強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百十四話「まずはあれだ、そうあれなんだ」

「さて」

 

 割と考え無しで行き当たりばったりな行動であった。だからこそ俺は物陰でムール君に背を向けて立つハメになっていた。

 

「このマントを羽織っていてくれ」

 

「あ、うん。ありがと」

 

 腐った僧侶少女に言われるがままにポーズをとらされていた状態で誘拐(かっさら)ってきたのだから、当然ムール君は普段着などではなかった。

 

透明化呪文(レムオル)が切れてようやくそこに気づくとか、結局俺もテンパってたってことかな)

 

 流石にその格好を宿の従業員には見られたくないだろうと思い、こうしてマントを貸すことと相成った訳だ。

 

(同じ盗賊で助かったよなぁ、その辺りは)

 

 装備品がシェア出来るという意味で。

 

(と言うか、装備可能って言えば、ムール君って男性専用装備と女性専用装備についてはどうなってるんだろう?)

 

 両方ついているって事はどっちも装備可能だったりするんだろうか。

 

(両方装備出来る……うん。それって つまり、いまわしい せんようそうび にてん を どっち も つけられる ということですよね?)

 

 なに その あくむ。

 

(まさかとは思うけど、割ってはいるのが遅かったら「じゃあ次はこれとこれをつけてみましょおかぁ?」とかあの腐った僧侶少女が言い出して、最悪の存在が誕生してたとか?)

 

 せくしーぎゃるるだけでも真っ当な女の子だったシャルロットがあんな事になってしまったのだ。

 

(せくしーぎゃる にして、むっつりすけべ の むーるくん とか……やばすぎる)

 

 例の紙切れの影響で、ちょっとだけ見たいとか思ったなんてことはない。

 

(やっぱり、あの僧侶少女とムール君は引き離さないとな)

 

 とりあえず、宿に戻ったら下着を渡し、その辺りについて諭し、説得しよう。

 

(しかし、本当に危ないところだった。ピンチピンチの連続で……ただ、こうやって全て切り抜けたと思ってる時が一番危険なんだよなぁ)

 

 ムール君がマントを羽織るのを待ちながら、俺は考える。忘れている事はないか。

 

(説明役はあの元女戦士を置いてきてある。差し入れすることなら踊り子さん達やスミレさんにも伝えておいたし、あの腐った僧侶少女が何か言ったとしても多分押さえ込める……筈)

 

 俺が知りうる限り、あの僧侶少女が自重した記憶はない。変な妄想を垂れ流したとしても、「いつものこと」で終了するだろう。

 

(それに、今更引き返すのもかえっておかしいし、連れ出した理由なら聞き込みだけでも充分)

 

 ムール君の秘密を知ってる面々、例えばカナメさんにはムール君用の下着を作ったのでその試着のためと説明すれば納得して貰えると思う。

 

「お待たせ」

 

「っ、もういいのか?」

 

 声に弾かれたように振り向くと、そこにはマントで首から下を隠したムール君の姿があり。

 

「うん。急に抜けて来ちゃったからあっちがどうなってるかも気になるし……」

 

「そうか。なら急いだ方が良さそうだな。トロワ、行くぞ」

 

「はい、マイ・ロード」

 

 物陰を出て、向かう先は荷物を置いてきた宿。

 

(そう言えば、宿は他のみんなと共通だったな……つまり、出向かなくてもあっちで修行してる人達は、そのうち宿に戻ってくる、と)

 

 結局の所、辿り着いた先も完全な安息の地にはなり得ないと言うことか。

 

「あ」

 

「どうしました、マイ・ロード?」

 

「いや、縛って仕置きをすると言ったまま放置してきてしまった僧侶が居たなと思ってな」

 

 そのまま延々放置するのは拙すぎる。

 

「結局の所もう一度格闘場に行くしかなさそうだ」

 

 忘れていることはないかと脳内確認していた矢先にこれだ。俺のピンチはまだ終わらないらしい。

 

「まぁ、どう仕置きするかという意味でもムールにはあの僧侶の言動について聞かなくてはいけない訳だが」

 

「あー。強引なところもあったもんね。話してくれたことについては、オイラ、恋愛とかそう言うの縁がなかったからちょっと新鮮だったんだけど」

 

「……とりあえず、その言葉を聞いただけで罪状が一つ追加だな」

 

「ふぇっ?」

 

 純粋培養されたような娘に何吹き込んでんだ、あの腐れ女子僧侶。

 

(いきなり、あたま を かかえたくなるような もんだい が はっせい したのですが)

 

 ムール君の立ち位置が特殊だからこそ、タチが悪い。

 

(ムール君には恋愛面での真っ当な教師が必要かも……)

 

 身体のこともあるから既に秘密を知っているか、もしくは口が堅くて真っ当な人物が出来れば好ましい、が。

 

(うーん、現状秘密を知っててまともというとカナメさんかトロワなんだけど……)

 

 トロワは酒を飲んだらまともでなくなる事が発覚しているし、カナメさんにはエピちゃんというカナメさんに思いを寄せるエビルマージが居る。

 

(カナメさんは駄目だな。エピちゃんが誤解して厄介なことになるのが目に見えてる)

 

 ならトロワはどうかとなると、こっちも怪しい。

 

(何らかのハプニングでお酒でも飲んでしまった日には――)

 

 旧トロワに恋の手ほどきをされたムール君なんて恐ろしい存在が誕生してしまうのだから。

 

(いや、それで済むかな?)

 

 トロワは俺の側に侍るという誓いを己に課している。つまり、旧トロワ化したトロワの側には俺もいるというシチュエーションの筈であり。

 

「では、ムール君。愛しい殿方と赤ちゃんを作る方法について実地でお教えしましょう。マイ・ロード、そう言うことですのでご協力お願いしますね? あ、何だったらムール君も混ざりますか?」

 

 とか言って服を脱ぎ出したって俺は驚かない。

 

(トロワがお酒を飲むという前提ありきだけど、これまで散々色々あったからなぁ)

 

 世界の悪意ならその程度の条件、あっさり揃えてくるに違いない。

 

(いっそのこと、シャルロットとアリアハンで会った時にあちらのパーティーに預けてしまう、とか? うーん、それもなぁ)

 

 良い案は出ない。悩みつつ道を歩けば、いつの間にか目的の宿屋が見え始めていた。

 

 




一難去ってまた一難、なのか?

次回、第百十五話「パンツ、パンツです」

次回、トロワの苦労(裁縫)がようやく報われる?
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