説得力を持たせてくれるはずだ。

 

「行くぞ」

 

「はい」

 

「了解~」

 

 短く答えたトロワとほぼ同時に間延びしたスミレさんの声を聞き、ドアノブを回した俺はあてがわれた客室から外に出る。

 

「トロワ、施錠は頼む。鍵は持ってるな?」

 

「ええ、お任せ下さい」

 

「へー、鍵を持ってるのスー様じゃないんだ」

 

「まぁ、非常時限定だが、鍵がかかっていても俺は開けられるしな。そう言う意味ではスミレ、お前も同じだろう?」

 

「そっか」

 

 初期クシナタ隊の面々はクシナタさんを除き、俺が呪文で蘇生させている。だからこそ、アバカムの呪文を会得してるのは今更言うまでもなく、だからこそ嘆息しつつ指摘すればスミレさんもすぐさま理解したらしい。

 

「予想はついてたけど」

 

「待て、なら何故聞いた?」

 

「……なんとなく? もしくは趣味」

 

「……ほほう」

 

 今更な気もするが、やっぱりスミレさんは悪質だと思う。

 

(ジト目を向けたくなるところだけど今は、なぁ)

 

 非難の視線が別の視線に化けそうだったから、わざとらしい嘆息を一つ残して廊下を宿の玄関へと進む。

 

「さてと、トロワ……すぐ出ることは宿の主人に告げてあるか?」

 

 トロワなら手抜かりはない気もするが、一応確認を入れ。

 

「はい、マイ・ロード」

 

「そうか。なら、このまま行く」

 

 胸中で胸をなで下ろしつつ、カウンターの前を通り過ぎる。

 

(ふぅ、良かった良かった。ここで俺が手続きをしてその間に二人が先行するケースになったらどうなっていたことか……)

 

 後ろ姿が見える位置とか、この状況では嫌な予感しかしない。スミレさんはともかく、トロワはお尻も大きいのだ。

 

(まず間違いなくガン見しただろうな。自分のことだと思うと嫌になるけどさ、うん)

 

 本当にあの紙切れの影響とはさっさとおさらばしたいと切に思う。

 

(宿屋の固まってる場所から地下闘技場まではそんなに離れていなかったよな)

 

 安全上は疑問視したくなる位置だが、観光客への娯楽の一つと考えるのであれば、この位置関係だって頷けるものではある。

 

「はぁ、今日はついてねぇなぁ。母ちゃんになんて言おう」

 

 明らかにイシス人ではない肩を落とした男がトボトボと宿屋の方へ向かう姿とすれ違えば尚のこと。

 

(ギャンブル、かぁ……勝ってもモンスター格闘場で手にはいるのはお金だもんな)

 

 交易網作成に力を貸したことで報酬を得ている俺にとってギャンブルで一攫千金というモノにはなんの魅力も感じない。

 

(まぁ、レアアイテムが手に入ったり、場所によっては他所では売ってない高性能な武器防具が売られてたりするすごろくなんかは別なんだけどね)

 

 とりあえず、マイラにあるすごろく場で売られている品は何らかの手段で手に入れたいところではある。

 

(と言うか、そもそもゲームではすごろくに参加するしかなかった訳だけど、運営側に裏口から交渉することでアイテムを譲って貰う事って出来ないかなぁ?)

 

 厳しいとは思う。すごろく場で遊ばないと利用出来ないお店というのはある意味それ自体がすごろく場の売りの一つになってる可能性だってあるのだから。

 

(ただ、「元バニーさんのおじさま達が作り出したチート水着みたいな品をお店の商品として納入するから」みたいな条件を提示したなら、ワンチャンスぐらいはあると信じたい……けど)

 

 それが無理なら、あのシャルロットへがーたーべるとを渡すなんて真似をしくさった許せないメダルマニアに相応の報いをくれてやった上で、すごろく遊び放題のパスを頂いてくる必要がある。何せ、シャルロットへあんな水着を着させたのだ、それはもう熱烈にお礼をすべきだろう。

 

(あれは本当に……って、何考えてる、俺!)

 

 シャルロットのがーたーべるとと言う下りで浮かびそうになった余計な光景を俺は振り払い、思考を切り替える。

 

(……ま、どっちにしてもここの滞在が終わればアリアハンに行く予定だし……メダルマニアへの『ご挨拶(おれい)』はその時でいいか)

 

 もちろん、ご挨拶とはしたものの、別にそんな物騒なことをするつもりはない。

 

(ちょっと井戸に潜む魔物を退治するため攻撃呪文をぶちかますとか……うん、ま、それも冗談だけどさ)

 

 覆面マントの変態犯罪者(カンダタ)コースぐらいはしても大丈夫なんじゃないかとは思うのだ。

 

(弟子にあんな……って、だから想像すんな、俺! も、もとい、清らかな正義の心を持った常識人かつ良識の人としてはアリアハンの地下に潜む巨悪に正義の鉄槌を下すことはもはや、義務っ)

 

 別に私情から来るリンチとかそんなモノではないのだ、きっと。

 

(シャルロット、お前も認めてくれるよな、俺の正義を)

 

 脳内でせいぎがべつのかんじにごへんかんされたことはとりあえずスルーするとして。

 




今のところ危なげなく動けている主人公。

果たしてこのまま秘めた異変を隠し通せるのか?

次回、第百七話「会い、そして」
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