「さて」
目を閉じ、意識を外界と隔絶する。思い浮かべるべきは遠くない未来。
「お師匠様っ」
脳裏に浮かび上がった少女のことを俺は知っている。一緒に旅をした、一緒に戦った、そして、時には喜びを分かち合い、最終的に元から去った相手。勇者。
「……シャルロット」
あの日のままだった、当たり前だ。あれっきりシャルロットの姿は見ていないのだから。
「……お師匠様」
俺を見つめ
「知らせを聞いてから、この日を待ちわびていました」
「待て」
なぜ、けん を ぬく。
「お師匠様が姿を消してより、数日。鍛え、磨き抜いたボクの剣の腕、今こそ」
「ほう、良かろう」
そして、何故かイメージの俺までもが勝手にしゃべり、武器を構える。
「ならば……見せて貰うぞ、シャルロット。どれ程成長したかをな」
「望むところです。ですが、ボクが勝ったなら、お願いがあります」
「願い? それよりも俺に勝ったらとは大きく出たな」
いや、大きく出たとかそれ以前になんで戦う流れになってるんだと俺はツッコミたかった。だが、イメージの中の二人は俺を置いてきぼりにしてじりじりと距離を詰める。
「それだけの事はしてきましたから。それに……」
「それに?」
「ボクはもうあの時のボクじゃありませんっ!」
「なっ」
イメージの俺は驚いたが、俺も固まった。シャルロットは、叫ぶなり着ているモノを脱ぎ捨てたのだ。
「ふふ、お師匠様の弱点は把握済みです」
「い、いや、ちょっと待て、シャルロット。弱点とか、それ以前の問題と言うかだな?」
なぜ、ふく を ぬぐ。声に出せないイメージでない俺の叫びに答えるものは何処にも居らず。
「問答無よ」
イメージの俺の言い分を無視して裸のシャルロットが襲いかかってこようとしたところで、俺は気づいた。
(あの紙切れの影響かぁっ)
他に理由は思いつかない。
(イメージシミュレーション一回目でこれとか)
いや、いきなり戦いを挑んでくるところで既にツッコミどころはあったけど。
(真面目に、もっと真面目に考えよう)
常識的に考えるなら、そう。
「お師匠様、なんでボク達を置いていったんですか?」
最初に飛び出してくるのは、そう言った問いだろう。説明を書いた手紙は忍ばせた。だが、いくら理由を説明したって理屈は納得出来ても感情面で納得出来ないと言うことは充分考えられる。そもそも、納得していたならわざわざ俺を捜そうとはしないだろう。
(それはそれとして、まずはこの問いにどう答えるか、だな)
シャルロットがそう問うて来たなら、おそらく感情的になっているはず。説明は手紙でした、だなんて言い分ではおそらく納得してはくれない。手紙の内容をそのまま繰り返すのも多分NGだ。
「シャルロット……」
イメージの
「手紙のことはもう全部読んで知ってると見ていいな?」
うん、まず最初に口に上らせるのは確認だ。相手が何処まで把握してるかでこちらが話すべき事も変わる。無いとは思うが、あの手紙に気づいてなかったって展開だってひょっとしたらあるかもしれない。
「手紙?」
もし、シャルロットがそう首を傾げたならチャンスだ。例外的に手紙の内容を繰り返すだけで説得出来る可能性がある。
「読みました。けど……」
と、読んだ上で納得いっていないようなら、このパターンが一番あり得るのだろうけれど、感情的にも納得させる必要がある。必要があるが、これが存外難しい。俺がシャルロットに話せることは、限られている。ルビスが将来アレフガルドを襲う危機に備えて、お前をアレフガルドにお持ち帰りしようと企んでるなんてバラそうとすれば、あの誘拐犯はまず妨害してくるだろう。
(そもそも、神竜に勝って願いを叶えて貰うことだけは俺としても譲れない以上、ゾーマ討伐にはどうしても同行出来ない)
嘘でも真実でも別行動をこのまま認めて貰えなければ、シャルロットと一緒にアレフガルド隔離コース確定だ。
(考えろ、数日というとたっぷりあるようで過ぎ去るのは意外とあっという間、一日二日少ないつもりで見積もって、無駄にした分を取り戻さないと)
「読んだか」
と呟き、相手に質問させるのはどうか。
(駄目だ。答えられない問題が飛び出してきて詰む可能性が高い)
主導権はこちらが握って、伝えたいことを伝えて行く形が好ましい、と思う。
(うーん、となると鍵は神竜か)
願いを叶えて貰えるからという理由なら、内容次第で納得して貰える気はする。
(まぁ、内容次第ってとこも曲者なんだけど)
叶えて貰いたい願いの事を考えると、説得に使えるとは思えず。
(嘘をつく、しかないのかなぁ)
苦い、苦すぎるため息が漏れた。
(仮に騙し遂せても、嘘だと後で知ったら、シャルロットは俺を絶対許さないだろう)
同じ事は元バニーさんにも言える。
(そもそも卑怯なんだよ、叶えて欲しい願いの一つはさ)
本当の願いを口にしたら、シャルロットも元バニーさんもまずそんな願い事はどうだって良いからなんて言えない。だが、待っているであろう展開がロクでもなくてとても説得に使う気にはなれないのだ。
卑怯な願い事、とは?
次回、第百三十二話「気づけば朝はやって来る」