強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第十四話「そしてしれっと何もなかったように」

 

「すまん、遅くなった」

 

 合流するなりまず詫びたのは、時間経過を思えば仕方ない。

 

(まぁ、それだけでもないんだけどさ)

 

 自ら動き、目立つことで急に色あせボロボロになった服のムール少年に目がいかないようにする必要もあったのだ。

 

(とりあえず、トロワには壁になって視線をなるべく通さないように言っておいたものの……うーむ、やっぱり防具が心許ないとか適当な理由をでっち上げて着替えさせた方が良かったかなぁ)

 

 いや、服を脱げとか言った日にはまた妙な誤解をされたか。

 

(って、悩んでても仕方ないよね。この洞窟は元々自然のものだった部分が殆どで薄暗いし)

 

 訪れる者が居ない洞窟に明かりを用意する必要もない。住み着いてる魔物の中に暗闇では周囲が見えない魔物がいれば自発的にたいまつななんなりを壁に設置していたかも知れないが、少なくとも俺がトロル達を倒した辺りまではそんなモノは皆無だった。

 

(だから、あの暗さがムール君の服を誤魔化してくれると信じよう)

 

 魔物は脅威と言い難く、案内人も居る。気になることがあるとすれば一つだけだ。

 

「所で、妻を亡骸を故郷に葬りたいと言うことだったが……」

 

「うむ、その通りだが?」

 

 こちらの確認にオッサンが頷くのを見てから、俺はムールの方を向く。

 

「ムール、村の墓地は死体が魔物と化して徘徊しているかもしれないのだったな?」

 

 そう、葬る場所が既にアンデッドモンスターの巣窟になってるのはいろんな意味で拙いと思ったのだ。

 

「あー、うん。やっぱ、そう思うよね? けど、大丈夫。この人の奥さんってことはたぶん地下墓地じゃないから。地下墓地を昔から使ってたんだけど、村の中に地下じゃなくて村を見渡せる場所で眠りたいって人が出てくるようになってさ、お墓は二つあったから」

 

「ほう」

 

「うむ。昔の慣習に拘る者は地下墓地に納められる事を望む者も居たが、墓地に納めきれる死者にも限界がある。以前、納める空間が無くて拡張し、地下洞窟と繋がってしまい慌てて埋め直したことがあったらしい」

 

 ならば、崩落で洞窟と繋がったのは、その埋め直した部分か。

 

「まぁ、地下は嫌だよね。じめじめしてるし、暗いし。オイラも眠るならあの丘の墓地の方が良いもん」

 

「……そうか、まぁそうだな」

 

 しきりに頷いている元死人の言葉には妙な実感がこもっていたのはきっと仕方ない。

 

「何にしても、それを聞いて安心した。目的地までの同行と魔物退治では大違いだからな」

 

 やろうと思えば可能だが、相手の何割かが動く腐乱死体となると精神的にきついのだ。

 

(見た目がリアルというか現実だしなぁ)

 

 加えてゲームと違って匂いもある。

 

「今のところ、この先で二体程魔物を倒している。褐色の肌をした巨人で通路の幅を考えると迂回も厳しかったのでな。死体が見つかって騒ぎになっている可能性もあるが、今更引き返す訳にもいくまい? トロワ、こっちに」

 

「はい、マイ・ロード」

 

「ふ、これでいい」

 

「え」

 

 側に来いと言われたことが嬉しかったのか、声を弾ませ変態娘が近寄ってくると、俺はすかさずトロワのバックを取る。

 

(そのまま胸を押しつけて来るつもりだったのだろうが、そうはいかないっ)

 

 今は人目があるのだ。もちろん、人目が無ければ役得とも思っていない。

 

「この状態に道案内のムールを加えて俺達が先行する。騒ぎが起きていた場合は死体で道がふさがるかもしれんが」

 

「力仕事ならお任せ頂こう」

 

「そうか、すまんな。では行こう」

 

 心得たとばかりに頷いたオッサンに俺も頷きを返すとクシナタ隊のお姉さん達に呼びかけ。

 

「「はい」」

 

 重なる声を背に、歩き出す。

 

(さてと、とりあえず出発出来たのは良いけど、下手したら見つかってるよなぁ、あの死体)

 

 一体目の死体が二体目に見つかるまでの時間を鑑みれば居て当然くらいに思うべきだろう。

 

(むしろ、プラスαがあるぐらいの想定をしておくべきか)

 

 想定外の展開なんてしょっちゅうなのだから。

 

(遭遇したのが地下墓地の魔物ではなくトロルだったことからすると、あの辺りはトロルの縄張りというか勢力範囲なんだろうな)

 

 トロワと話が通じていた事からすると、褐色巨人達はバラモスの支配下の魔物なのだろうが、話を聞く限り地下墓地の魔物は自然発生。

 

(俺が殺したトロルを探しに他のトロルが地下墓地に近づいて魔物同士の殺し合いが発生、結果として魔物の動きが活発化する、とか……ま、そんなことある訳無いか。つぶし合いしてくれるならこっちとしてはラッキーだし)

 

 プラスαのケースにはほど遠い。

 

「あの、マイ・ロード」

 

「どうした、トロワ?」

 

 そうして考え事をしていたからだろうか、声をかけられ、応じてしまったのは。

 

「気づかなくて申し訳ありませんでした。マイ・ロードは胸よりお尻の方が好きだったんですね?」

 

「は?」

 

「後ろからお尻の感触を楽しむのが好きだとか、もっと早く気づいていればマイロードを煩わせることなんてありませんでしたのに。さ、マイ・ロード、存分に――」

 

 ほんとう に、おれ は なんで きいて しまった の だろうか。

 

「……ムール、揉んで欲しいらしいぞ? 揉んでやれ」

 

「え゛」

 

 頭を鷲掴みにしてギリギリ締め付けたい欲求を抑え込みつつ、出来るだけ平静な声で言えば、少年がこっちを見た状態で固まる。

 

(流石にみんなの前でOSIOKIする訳にもいかないしなぁ)

 

 いくら変態娘とて知り合って間もない異性に尻を揉まれるのは嫌だろう。

 

(これに懲りて変態行動が減ってくれると良いけど)

 

 むりだろうなぁと心の何処かで諦めてしまう自分がいるぐらいに、俺の中でトロワは変態だった。

 

 




相変わらず平常運転のトロワ。

そんなトロワへの新たな処し方を模索する主人公。

そして、主人公の無茶振りにムールは――。

次回、第十五話「まぁ、そうなるな」

予測可能回避不能って良くあることだと思うのです。
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