「ノートラップ、
胸の痛みを無視して俺は強引に足を振り抜いた、勝利のために。
「ピギィィーーーーッ」
「くふっ」
二匹目の
(おそらくトロワもレベルが上がるようなら上がっただろうし、最低でもこの修行法が有効かは判明したよな?)
とすれば、問題は後一つ。
「どうやって、外に出るか……だな」
経過時間を考えると、スミレさん達が外の廊下にいても何らおかしいところはない。それが、この部屋のすぐ外でなくてもドアを開けて出れば、透明化呪文を使ってもドアが開くところは目撃されてしまう。
(そうなれば当然、セルフ
隠蔽しようとしたことが明るみに出てしまう。
(とは言え、壁を破壊して隣の部屋から抜ける訳にはいかないし、この部屋には人が抜けられるような大きさの窓はない。まぁ、モンスター格闘場の魔物が立ち入るエリアに外界への脱出口なんてあったら逆に問題なんだけど)
こんな事に恨めしさを感じてしまうのは、余程追い込まれているからだろう。
「……他に方法もない、か」
「マイ・ロード……申し訳ありません、私のせいで」
「いや、そうじゃない」
嘆息する俺に責任を感じたのか、憮然としつつ頭を下げたトロワへ頭を振り、言葉を続ける。
「そうじゃない、修行をするのに両隣の部屋に迷惑がかかってはいけないと挨拶に行ってこの光景に出くわした……と言うことにするだけだ」
「えっ」
そう、俺は諦めた。ただし、元女戦士の存在を秘匿することだけを、だ。
「下手にまごついていても事態は悪化する。なら、取捨選択して一番被害の少ないモノをさっさと選ぶ、それしかあるまい。このまままごついていては、俺とお前が『最初からあの修行をしようとしていた』と受け取られても否定出来ない状況に追い込まれる」
「っ、それは――」
きれいなトロワならそこまで説明すれば大丈夫だろうと思ったが、案の定。俺の危惧が現実になればどうなるかに思い至ったらしい。
「そうですね、私一人なら部屋を間違えた私の罪ですが……」
俺にまで汚名は被せられないと、部屋を出ることに同意してくれ。
「なら、出るぞ? 幸いにも
今なら部屋を出ても咎める者は内に居ないし、
(……出来ればネームプレートも戻しておきたかったけど、流石に余裕はないからなぁ、よし)
気配を探りつつドアノブに手をかけ、捻る。
「あれ、スー様?」
「ああ、お前達か。戻ってきたようだな?」
そして、概ね予想通りの方向から聞こえてきた声にポーカーフェイスで応じた俺は、戻ってきたクシナタ隊のお姉さん達へ修行は始められそうか、と問うた。
「それは、大丈夫です。はぐれメタルは借りてきましたから」
「けど、何故スー様はそちらの部屋に?」
「いや、防音のようではあったが、万が一隣の部屋に迷惑がかかると拙いと思ってな。一言挨拶していたところだ。思わぬアクシデントはあったがな」
言いつつトロワを示したのは、服装の変化が俺達があの部屋にいたのと同様、隠しきれないと踏んだから。
「どうやらサイズが合っていなかったらしい。まぁ、模擬戦闘中に起こるよりは今の段階で不備に気づけたのは幸いだろう。そう言う訳で俺はトロワを連れて一度着替えに戻る。修行はそちらで先に初めておいてくれ」
「そう言うことなら、仕方ありませんね」
「いってらっしゃいませ、スー様、トロワさん」
下手に隠さなかったのが良かったのか、それとも俺の演技が巧妙だったのか。すんなり信用してくれたお姉さん達は、ペット用の籠を頑丈にしたようなモノを抱え、俺が出てきたドアの中へ入って行き。
「さて」
全員が部屋に消えたのを見届けてから部屋のネームプレートを元に戻す。
「これで良し……では戻るぞ、トロワ?」
「えっ? あ、はい」
呼びかけに応えたトロワを連れ、俺達は来た道を引き返し。
「さてと、アクシデントもあったが……どうだ、トロワ? ここでの修行で強くはなれそうか?」
歩きながら、俺の口から漏れたのは、そんな問い。他にも言いたいことはあったが、他お隣の挨拶とだけしか伝えてない他の面々も居ないからこそ、出来た質問でもある。
(元女戦士の変態行為に関わらなきゃこの時点では答えようがなかったかも知れない問いだしなぁ)
だが、修行をするかどうかを決める重要な問題でもある。効果がないとすれば別の方法を考えなければいけないし、修行の参加がただ時間の浪費で終わる可能性もあるのだから。
「……おそらくは。ただ、他の急成長していた方ほど急速に強くなるとは思えないというのが正直なところです」
「……そうか。むぅ」
少し考えてから漏らされた微妙な回答に俺は何とも言えない心境で唸ったのだった。
アークマージのモンスターレベルは43。
同じレベルの勇者一行もいくらかレベルが上がりにくくなる頃合いですよね?
次回、第百四十話「決断」