強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百三十話「作業用BGMってモノによっては逆に妨害してくる気がする」

「毎度ありがとうございました。以後もごひいきに~」

 

 店主の声を背に受けながら、俺達は素材屋を後にする。

 

「必要なモノは手に入ったな」

 

「はい、ギストールさま」

 

 心なしかアニスの声が機嫌良さげに聞こえるのは、素材屋の品揃えが思いの外に良かったからか、それとも鎖を通して首に下げた指輪がもたらしたものか。

 

「しっかしなぁ」

 

 指に填めると目立つし、それは何かと聞かれるかも知れないというアニスの危惧は確かに一理あるとは思う、思うのだけれど、ゆびわ の いち が もろ に たにま なのは、いま の おれ には きつい。

 

「しかし?」

 

「いや、なんでもねぇよ。じゃ、さっさと戻っておっ始めようぜ?」

 

 作業を、俺からしてみれば己との戦いを。これも心の持ちよう一つだ。アニスが性格を変えるアイテムを完成させてくれれば、俺はあの紙切れの影響から解放される。このマスクもちょっとは効果があるような気はするが、あらくれ者ならたいてい被ってるありきたりの覆面なのだ。マスクを被ってなりきるってのには限界がある。むしろ、その限界を平気でぶっ千切る本やら装飾品が凄いのか。

 

「ま、それはそれとして……」

 

 唯一残されたのは、変装を解くタイミングだ。この格好で既に泊まっている宿に部屋を用意すると言う手もあるが、これは悪手だろう。

 

「お、あそこなら良いか。アニスあっち行くぞ?」

 

 端から見ると物影に女の子を誘うあらくれ者とか、目撃されたら衛兵さんこの人ですって言われかねない絵面かも知れないが、そこはちゃんとわきまえている。周辺の気配も探り、目撃者が居ないことを確認してから俺は誘ったのだから。

 

「どっかで変装はとらなきゃいけねぇしな」

 

「あ、そうでしたね」

 

 俺に言われてから気づいた態を見せるアニス、いやもうトロワで良いか。トロワの態度に俺は申し訳なさを感じた。きっと、既にアイテム作成のことを考え始めていたのだろう。だから、当たり前のことさえ失念していたのだ。

 

「ふぅ……とりあえず、変装に使ったモノは見つからないところに隠して保存しておけよ? また使う機会が来るかもしれんからな」

 

 覆面(マスク)をとるなりトロワに忠告すると、トロワに背を向け、ズボンも脱ぐ。スミレさん達に目撃されている以上、あらくれ者ギストールの痕跡を残して宿へ帰るのは拙い。

 

「よし、こっちの着替えは終わったぞ。そちらも終わったら言ってくれ」

 

「はい、マイ・ロード。あの、もう暫しお待ちを……」

 

「構わん。服の構造、着る枚数、色々考えたならそちらの方が手間がかかるのは当然だからな」

 

 そもそも、慌てて着替えて中途半端な格好や着替えが完全に終わっていない姿を見せられる方が、こっちとしては辛い。いつか、ロリコン疑惑をかけられた元の世界の友人だったら、役得と喜んだかも知れないけれど。

 

(と言うか、あいつのことを思い出すなんてホームシックってやつなのかなぁ)

 

 原作と比べるとあり得ない速度でバラモスとかも倒してるし、こっちに来てから一年どころか半年だって経っていないはずだ。早すぎると思う自分が居て、そういうモノに早い遅いなんて無いと思う自分も居る。

 

「マイ・ロード、お待たせしました」

 

「ああ。では、帰るか」

 

 脱いだモノを鞄に押し込み終えていた俺はトロワの報告に応じ。

 

「……帰ってきたな」

 

「はい」

 

 スミレさんもあの元女戦士も何処に行ったのやら、あれっきり再エンカウントすることなく、俺達は宿の前に辿り着いた。もちろん、これはありがたいことであり。

 

「これは、お帰りなさいませ」

 

「ああ。これから少し部屋に籠もる。夕食は時間を見てこっちで取りに行くから、呼ぶ必要はない。作業をするので、相応の理由がなければ部屋には来ないで貰いたいのだが」

 

「はいはい、分かっておりますとも、他の者にも伝えておきます。では、夕食はお二人分用意しておきますので、厨房の者にお言いつけ下さい」

 

「ああ、頼むぞ」

 

 微妙に誤解をされてる気もするが、ツッコめば更にややこしい事態になる気もするし、何より、紙切れの影響を受けたままの状況で居ることの方がやばい。俺は宿の従業員にあえて反論もせず、素材屋での戦利品を抱えたまま廊下を奥へと歩き出す。

 

「トロワ」

 

「はい」

 

「すまんが、頼むな」

 

「お任せ下さい」

 

 部屋のドアに辿り着くまでの短いやりとりを交わし。

 

「さて、買ってきたモノはここに置くぞ?」

 

 部屋に入れば荷物を置き、ベッドに腰掛け、考えるだけ。

 

「ふぅ」

 

 邪魔になってはいけないだからトロワから視線は外す。ゲームでない上、きっちり防音の施されている部屋の中は互いの息づかいや身じろぎの音さえ聞こえそうな程静かで。

 

(まずは、謝罪かな)

 

 脳裏に弟子の顔を浮かべ、再会時の反応を予想する。怒っているか、悲しんでいるか、それとも。

 

(どのパターンでも焦らず、受け答え出来ないと)

 

 失敗は出来ない。シャルロットに同行してゾーマと戦うことだけは出来ないのだ。だから、何とか説得する必要がある。ただ、既に逃げ出してしまっている分、難易度は上がっているだろう。

 

(鍵になるのは、トロワが買ってくれたこの人形か……)

 

 元バニーさん人形の胸から目を逸らしつつ、俺は自分の人形を手に取った。

 




今回は割とシリアスモードのつもり。

尚、新しく始めたお話しとちょっとリンクしております。

次回、第百三十一話「失ったものを取り戻す」
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