強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百二十話「で、気が付いたらトロワと同じベッドで朝を迎えていたりするんですね?」

「ん……」

 

 まどろみつつもあともう少し寝ていたいと思う欲求がうっすら開いた俺の目を閉じさせようとする。

 

(あったかい……けど、なんで?)

 

 ベッドの中だから当然ではあるのだが、それだけでは説明のつかない温かさと柔らかさに疑問が浮かぶ。

 

(この だんりょく が あって、やわらかなもの は なんだろう?)

 

 枕はこんなに柔らかかっただろうか。そもそも位置もおかしい気がする。

 

(それに……)

 

 この柔らかなものを触るたび、何処かで声が上がる気がして。

 

(っ、まさか――)

 

 ふいに脳裏へ浮かんだ答えで眠気が一気に吹き飛ぶ。

 

(か、確認しないと)

 

 まだ降りていたいと主張する瞼をこじ開け、最初に飛び込んできたのは自分のモノではない肌の色、続いて脱ぎ捨てられた紫のナニカ。

 

「っ」

 

 やばい、とてつもなくやばい状況に思わず息を呑んだ。月並みな表現で言えば早鐘のように打ち鳴らされる鼓動を知覚しつつ、どんどん嫌な方向へ進む想像と現実の答え合わせは俺を絶望へと誘って行く。

 

(どうして……)

 

 どうして、こうなった。

 

(確か、昨日は疲れてさっさと寝てしまった、寝てしまってはいたけど)

 

 ベッドを間違わないようにするだけの分別はあったはず、なのに。

 

(何故トロワと――)

 

 同じベッドで寝てるんだと、思った瞬間。

 

「どうだ、ぼうず? わしのぱふぱふはいいだろう?」

 

 至近から、聞こえてはいけないオッサンの声がした。

 

「ま、マイ・ロードがお疲れのようでしたので、父にぱふぱふを……」

 

 固まったままの俺へ少し離れた場所からかけられる聞き覚えのある声を聞き。

 

(そっか)

 

 俺はそれが悪夢であると気づいた。トロワの父親、つまりアークマージであるおばちゃんの旦那さんはとっくの昔になくなっている。

 

「わっはっはっはっは。じゃあ、わしはこれで……どうか、娘を頼んだぞ」

 

 ぱふぱふしないと誘っておいて父親をあてがう何処かの偽踊り子みたいなことが出来るはずもないし、当人だってその父親みたいな事は言わないだろう。

 

(良かった、思ったより冷静で)

 

 冷静になれた理由は、柔らかな弾力の正体が故人というあり得ない事態であることに気づけたからだが、それに救われたとも言える。

 

(現実にあり得るシチュエーションだったら、間違いなく絶叫していたもんな、きっと)

 

 例えば、弾力の正体がうっかりついてきてしまった触手つき水色生き物(ホイミスライム)だった、とか。そして、トロワを起こしてしまい、叫んで飛び起きた理由を説明しないと行けないハメに陥る。

 

(そう言う意味でも何もなくて良かった……さて、起きなきゃ。今日はトロワへ世話になってるお礼に何か買いに行く日だった筈)

 

 何時までも惰眠を貪っている訳にはいかない。むにっとした柔らかなそれを押しやり、空間を作って身体の向きを変える。

 

「ん、んっ……ふぅ」

 

 そのまま腕を伸ばして伸びをすると一息ついてからベッドを這い出し。

 

「ん?」

 

 這い出して、ふと気づく。

 

(あるぇ? おれ って、なに を おしやったんですかねぇ?)

 

 妙にリアルな感触だとは思った。だが、夢だったと思ったのに。

 

(夢なら押しやれる筈もないし……ということは)

 

 振り返るのが、怖い。だから、まずは自分の身体を見た。

 

(大丈夫……着衣の乱れは普通に寝相とかで出来たシワとかぐらいしかない)

 

 これで何も装備していない状態だとか、下着オンリーだったら最悪の事態も覚悟しなければならなかっただろうが、それだけは防げたらしい。

 

(って、防げたらしいって何?)

 

 そもそも、俺は何かをやらかした覚えはない。

 

(ついでに言うなら、誰かが部屋に侵入して俺のベッドに潜り込んだなら、気配で気づいたはず)

 

 よって導き出される答えはただ一つ。

 

「睡眠性格改変用等身大トロワ人形『昨晩はお楽しみでしたね一号』だったと、そう言うことだな」

 

 わー、すごいや、とろわ。たったひとばん で かんせいさせて べっど に いれてくれるなんて。

 

「無理のない完璧な推理だ。だから、振り向いても大丈夫なはず……」

 

 自分に言い聞かせながら、俺は自分の寝ていたベッドに視線を戻し。

 

「え゛」

 

 思わず、固まった。

 

「……んんぅ」

 

 そこにいたのは、俺のベッドで身じろぎするムール君だったのだから。

 

(はい? なぜ に むーるくん が おれのべっど に いるのですか?)

 

 百歩譲ってトロワならまだ理解が出来る。同室なのだから。

 

(そもそも気配……まさか、俺に気取られないレベルまで盗賊としての腕を上げたとか?)

 

 昨日は精神的な疲労でへろへろ、コンディションはかなり酷かった。

 

(それで、知覚力まで下がってるところに腕を上げたムール君が忍び歩きで侵入してきたとしたら――)

 

 説明は、つく。

 

(いや、「説明は、つく」じゃないだろ!)

 

 そもそも、可能か不可能か以前に何故俺のベッドに潜り込む必要があるんですか。

 

(まさか、あの腐れ僧侶に何か吹き込まれた影響?)

 

 仮定してみると、あり得すぎて笑えない。

 

(確かに、昨日あの僧侶少女に課そうとした罰は手ぬるかったみたいだな)

 

 罰を強化してくれたという一点だけはスミレさん達に感謝しても良い。今ならそう思えた。

 

(ただ、問題は……)

 

 今俺のベッドで寝てるムール君をどうするか、この一点だけで俺の頭は痛くなった。

 




・その頃の勇者一行
サ ラ「怖い夢、ですの?」
シャル「うん。……お師匠様が男の人と同じベッドで寝てて」
サ ラ「へ?」


次回、第百二十一話「全力で無かったことにして行くスタイル」
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