強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第十一話「取引」

「もちろん、これはあくまでオイラの推測だけどね」

 

 肩をすくめ少年は付け加えるが、充分有益な情報だった。

 

(オッサンの所に戻って尋ねてもこれ以上の情報は聞けなかっただろうし)

 

 少なくとも少年の「お力になれるかも」と言う言葉に嘘もなかった訳だ。

 

(だから……問題はこの後、だな)

 

 情報を提供してくれた、それはいい。だが、無償で提供してくれたのかも不明であり、変態娘がトロルと会話して情報を引き出した所を見ていたかも不明。そも、この少年の目的も不明なのだ。

 

「なるほどな。推測であろうと全く情報の無かったこちらとしてはありがたい。助かったと礼を言いたいところだが――」

 

「あ、それなら気にしなくて良いよ。うすうす察してるかなぁとも思ったけど……オイラ、お願いがあったから」

 

 ほら来た、と言うべきか。

 

「情報提供の一件で借もある。聞けるかどうかは内容にもよるが、話してみるがいい」

 

「いいの? じゃあ、失礼して――」

 

 俺が話しを向ければ拍子抜けでもしたかのようにきょとんとした少年は要望を口にする。

 

「オイラをさ、この洞窟の出口まで同行させて欲しいんだ。魔物もけっこう居るみたいだし、オイラ一人じゃたどり着けないからさ」

 

「それは他の同行者と一緒にでも構わんか?」

 

 少年のお願いに関してはシンプルであり、大した要求でもなかった。引き返し数人連れて最奥に向かうつもりだったのだ、一人同行者が増えたところで大差はない。

 

「あー、うん。連れてってくれってお願いする立場だからね。そこはあなたに従うよ。もちろん、そっちのお姉さんが魔物と話してたことも口外しない。そう言う条件でどうかな?」

 

「っ、やはり見ていたか……良いだろう」

 

 弱みを握られた時点で拒否権などないに等しい。要求を呑めば黙っているというなら文句もない。

 

「じゃあ、取引成立だね」

 

「そうだな。話も纏まったところでいったん戻るぞ? 同行者にお前のことを話す必要もあるし、ここに留まるのは危険だ。血の臭いに他の魔物が集まってくるやもしれん」

 

 褐色の巨人は出来るだけ傷の目立たないように仕留めたがそれでも刺殺となればいくらか血は流れる。すぐさま引き返すつもりのところをこの少年との予期せぬ遭遇で予定よりも長く留まってしまった。

 

(トロルの話しとこの少年の話からすると、魔物はそれなりに居ると見て良さそうだもんなぁ)

 

 こうしている間に血の臭いをかぎつけた新手がやってきても不思議はない。

 

「はぁい。戻るって言うと海水が流れ込んでるそっちの方だよね?」

 

「ああ、他に船で入り込める場所は無いらしいからな」

 

「あー、じゃあ、船で来たんだ」

 

「まぁな」

 

 魔物が居るであろう後背への警戒は緩めず、少年と言葉を交わしながら俺は来た道を引き返し。

 

「お前は……ムールか」

 

「あー、奥さんが村の人だって聞いてたからそうじゃないかと思ったけど……」

 

 やはり顔見知りだったらしい二人は対面を果たした。

 

「村の人間ってのは本当みたいだな」

 

「む? これは失礼した。こいつはムール。村長の孫に当たるのだが……一体今まで何処にいた? 探したのだぞ?」

 

 俺の呟きで我に返ったオッサンは、少年の事を紹介するなりその背を叩く。

 

「っ、痛ぁ。何もこんなに強く叩かなくても良いじゃんか」

 

「散々探したのだ、それぐらいで文句を言うな」

 

「ちぇっ」

 

 抗議したところでオッサンに鼻を鳴らされ舌打ちしつつも、心配してくれていたからこそ手が出たのは明らかだったからだろうか、少年はどこからはなしたものかなと漏らしつつも語り始めた。

 

「えーと、ここを出て父ちゃん達と船に乗ってたら嵐に巻き込まれてさ、樽に捕まってたら運良く通りかかった船に拾って貰えたんだけど、みんなとは離ればなれだし、乗せてくれた船の行き先が目的地と全く別方向。何とかアッサラームに辿り着いて、そこで旅支度をしてここに来たって訳。ここの鍵を持ってたのはオイラの父ちゃんだけど、どこに行ったかもわかんないからね、予備の鍵が要るんじゃないかって思ったんだ」

 

「予備の鍵だと?」

 

 オッサンにとっては衝撃の事実なのだろう。

 

「うん、不測の事態に備えて村の中とこの洞窟の途中一つずつに隠してあってさ、その存在と隠し場所は村長の家の人間にしか知らされてないってオイラは聞いてる」

 

 目を向いたオッサンへどことなく決まり悪そうに話した少年は「だからさ」と続けた。

 

「オイラは予備の鍵を取りに来たんだ。このまんまじゃ、いつか世界が平和になってみんなが村に戻ってこようとしても鍵がないし、どっちの鍵も場所を知ってるのはオイラだけだったから」

 

「出口まで連れて行け、と言ったのは」

 

「うん。予備の鍵で封印を解いて、村の中に隠してある方の鍵を取ってこようって思ったんだ……まぁ、想像以上に魔物が居てどうにもならなかったんだけど」

 

 そこに俺が通りかかった、と言うことなのだろう。

 

「話は解った。ならば鍵の隠し場所までの案内も頼めるな?」

 

 解錠呪文の使い手がいる以上、わざわざ鍵を探す必要はないのだが、今回の目的はオッサンの奥さんの亡骸を村に葬ることであり、村の再興ではない。

 

(村を再興することになったら、鍵は必要だし)

 

 場所を知る者が居るのも渡りに船、確保しておいた方が良いだろう。オリジナルが失われてしまったなら、予備から新たなスペアを作る必要もあるかも知れない。

 

「うん。ただ、隠し場所はちょっと寄り道になっちゃうけど」

 

「構わん」

 

 それでも良いかと問う少年の視線に俺は即答して見せた。

 

 




少年も合流し、明らかになる新事実。

そして、一行は洞窟へと挑む。

次回、第十二話「洞窟を奥へと」

あれ、トロワとクシナタ隊のお姉さん達が息してないような(存在感的な意味で)
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