強くて挑戦者   作:闇谷 紅

131 / 248
第百十五話「パンツ、パンツです」

「このまま俺とトロワの部屋に行くぞ、渡したいものもある」

 

 ロビーを抜け、廊下を歩くのは俺とトロワ、そしてムール君の三人だけ。トロワが作ってくれたムール君専用下着を渡すには絶好の機会だった。

 

(秘密保持的な意味でもここで渡さなきゃ、何処で渡すんだって話になるし)

 

 ムール君一人を連れ出せたのは、結果オーライであったのかもしれない。

 

「質問は後で、だ。この宿には他の修行に来た知り合いも宿泊してるそうだからな」

 

 格闘場を効率よく使うために今の時間帯を寝て、真夜中、利用者が少ない時を狙って修行してる人も居るかも知れないのだから。

 

(トイレか何かの理由で部屋を出てきたそんな人が俺達の会話を聞いてしまうってケースは充分考えられるもんなぁ)

 

 無難に済むかと思った再会だって、あの腐った僧侶少女のせいで最悪の事態になりかけた。

 

(そっちの「お礼」は、普通にするタイミングが残ってるんだけどね……)

 

 どう罰するかという意味でも、ムール君にはあの腐少女が何をやらかしたかを語って貰う必要がある。

 

(一抹の不安は残るけど、あの僧侶少女の専門は同性同士だし、紙切れの影響で俺自身が変な反応をすることはない……筈)

 

 渡した品への着替えだって俺がトロワと外に出ているか、着替えの間だけ二人揃ってそっぽ向いてればいい。

 

「ついたぞ、トロワ」

 

「はい、マイ・ロード」

 

 考えつつ歩けば部屋に辿り着くまではそれ程かからず、こんな所で解錠呪文を使う訳にも行かない俺は鍵をもったトロワと場所を交代し。

 

「っ」

 

「……ヘイルさん?」

 

「いや、何でもない」

 

 すれ違う時トロワの何かを意識してしまったが、ムール君にまで紙切れの一件を知られては面倒なことになる。

 

(妙な誤解されてたもんなぁ)

 

 ムール君とて、元バニーさんと同じように俺に恩義を感じてるフシがある。

 

(忌まわしいあの本のページに引っ張られてしまうことを知られたら……)

 

 止そう、嫌な予感しかしない。

 

(と言うか、嫌な予感処かこれ以上考えたらまずロクでも無い光景を想像しそうだ)

 

 見えている地雷を踏みに行く程俺は馬鹿じゃない。

 

「お待たせしました、マイ・ロード」

 

「開いたか。ムール、先に行け。俺は最後で良い」

 

「えっ、あ、うん」

 

 流石にトロワの後ろ姿を見ると危険だからとは言えず、それでも何らかの理由があると思って貰えたのか、ムール君が続く形で開いたドアの向こうに消え。

 

「見られては居ない、か。よし」

 

 いかにも目撃されてないかを警戒していましたよと言ったポーズの言葉を吐いてから、俺も回れ右をして客室に踏み込んだ。

 

「トロワ、準備は出来ているか?」

 

「はい」

 

 最後に部屋へ入ってきた俺の問いに頷いたトロワがそれを出す。

 

「え゛っ」

 

「見てのと居り、パンツだ。トロワが自分の下着に使っていた技術が応用してあってな、激しい運動をしても負担がかからないようになっている。先日の奥義伝授の時問題点に気づいて作ってもらっていたものだ……受け取るといい」

 

「あー、そっか。オイラてっきり……」

 

 俺の説明に得心がいったのか、ムール君の顔は引きつったモノからほっとしたような表情に変わる。

 

(気にはなるけど、「てっきり……」の先は聞かない方が良いんだろうな)

 

 精神衛生的な意味でも。

 

「ともかく、お前の秘密が何処まで外に漏れているか不明だからな。人前で渡せるような品ではなかろう? 一応今回作ってもらったのは、奥義伝授時に俺とお前で使う二着だったのだが……両方ともお前に渡した方が良さそうだな」

 

「えっ」

 

「当然だろう? 修行して強くなっているようならこの下着を使って奥義も伝授するつもりだったが……それとも絵のモデルになると強くなれるのか?」

 

「そ、それは……」

 

「わかっている、どうせあの腐った僧侶が強引にモデルをやらせたのだろう。その分はきっちり落とし前を付けてくる。だが、あれに仕置きしたとしても浪費した時間は返って来ん……そして、先に言っておくが、これを理由にはぐれメタル風呂へ入ることは認めん」

 

「ヘイルさん……」

 

「勘違いするな。安易にあの変態施設に頼ればいいなんて馬鹿を量産せん為だ」

 

 紙切れの影響を受けてる俺としてもやばいし、ムール君が入るなら私もなんてトロワが変な気を起こさないためにも許可は出来なかった。

 

「それはそれとして……あの腐少女に何を吹き込まれた? まずはそこから話せ。それとも下着を先に着替えるか? 具合の悪い部分があるなら手直しが必要だからな。安心しろ、着替えの間は後ろを向いておく。それで気が済まんなら、俺とトロワでいったん部屋の外に出ていたっていい」

 

 どちらもこの部屋にいる内にやっておかないといけないことなのだ。

 

「あ、えっと……じゃあ、後ろを向いていて、貰える? 着替えながら、話すから……」

 

「そうか。トロワ、こっちに」

 

「はい、マイ・ロード」

 

 効率の面で言えば、ムール君の選択は一番理にかなっていた。俺は呼び寄せたトロワと共に背を向け、ムール君の話を聞く体勢を作り。

 

「それじゃ、オイラ達がイシスに来て、あの人と出会ったところから話すね?」

 

 ムール君は話し始めた。

 

 




あれ? ハプニングは?

次回、第百十六話「お仕置き出来て経験値的にはしょっぱく半永久的に機能するホイミスライム風呂ってのを考えてみたんだが」

タイトルが全てを語りすぎてる件。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。