「話はわかった」
どう答えるかまよいつつも、俺はとりあえずそう言った。
(問題はここからだ、ここからなんだよ。この元女戦士が仲間に加われば、神竜戦が楽になるのは間違いないけど……)
せくしーぎゃるである言う大問題が、俺に続きを言わせるのを阻んでいた。
(同じ強さの仲間を短い時間で得ようとすれば、この元女戦士よろしく発泡型潰れ灰色生き物《はぐれメタル》風呂に突っ込むしかない。流石にそんな変態苦行を強制する気もないし、既に強くなっちゃってるこの人を使わないのは勿体ない。それに……)
今なら、性格を変えられてしまった元女戦士の気持ちだって少しはわかる気がするのだ。
(ん? いや、待てよ……中途半端とは言え、同じ本の被害にあった訳だし、事情を話したらこの人も協力してく……いや、ないな)
理解が願望混じりのアイデアに変わり、一瞬生じた迷いを俺は頭を振ることで蹴飛ばした。
(甘い考えは捨てるべきだ。もし逆のシチュエーションだったら、協力出来る自信なんて皆無だしなぁ)
せくしーぎゃるに自分はちょっとむっつりスケベですと明かすとか、別の意味で親身になってくれる未来視か見えない。
「へぇ、丁度良かった。あたいも丁度ムラムラしてたんだ。我慢のしすぎは身体に毒だし、ため込んだモノが暴走してそこいらの町娘に手を出しちまったらことだろ? じゃあ、恩返しの最初に――」
やめろ、俺の想像力。
(丁度ムラムラって何だ? と言うかそんな台詞が出てきたらもうアウトだろ、色々)
ただ、この元女戦士ならそんな台詞を言っても不思議じゃないと思う自分も居り。
(うん、無しだな。バラす線は無し。それより、返事をちゃんとしないと)
平常の俺なら、戦力になる相手の加入を拒むのは不自然。
(性格だって今は腕輪で変わってるし、旅の途中で性格を変える本が手に入れば問題ないかって考えて目を瞑る……筈)
発泡型潰れ灰色生き物《はぐれメタル》風呂の効果は元バニーさん達の急激なパワーアップを目にしたからよくわかっている。それに運び出されるまで毎日浸かっていたなら、肉体スペック的には俺に迫るモノを持ち合わせていたって不思議はないのだから、パーティー加入の申し出を断るのは、もったいなさ過ぎた。
「なら、協力して貰うとしよう」
だから、心境的には逃げ出したくてもスミレさんが居る手前、お引き取り下さいとは遂に言えず、平静を装って口にしたのは真逆の意味合いの言葉であり。
「それから、トロワ……お前が苦行をする必要はない」
それでも最後の抵抗とばかりに、とんでもないことを言い出したトロワは止めておく。
「マイ・ロード、ですが」
「その姿を……はぐれメタルにもみくちゃにされるところを俺に見せたいのか?」
「え」
「お前は俺の側にいるのだろう? その前提条件を変えないというのなら、修行場に俺は同伴することになる……それとも俺にも一緒にはぐれメタル風呂に入れと?」
ずるい言い方であることは、理解していた。だが、なりふり構っているような余裕はない。
(まぁ、ここで「はい」なんて肯定されたら詰むけど――)
きれいな方のトロワが首を縦に振るとは思えない。
「い、いえ」
「なら、わかるな? 普通にはぐれメタルと模擬戦をしたとしても効果は充分にある。が、そもそも俺達は他にもやることを抱えている」
ポルトガのカップルを送り届け、シャルロット達と話をし、さいごのかぎを入手すると言う少なくとも三つのしなくてはいけないことを。
(それに、トロワには性格を変えるアイテムだって作って欲しい訳だし)
一つ余分にすることがある分、トロワはうちのパーティーで最も忙しい人物になるかも知れない。
「ついでに言うなら、俺達はまだムールや他のメンバーに会っていない。パーティーに加入するなら加入するで、現時点での他パーティーメンバーにも話は通しておくべきだろう」
「っ、そう言えばそうだね。ゴメンよ、あたいはちょっと先走りすぎちまったみたいだ」
「謝罪には及ばん。と言うか……スミレ、俺の知り合いも他に何人か来ているって言っていたが……他に誰が来てる?」
頭を下げる変態元女戦士を手で制しつつ、俺はスミレさんに問うた。
「んー、ちょっと腐った僧侶な若い女の子がいた気がします」
「ちょっと待て」
かえってきた こたえ が まず ひとりめ だっていうのに、とんでもないんですが。
「ムール君を見て、すっごく興奮してた模様。『新しい世界はこんな所にあったなんてぇ』とか」
いや、ものまね で ろくでもない ついかじょうほう くれなくていいですから。
(なんだよこれ、よりによって一番目を付けられたくない奴にムール君が見つかってるとか……ムール君とあの腐った僧侶少女の化学反応とか恐ろしすぎて想像もしたくないですぞ?)
あの腐れ少女の名誉毀損ペーパーをリーディングしたムール君が嫌な方向にメタモルフォーゼとかしてたら、俺はもうランナウェイするしかないYO。
(やばい、壊滅的にやばい。目の前の変態痴女との遭遇が簡単モードでしたって思えちゃうぐらいにやばい)
やばすぎて支離滅裂になった気もするが、気にしていられないぐらい俺の第六感が行く先に危険しか待ってないと訴えてきている。訴えてきているのに、逃げるという選択肢が存在しないのだ。
混ぜるな危険を敢えて行った結果が、次のお話?
次回、第百十話「悪夢」
大丈夫か主人公? ライフポイントは残っているか?