強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百二十八話「付き合わされる買い物ってだいたい途中で帰りたくなる」

「お買いあげありがとうございます」

 

 取り出した金貨をカウンターに積めば、商人は笑顔を浮かべる。

 

「とりあえず、こんなモンだな」

 

「はい、ギストールさま。あの、ありがとうございます」

 

 あれからどれだけの店を回ったかと言う程店舗を巡った訳ではないが、下がったテンションを悟られぬようにしつつ礼の言葉を言うトロワに俺はたいしたことじゃねぇよと応じた。

 

(いや、アニスの方がいいのか。うっかり口をついて出ちまうかもしれねぇし)

 

 ボロを出にくくするなら口に出さない場合でも偽名を使った方が良いという結論に達し、胸中での呼び方も改める。

 

「で、だ。服も買ったし、いよいよ本題だな」

 

 今出たばかりの店から見れば近いのは宝飾店だ。このまま道なりに進むならお礼のアクセサリーを購入し、最後にトロワへ作ってもらうアイテムの素材購入及び消費した素材の買い足しという流れになると思う。

 

(最後に宝飾店に行って「今日付き合ってくれたお礼も兼ねて」って買ったモノ渡すと綺麗に纏まる気がするんだけどな)

 

 そう、デートの締めくくりとしては。

 

(って、何故デート?! あ、いや、確かに傍目から見るとそうなるか)

 

 俺としてはお礼と買い出し以上の意味はない。無いはずだ。

 

「変に意識しすぎてんのかもな」

 

「……ギストールさま?」

 

「あ、な、なんでもねぇよ」

 

 動揺しすぎたせいだろうか、声が出てしまい訝しんだアニスに頭を振って見せてから、前に向き直る。

 

(拙ぃな)

 

 このまま動揺し傷口を広げるのは避けるべきだろう。

 

「さて、と」

 

 俺は何事もなかったかのような態で視線を前方の宝飾店にやり。

 

「……なぁ、世話になった奴とか悪いことをしたなって思った奴にモノを贈るとしたら何が良いと思う?」

 

 徐に、問うた。

 

「え? ええと、贈るお相手は」

 

「あー、女だ、女。年は十六か十七。もう一人もそれにプラス一~二歳ってとこだな」

 

 返ってきた問いには、正直に答えた。こっちは意見を求める側だ、取り繕っても仕方ない。

 

(つーか、ここまで言えば聡いこいつのこったから相手はもうわかっちまうだろうけどなぁ)

 

 どのみち、いつかは判ることだ。アニスはシャルロット達と俺が会う時もついてくるだろうし、それ以前に詫びとお礼の品を買う時にもすぐ隣にいるだろうから。

 

(ま、せめてもの救いはあの二人組と鉢合わせする可能性がなさそうだってこったな)

 

 変装のために服を買うと言うならわかる。だからこそ、衣料品店なら鉢合わせの危険性はあったが、宝石と言えば高価だ。故にいくら変装のためとは言え、高価な品を求めようとするとは思えなかったのだ、変装の理由自体、群衆に紛れて俺を盗み見るためのものだったりしたのだから。

 

「あの」

 

「ん?」

 

「よろしければ、その贈り物、私に手を加えさせて頂いてもよろしいですか?」

 

「なっ」

 

 ただ、予想外だった。アニスがそんな申し出をするのは。

 

「……大丈夫なのか? ここのところ色々やってた上、未完成品もあるんだぜ?」

 

 この後宿に戻って俺の性格改変アイテム作成に取りかかってくれる訳だが、ムール君の下着だって作ってくれた。少し遡れば、地下墓地で使った元ベッドのトラップやあの地下墓地の浄化設備もアニスに頼って何とかして貰ったのだ。

 

「お前に倒れられたら俺が困る。作ってくれって頼んでるモンのことなんざさっ引いても、だ」

 

「……ギストールさま」

 

「つーわけで、その申し出についちゃ保留させてくれ。お前にも休息は要るだろうよ」

 

 幸いにもシャルロット達との再会は明日明後日という訳でもないのだから。

 

「ただ、手を加えるのに適してるアクセサリーとかそう言うのがあれば言ってくれよ?」

 

 その手の知識を得られれば、些少なりともトロワの助けになれるだろう。

 

「はい」

 

「おう、いい返事だ」

 

 これなら、安心してアドバイスを求められる。

 

(アクセサリーはシャルロット達の分もあるし、些少時間がかかっても構わねぇ)

 

 それに、素材屋の方は服の買い物の時程長くかかったりはしないと思う。

 

「じゃ、近い方から回るぜ。素材屋が後だ」

 

 思えば想定外なエンカウントで出鼻をくじかれた買い物も、終わりが見えてきた。

 

「はぁ、何処にもいないねぇ」

 

 ついでに前方から俺達と何度かニアミスした元女戦士っぽい人までこちらに歩いてきているが、そっちはスルーで良いだろう。

 

(変装、してるしな)

 

 今の俺は、あらくれ者、ギストール。

 

「それでも収穫はあった。この手の変装道具は持っておけば、きっといつか役に立つ」

 

 だから、元女戦士に少し遅れる形で続いてるスミレさんっぽい人も気にしない。

 

「ね、スー様」

 

 とか何の前触れもなくカマかけで同意を求めて来そうな怖さがあるけど、気にしないったら気にしない。

 

(ついでに近くの店の軒先に並んでる絵もスルーだ)

 

 たぶん、イシスを救った英雄達の絵、と言うことなのだろう。見覚え有る装備の見覚えある人達が書かれた絵やシャルロット、クシナタさん達の人形なんかが俺の視界に入った。

 

(なんか、俺の人形まであったような気もしたけど、きっと気のせいだよな)

 

 イシスでは大したことをしてないのだから。

 

「おっ、こいつは」

 

 なので、そこ の もとおんなせんし、おねがいだから あし を とめないで。

 

「おう、お客さん目が高いね。そいつはイシスを救った英雄、勇者シャルロット一行の――」

 

 てんいんさん も いいから。

 

(売り込まなくていいから! その人、二軍だけど、一応シャルロット一行のメンバーだから!) 

 

 大声でツッコめたらどれだけ良かったか。俺は横をすり抜ける、叫びたい衝動を堪えて。

 

「じゃあ、そいつを一個貰えるかい?」

 

「へぇ、お客さん通だね。この人は勇者シャルロットの師匠で――」

 

 だって、俺の像買ってるんだもん、あの元女戦士(ひと)

 




ところで、買った像、何に使う気何ですかね?

次回、第百二十九話「静かな戦いへの――」
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