強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百三十三話「産声は」

「帰ろう」

 

 用を足し終え、トイレを出た俺は進行方向の気配には警戒しつつも来た道を引き返した。もし感じた気配の主がシャルロットに見えたとしても、先の一件を見た以上、騙されはしない。

 

(こういう時に限って本物のシャルロットが出てくるってオチが有りそうな気もするけど、きっと気のせいだよなぁ)

 

 アリアハンへの連絡ならついていると思うが、アレフガルドに赴きこっちに戻ってきた人間は殆ど居ない。居るとすれば勇者一行ぐらいなので、今こっちの世界に居ると限定した場合、勇者一行の連絡要員が居るか居ないかってレベルになる。

 

(アレフガルドに続いてるギアガの大穴のあるのもこの大陸だし、アリアハンへ行く前に中継地としてこのイシスを選んだとしてもおかしくはないけれどさ)

 流石に想定外の遭遇とかは勘弁して欲しい。説得の内容もだが、心の準備だって出来ていないのだ。更に言うなら、紙切れの影響を脱すため作ってもらってるアイテムの完成だって。

 

(いっそのこと、また荒くれ者になって情報を集めて来ようかな……いや、部屋に籠もってまずはアイテムの完成を待つべきか)

 

 一応正体を隠してくれる変装用の覆面は手に入れたが、声はそのままだし、変装して外出すると言う行動は何処かで正体のバレる危険性を内包している。堅実に考えるなら、引きこもるのがベストなのだ。

 

「やらなければならん事も残っているしな」

 

 アイテムが出来たら、まずムール君に奥義を伝授して、トロワを連れ出し、格闘場で修行させるかダーマに赴き転職して貰う必要もある。

 

「最終目的を考えれば、な」

 

 トロワはおそらく神竜との戦いにもついてくると言うだろう。なら、せめて巻き添えになって死なない程度の強さは身につける必要がある。

 

(回復呪文は僧侶、補助呪文は魔法使いが覚えるとなると、賢者になって貰うのがベストなんだけど……)

 

 ただ、それはあくまで俺が知りうる知識だけで考えた場合。

 

(アークマージが修行を得て強くなる、つまりレベルアップした場合、追加で呪文なり何なりを覚えるかってところが未知数だからなぁ)

 

 転職せずとも覚えられ呪文などが有るなら、そのまま修行させるという手もある。

 

(トロワ自身、知らない可能性もあるから様子見に修行させて、効果がないようなら転職と言ったところかな?)

 

 様子見修行の間に手の空いた者が居れば、賢者になるため必要な悟りの書を入手出来ないかと聞き、実現が不可能そうであったなら、修行の結果次第ではダーマに赴き、トロワが転職すると言うことになる。

 

「しかし、転職、か」

 

 以前、生け贄から遊び人になったせいでとんでもないトラブルメーカーになった人が居るのだが。

 

「いや、あれは職業養成所だか訓練所を経由した結果だ。同じ事になるとは思えん」

 

 綺麗なトロワがスミレさん二号になる悪夢なんて存在しなくて良い。

 

「マイ・ロード。その、新しい遊びを思いつきましたので、試させて頂いてよろしいでしょうか?」

 

 とか、遠慮と期待の混じった眼差しでこっちを見てくるけしからんバニーガールの幻想なんて見えない。

 

(そもそも、あの身体で遊び人とか色々反則でしょ)

 

 大きさは元バニーさん越えなのだ。紙切れの影響下に有る俺何てきっとひとたまりもない。

 

(じゃあ、性格変更アイテムが有れば別かって言うと、それもなぁ……)

 

 協力者にしてアイテム作成者のトロワは自分の作ったアイテムが無ければ、俺がどうなるかを知っている。天敵に生殺与奪を握られたようなものだ。

 

「って、あって欲しくないイメージ前提で考えてどうする」

 

 まだ二号になるとは決まっていないし、アークマージのまま修行させても意味がないなら、賢者には転職して貰わないといけないというのに。

 

「トロワが起きてからだ、全ては」

 

 一人でモヤモヤしていても仕方がない。気づけば、部屋の前近くまで来ていた俺は、ドアをノックし。

 

「はい……マイ・ロードですか?」

 

 中からの声でトロワがこちらの居ぬ間に目を覚ましたことを知った。

 

「ああ、入るぞ?」

 

 ドアを開けるのは、確認してから。実は着替え中だったなんて展開はい、ご免被りたい。

 

「どうぞ」

 

「よし、と」

 

 内からの許可を聞いてからドアを開け、中に入ればすぐさまドアを閉める。

 

「すまんな、よく寝てるようだったから用を足しに行」

 

「構いません。それよりも、マイ・ロード、これを」

 

 そのまま謝罪してから話を聞こうとした俺の言葉を珍しく遮り、トロワが差し出したのは、見覚えのある指輪。

 

「これは……」

 

「はくあいリングです。昨日、レプリカとはいえ外見のそっくりな指輪を見ましたから、あれを参考に再現してみました」

 

「あれから、か」

 

 外見だけ似せたレプリカだったはずだが、ひょっとしたら装飾にもオリジナルの指輪が持つ効果に何か影響を及ぼしていたのか。

 

(それより何より、たった半日で、しかも宿屋の一室で完成させちゃうとか……)

 

 どれだけの能力があれば、そんな事が出来るのか。

 

「ありがとう。……しかし」

 

 ゾーマからすれば酷い損失だろうなと思う。アリアハンの外で直接戦った時、トロワ謹製の袋を使っていたところを見るに、その才能については相応に評価していたと思うのだが。

 

(敵に回ったとなれば、奪回か始末ぐらい考えても良さそうな……あ)

 

 ひょっとして、トロワが俺の側を殆ど離れないのが、知らずの内にその手の工作を防いでいたのか。

 

(敵の気配が近寄ってこれば、まず俺が気づくからなぁ)

 

 現パーティーにはくわえて盗賊のムール君も居る。

 

「マイ・ロード?」

 

「いや、なんでもない」

 

 今は大丈夫だと思いつつも、トロワの護衛を用意しておくべきかなとも思う俺だった。

 




正式なサブタイトルは「産声は不安の中に」。完全ネタバレしそうなのでああなっていたのです。

次回、第百三十四話「夜が来る前に」

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