強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百三十四話「夜が来る前に」

「とりあえず、作業が終わったなら格闘場へ行くか?」

 

 受け取った指輪をはめ、顔を上げた俺はトロワへ問うた。

 

「格闘場、ですか?」

 

「そうだ。お前もこの先ついてくる気なら相応に強くなっておく必要はあるからな。もっとも、俺が知りうる修行法は人間用。アークマージのお前にも効果があるかが不明、と言うことを踏まえると、修行を始める前に『これこれこういう修行をするがお前にも効果がありそうか』と先に聞くことになりそうだがな」

 

「成る程」

 

 百聞は一見にしかず、実際修行してる誰かを見、その上で検討した方が良いと思ったと理由も添えて説明すれば、トロワはすんなり納得し。

 

「分かりました、では後ろを向いていて頂けますか? 戦闘用のローブに着替えますので」

 

「あ、ああ……」

 

 飛び出した発言に内心で驚きつつも、頷いてトロワへ背を向ける。戦闘用、と言うことは見た目が似た、別のローブを使い分けていたのか。

 

(まぁ、一着のローブを着っぱなしは流石に色々拙いもんなぁ)

 

 それが非売品の強力な防具となってくると予備もなく、冒険中はそんなこと気にしていられないのだが、だからこそ、町で何日かのんびり出来る現在、俺の着用していたやみのころもは物干しに引っかかって昨日は日光浴を楽しんでいた。

 

(連泊は貴重な洗濯の機会だもんなぁ)

 

 ちなみに、洗濯はムール君がやってくれました。最初はトロワが挙手したのだが、ここのところアイテム作成でお世話になっている上に更に洗濯までして貰う訳には行かず、かといって俺が洗濯すると誓いの関係でトロワまでついてきてしまう。

 

(もっとも、あの時はそれでも自分でやろうと思っていたんだけどね)

 

 クシナタ隊では洗濯当番とか一応決まっているらしいが、流石に嫁入り前の女性に俺の服は洗わせられない。自分の分は自分でやるかお店の人にいつもは任せていたのだが、俺がムール君に見つかったのは、前者。丁度他の洗濯物も纏めて抱えて洗いに行くところだった。

 

「だったらやらせて貰えない? オイラも一応盗賊だし、マントの扱いなら慣れてるから」

 

「スー様、お願いしては? ムール君も男性ですし、私達がスー様のお洋服を預かるのは色々と問題が有ります」 

 

 しかも、たまたまクシナタ隊のお姉さんが一緒にいて、善意で断るハードルを上げてくれる鬼畜仕様。男性じゃないんです、なんて言えなかった。

 

(だから、ふかこうりょく だと おもいたい)

 

 意地を張って拒絶すればムール君の秘密がバレかねない。それにいっぱいいっぱいだったんだ、、あの時は。

 

「マイ・ロード? 着替えは終わりましたよ?」

 

「ん? ああ、すまん。ちょっと洗濯物のことをな。まぁ、俺は戦わんし、防具が乾いていなくても問題は無いのだが」

 

 訝しげなトロワの声で我に返ると、弁解しつつ声の方へと向き直る。

 

「ふむ」

 

 トロワはいつものローブだった。違いが分からない。

 

「まぁ、いい。準備が終わったなら出発しよう」

 

「はい」

 

 気を取り直した俺にトロワが応え、俺達は部屋を後にする、そして――。

 

「やっほー、スー様。格闘場に行くの? あたしちゃん達も今行くとこ」

 

 宿の入り口でスミレさんと出会うのだった。

 

(って「出会うのだった」じゃねぇぇぇぇっ!)

 

 宿の入り口に人の気配がしていたことは分かっていたんだ。ただ、気配を察知出来る知覚力も万能じゃない。戦士と魔法使いみたいに装備の重量に顕著な差のある二者なら見分けられると思うが、スミレさんを他のクシナタ隊のお姉さんと察知しわけるのは難しい。

 

(一見するとただの服、だもんなぁ)

 

 重装備どころか、一般市民レベルの超軽装。だが、その服ですら追加装備なのだ。

 

(中身、神秘のビキニなんだよなぁ。バニーさんのおじさまが作った……)

 

 上に何か着ていると効果を発揮出来ないらしく、戦闘時は服を脱ぐという痴女まがいの戦闘準備が必要になるのだが、ここは町中。水着だけで歩き回る訳にもいかない。もちろん、紙切れの影響化にあった俺はそんなお姉さん達の常識有る行動に助けられた側なのだが。

 

(まぁ、何はともあれ、格闘場に行くなら遅かれ早かれ遭遇してた訳だし)

 

 割り切るしかないのだろう。例えこの先、元女戦士も待ち受けて居るんじゃなんて事に気づいたとしても、引き返す訳にはいかないのだから。

 

「……一応、な」

 

 間が開いた気はしたものの質問には答え。

 

「ふーん。じゃあ、あたしちゃんもごいっしょするね?」

 

 スミレさんは当然の如く同行宣言。まぁ、そうなるとはもう予測出来ていたんですけどね。

 

「夜が来る前に一定の成果は出さないとな……」

 

「スー様、まだ朝だけど?」

 

 分かってはいる、別にスミレさんにツッコまれなくたって、わかっては居た。ただ、小説みたいに一瞬で時間が経過してくれたらどんなに良いかと思ってしまって、そう、夢を見てしまったのだ、俺は。

 

「マイ・ロード?」

 

「あー、現実逃避入っちゃってる。 どうしたんだろ、スー様?」

 

「ふぅ……行くか」

 

 二人の声を遠く聞きつつ、よたよたと、俺は歩き出すのだった。

 




ヒャッハー! ビキニではぐれメタルと模擬戦だー!

次回、第百三十五話「楽園と見るかぢごくと見るか」

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