「しかし、この国の日差しは相変わらずだな」
空を見上げるのは良い。前方にたまたま居た女性を見ずに済むのだから。
(何度も使える手じゃないのはわかってるけどさ)
ムールくん達と接触した時、相手の顔も見ずこんな事を言っていたら顰蹙モノだ。だから、使っても問題ないところで利用してみただけであり。
「差し入れでも買って行くべきかもしれんな」
使っただけで終わらず、次の手への布石にする。
(差し入れがあれば、「差し入れは渡したから俺はこれで」といった風にさっさと退散する理由付けにもなるしなぁ)
差し入れされた方も気を遣って貰った嬉しさを感じ、俺も危機を回避出来るとなれば、まさに両者が共に得をするWinWinな策なんじゃないだろうか。
(しかも、日差しの強さに閉口してるフリの後だから、差し入れを買うことには何も不自然さが無い)
問題は、何処で差し入れを買うかだが、この点についても俺に良い考えがある。
「スミレ、この城下町でうまい飲み物を売っている店を知っているか? 無論、持ち帰れるタイプのものでだが。……この暑さだ、水分補給は必須だろう。修行で激しい運動をしてるなら尚のこと、な」
わざわざスミレさんに話を振ることで、表面上は避けていることを悟らせず、同時に思考力を別方向に向けさせる。
(何だかんだ言ってもスミレさんだってクシナタ隊の一人、仲間へ気遣う俺の言葉を軽く見ることはないだろうし、更に一押しすれば――)
トドメの一言は既に考えついていた。
「むろん、お前の分も買うつもりだ」
格闘場で修行に励んでいる面々だけへの分だけではないと告げ。
「ただし、差し入れするモノについてのチョイスを担っては貰うがな? 年も性別も出身も違えば好みも変わる。そう言う意味でも選ぶのはお前の方が適任だろう」
一分の隙もない完璧な誘導だと思った。
「流石スー様、太っ腹。じゃあ、お酒も良かったり?」
だが、俺の提案は盛大な墓穴を掘り抜いたらしい。
「お、酒?」
嫌な予感がしだした。
(ちょっと待て、落ち着け、俺。差し入れって言っても、修行してるクシナタ隊の分とスミレさんの分だけじゃないか)
トロワは全然関係ないんだから、ここで取り乱しては駄目だ。
(大丈夫、大丈夫。別にトロワは飲まないし、せいぜいお店で酒精の臭いを嗅ぐレベルだから、酔っぱらって旧トロワ化したトロワが暴走するなんてことは……うん、ありえそうでこわいです、ごめんなさい)
取り乱さないのと楽観視するのは違う。
(最悪の事態を防ぐなら、「お酒は駄目」と止めるべきだけど)
この段階でそう言えばスミレさんのモチベーションがガタンと落ちることだろう。
「駄目だったり?」
「……いや、条件付きでだが、許可をしよう。身体が出来ていない者に酒は禁物と聞いたことがある。とある国においては、十九歳以下の飲酒を禁じている程らしいからな。隊の中でも年少の者へは酒以外を選ぶこと、そして、買い込む量も修行の合間の差し入れであることを鑑みた量とすること、俺からの条件はこの二つだ。酔ったあげく、はぐれメタルとの模擬戦で後れをとるようでは、差し入れの意味がない」
いくらスミレさんとは言え、その辺りの常識ぐらいはわきまえていると思うが念のためだ。
(トロワの分は宿に戻ってから適当にノンアルコールな飲み物が無いか宿の人に聞けばいいし)
酒精というのは頭の働きを鈍らせるものなので、解毒呪文で何とかなる可能性もある。
(何でもっと早くこの可能性に思い至らなかったのか、とは思うけどね)
もっと早く思いついていればポルトガの一件だって防げたかも知れないというのに。
(だけど、今考えなきゃ行けないのはそんな事じゃない――)
条件付きとはいえ、許可は出してしまった、だから、考えるべきは許可を出した結果道するのかだったのだが。
「マイ・ロード、重くありませんか?」
「大したことはない……が、何だこの量は?」
スミレの案内で一軒の店に立ち寄り、買った樽を背負って俺は問うた。一番大きな樽は一抱えもあり、流石にあの時別れたムールくん達への差し入れとは思えない。
「よくぞ聞いてくれました。実は聞かれなかったから言ってなかったことが有りまして……あたしちゃん達、スー様同行組以外のクシナタ隊の子も何人か修行に来ていたのでその分も一緒に購入した結果?」
「なっ」
なにそれ、きいていないんですけど。
「あと、イシスで修行したアリアハン出身の勇者様から話を聞いたらしい、スー様のお知り合いも何人か修行に来てるので、あたしちゃん達だけの分のみ買うのも後でもめるかなーと思って、気を遣ってみました?」
「……気を遣うのはいいが、何故疑問系になる?」
ツッコミを入れられたのは、驚きすぎてかえって冷静になってしまったからだろうか。
「ジパング人の美徳である謙遜?」
「自分で言って謙遜とはいったい……」
全力でスミレさんがわからなくなりそうだが、そんなことはどうでも良い。
(アリアハン出身で、俺の知り合いっていったい誰が――)
何故か、猛烈に嫌な予感がした。知りたいようで知りたくない疑問が頭を回る中。
「へぇ、こいつは随分と久しぶりじゃないかい……」
かけられた声に半ば振り返った俺は悲鳴を飲み込んだ。
「ここで会ったが年って言う程月日は流れちゃ居ないがね‥…」
声にも、青みがかった紫の髪にも、腕に填めたごうけつの腕輪にも見覚えはあった。
(よりによって、この たいみんぐ で、こいつ ですか?)
顔がひきつるのを表情筋を総動員して押しとどめる。視線が胸に行かないよう顔を見るようにした、それでもちらっと見えてしまった。身体へ鎧以外を身につけているのが。
「あたいの姿に驚いたってのかい?」
そりゃ驚きもするだろう。あのせくしーぎゃるった女戦士と、いや元女戦士とこんな割と最悪なタイミングで再会したのだから。
せかいのあくい「テコ入れ? じゃあ、懐かしの人再登場とかどうです、作者さん?」
だいたいそんな感じで奴が再登場した模様。
次回、第百八話「今なら言える、逃げ出したいって」