「まぁ、無理もないさね。あたいだって転職は悩んだんだ」
俺の沈黙と動揺をどうとったのか、おそらくは自身の都合が良い方に受け止めたのだろう、もと女戦士は語り始めた。
「ただ、アンタの弟子……つまり、勇者から話を聞いたのがきっかけでね。大魔王ゾーマってのが……あのバラモスを部下にしてたとんでもない奴が世界のどっかに居るんだろ?」
「なっ」
「何で知ってるのかって? 考えりゃわかるだろ? アンタを探してる勇者が話してくれたのさ」
驚き、思わず声を漏らしてしまった俺へと元女戦士は言う、大方の事情は聞いてるよとも。
「そんで、姿を消した理由についてもピンと来たんだよ。巨悪を倒す勇者の旅が終わってないってんなら、アンタが勇者一行から行方をくらました理由はただ一つ、勇者の為だろ?」
「うっ」
「へぇ、その反応からすると正解みたいだね。魔王が居なくなって平和になった後ならともかく、勇者の旅がまだ続くなら勇者に手を出す訳にゃいかない、だから身を退」
「ちょっと待て、シャルロットのためと言うところまでは否定せんが、後半はどういう理屈だ?」
そもそもこの人、勇者に手を出さないための人身御供として自身が提供されるって引っかけをやったりとかはしたが、俺がシャルロットに手を出そうとしていたって誤解は解けてたと思うのだが。
「ふ、とぼけなくてもいいよ。……いや、アンタがそう言うなら違うって事にしておこうかね。ともあれ、あたいはアンタを見直した。そして、気づいたのさ、以前アンタに作った借り、結局返せたのかってさ」
「借り?」
おれ って このひと に なにか してましたっけ。
「はぁ、そこもとぼけるのかい? まぁ、いいよ。ともかく、アタイとしてはあんたに協力しなきゃ気が済まない。だけど、レーベの村であっさり組み敷かれた時、勇者の元へ行くため城の地下通路を進んで魔物を一瞬で両断した時、あんたの力の一端は見せて貰った。だからこそ、わかったんだよ。アタイの実力では、些少鍛えたところで助けになるどころか足手まといでしかないという現実が……ってどうかしたかい?」
「いや、何でもない。続けてくれ」
ええ、組み敷いたの辺りで色々思い出して何ていませんとも。
「じゃ、続けさせて貰うよ……で、ついでに言うなら、戦士のまま強くなったとしても限界が来るって事もわかった。戦士の戦闘能力は得物の強さに左右されるところも大きい。この国へ最初に来た時は市販されてる武器の品揃えに驚いたモンさ。アリアハンの店に並んだ武器や防具とは比べるのも馬鹿らしいほどなんだからね。無論、アタイも故郷を悪くは言いたくない。けど、ま、平和だったって事なんだろうさ。ここと比べてバラモスの根城からは距離がある、悪の親玉の居る場所に近い程強い魔物が居て、強い武器が必要になってくる、当然のことさね。ただ、強い装備を揃えるには金がかかる……つまり、大金を稼ぐアテでもなきゃ、装備を買う金が無いって問題にぶち当たって躓く」
「それで、転職しよう……と、決断した訳か」
「まぁね。それに呪文なり特殊な技術を会得すりゃ、そっちの方面でアンタの役に立てるだろ? あの女遊び人が賢者になったってのも人づてに聞いてる。どうすればいいかがわかって、強くなる近道がわかれば、迷う必要なんて欠片もない、違うかい?」
腕輪の効果もあるのだろうか、元女戦士は豪快な笑みを浮かべて見せ。
「お、おい、あれ……」
「ま、まさかはぐれメタル風呂女?」
「はぐれメタル風呂女?」
「おまっ、知らねぇのかよ、はぐれメタル風呂って苦行を続けすぎてすゲェ顔と格好で何度も運び出されたって有名だぜ?」
いつの間にか出来ていたギャラリーの声がいろんなモノを台無しにしてくれやがった。
「お、お前……まさか……」
「風呂に腕輪は無粋だろ? いや、良いモンだったよあの風呂。今じゃ毎日通っててねぇ」
「……と言う訳だったり」
ここは、当人が言い終えちゃってから付け加えても意味ないよとスミレさんにツッコむべきか、それとも。
(毎日って……まさか、このひと、せくしーぎゃる と れべるかんすと を りょうりつしたり なんか しちゃってますか?)
そうだとしたら、おれ は どうすればいいのだろう。
(あの苦行を限界までやってのけてるなら、戦力としてはパーフェクトだけど……)
鍛え上げられた身体能力と会得した呪文をフルに使ってせくしーぎゃるって来たら、勝てる気がしない。
(つーか、アリアハン王、何こんな危険生物野放しにしてんだ!)
戦闘力的に並ぶモノ殆ど無しの痴女とかお外を歩かせちゃ行けないモノ過ぎると思うのですが、うん。
「ま、マイ・ロード……強くなればよりお役に立てるというなら、私」
やめようか、トロワ。その ぼでぃ と はっぽうがたつぶれいきものぶろ の こんぼ は そうぞうだけでも いま の おれ には きけんすぎる。
(なに これ、なに このじょうきょう?)
逃げ出したいと思った場面は今まででもいくらかあったが、この時もまたその例に漏れなかった。ああ、
勘違い要素と強い痴女が合わさって最悪に見える。
出遭ってしまったせくしーぎゃるは、強さ的な意味でインフレっていた。
どうなる、主人公?
次回、第百九話「ここからが本当の――」