強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百四十一話「せいちょう」

 

「ただ、レベルを上げるだけだと言うのに平穏無事で終わらない一日だったな」

 

 俺はベッドの上に腰を下ろし宿に借りた部屋の壁を見ながら呟いた、なんて感じに小説の如く時間がスキップしてくれればどれだけ良かったことか。

 

「マイ・ロード、お待たせしました」

 

「ああ」

 

 着替えを終え、いつもの紫ローブ姿で現れたトロワへ頷くと、俺達は再びクシナタ隊のお姉さん達が居る部屋へと引き返す。

 

「あ、ヘイルさん」

 

「ムールか、どうした?」

 

 その途中、こちらを見つけて声をかけてきたムール君に問えば、ちょっとおトイレにと言う答えが返ってきて、短く、そうかと応じた。

 

(ムール君には一応ついてるもんなぁ)

 

 あれだけの数のビキニのお姉さん達に囲まれる経験なんて、きっとこちらに来て修行を始めた時が初めてだった筈。だったら、目のやり場に困るとか、居心地の悪さを感じてトイレに一時避難することにしたとしても無理はない。

 

(まぁ、俺は今からそこに向かうんだけどさ)

 

 最も、修行に加わったり修行シーンを見つめて居ないと駄目とかでは無いので、ムール君より条件は格段にマシだ。紙切れの影響が残っていたらそれでも危うかったかも知れないけれど、ただ。

 

「あ、スー様。ムール君見なかった?」

 

 ムール君とすれ違った後、まるでムール君を追いかけているかのように現れた女賢者(スミレさん)を見た時、俺は胸中でムール君に詫びた。ムール君は、ビキニのお姉さん達から逃げたのではなく、おそらくこいつから逃げたのだとようやく気づいたのだ。

 

(俺が居なかったから、ムール君をからかう標的にしたと言ったところかな……ごめん、ムール君)

 

 スミレさんからしてみれば、俺がトレーニングルームにいない状況でムール君は唯一の異性。そもそも、クシナタ隊は女性のみの集団であり、男性と接する機会は少ない。

 

(若い女の子達だしなぁ、そりゃ同年代の異性に興味はあるか)

 

 きっと俺が弄られたりからかわれる理由の一つもそこにあったのだろう。そう言う意味でムール君がいれば負担は半減するが、同時にムール君の秘密がバレると言うリスクも高くなる。

 

(ここはアリアハンに立ち寄った時、男性メンバーでも斡旋して貰うべき、かな? いや、新メンバーが加わり、男部屋に割り振られる人が増えたら――)

 

 拙いことになる。男部屋にもかかわらずトロワという反則レベルのスタイルをした異性が同じ部屋にいる上、ムール君もついてはいるがベースは女性と言って差し障りない。

 

(どう考えても問題が発生するよなぁ)

 

 ムール君の身体に関しては当人が強くなって、俺とは別のパーティーを組んだ上で神竜を倒し、願い事として完全な男か女の身体にして貰わない限り、どうしようもないし。

 

(そも、叶えられる願い事は一行につき三つだったし、数を増やすには袂を分かつことが不可欠)

 

 だが、これが難しい。分かたれた方は勇者一行と見なされなくなるので、おそらくは今までのようには蘇生呪文が効かなくなる。戦闘中の蘇生は原作の魔物もやってたのでおそらく可能だろうが。

 

(まぁ、シャルロットの親父さんかサイモンさん、クシナタさんのいずれかを抱き込めば解決する問題だけどさ)

 

 勇者一行が四つになれば、叶えられる願い事の数も増える。まぁ、一組はゾーマを倒しに行かないといけないので、俺としては多くて九つだと考えてはいるものの、原作の三倍と考えれば充分破格だ。

 

(ただし、勇者一行単位ってのもあくまで俺の想定だから、なんにしても一度神竜にあって確認する必要が有る訳で……)

 

 結局、やることはほぼ変わらない。まず、神竜の元にたどり着けるだけの戦力を一パーティー分だけでも確保しないといけないのだから。

 

「ふむ……」

 

「あの、マイ・ロード着きましたよ?」

 

「あ、ああ。すまん。では、修行を再開するとするか」

 

 考え事をしていると時間は飛ぶように流れると言うことか。我に返り謝罪しつつドアノブに手をかけると、はいと短い肯定の答えが返ってきて、俺はそのままドアノブを回した。

 

「行ったよ、そっち」

 

「あっ、うん」

 

「きゃああっ、何処触ってるの?!」

 

 そして、あけた どあ の むこう は びきにぱらだいす でした。

 

(まあ、おれ に とって は ぢごく ですけどね)

 

 縦横無尽に駆け回る発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)、弾む白いビキニに包まれた水色生き物(スライム)の亜種。

 

(肌色生き物とでも命名しようか)

 

 クシナタ隊の女の子達の声やら悲鳴やらが響く中、こりゃムール君も席を外すわと心の何処かで思いつつ俺はここではない遠い何処かへ視線を投げた。

 

「ミナ、また大きくなったんじゃない? トロワさんの程じゃないけどミナのビキニもちょっとパッツンパッツンだよ?」

 

「そ、そ、そんなこと有りません! それを言うなら――」

 

 うん、助けられた命が本来無かった明日を生きていられるのには感慨深げだけどさ。

 

(君達、異性がログインしてることを理解しようか?)

 

 おおきなのは いいこと かも しれない、だけど、それ は おれ が のぞんだのとは べつ の せいちょう じゃないですかね と つっこみたくなった。

 

「まぁ、仲が良いのは良いことだがな」

 

 もちろん、セクハラもどきな言動を口にする訳にも行かず、口から出たのは割と常識的な呟きであったものの。

 

「えっ、あ、スー様……今の聞いて」

 

「ミナっ、ちょっとはぐれメタルそっちに」

 

「ええっ?! あ、待っ、きゃあぁぁぁ」

 

 俺は忘れていたらしい。戦ってる最中の人達に声をかけると言うのが、どういう惨事をもたらすか。

 

「すまん」

 

 謝罪しつつも俺が割って入れば、修行の効率が落ちる。

 

「……トロワ、二人のフォローに回れるか?」

 

 だから、俺は横を見て問い。

 

「はい、マイ・ロード。仰せのままに。ミナヅキ様方、加勢致しますっ」

 

 頷いたトロワは、発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)の体当たりを受け尻餅をついた女の子と発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)の間に割り込んだ。

 

 




いやー、クシナタ隊のお姉さん達も着々と成長しているようです。

闇谷も文才が成長して欲しい今日この頃。あと、根気も。

次回、第百四十二話「てれれれてってってー」

コンビニで某コラボ唐揚げ買った時、あのファンファーレに驚いたっけ。

あ、その時貰ったロトの唐揚げピック、未開封で一本所持してます。

勿体なくて使えなかった。
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