「スー様大胆。先に女の子をお風呂に入らせておいて、後から自分も入ろうとか……あたしちゃん、びっくり」
ただ、欲しかった説明をスミレさんの感想という形で知覚した時、俺は思い知らされる。
(というか、なんてこと を いったんだ、おれ は)
もちろん、トロワとお風呂をご一緒するつもりなど全くない。入浴と言うことはおそらく指輪も外すだろうから、そんな状況でトロワと裸の付き合いをして、理性を保っていられるか。おそらく不可能だろう。
(紙切れの影響、残ってるだろうしなぁ)
指輪によって俺を苛んでいたえっちな紙切れの効果が上書きされたのは良いが、上書きされているからこそ本当に効果が切れたのか、指輪の効果で押さえ込まれているのかが分からなくなってしまった。一応宿に戻ってトイレにでも入った時に確認してみるつもりではいるが、そんなことはどうでもいい。
(何とかしないと……混浴する気なんて全くないのに)
このままでは俺が社会的に死ぬ。
「そんな訳ないだろ。疲れているだろうから先に寝られるように風呂の順番を譲っただけだ」
「そっかー、先にスー様のベッドで寝るのかー」
「違ぁぁぁぁう!」
弁解すればスミレさんが洒落にならないことを言い出し、俺は叫んだ。
(どうして、こうなった?)
理由は解っている、俺が軽率でロクでもないとらえ方が出来る言葉を口にしてしまったのが原因であることは。
「ま……マイ・ロード?」
「あ、ああ。すまんな。大丈夫だ」
自分の名が上がって混乱したのだろうか、それとも。いずれにしても同室のトロワとぎくしゃくするのはよろしくなく。
「ともかく――」
「スー様、ここに居ると聞いて来たのだけど……」
再度弁解しようとした時だった。カールした黒髪を揺らし一人の女賢者が開いたドアから顔を半分覗かせたのは。
「カナ……メ?」
「取り込み中だったかしら?」
そう言えばダーマへ転職に行っていたんだっけと思い出せば、数日ぶりに顔を合わせたカナメさんは賢者の出で立ちで首を傾げ。地獄に仏とはまさにこのことか。
「いや、キリの良いところで切り上げて宿に戻る予定だったのだが、丁度良い。ダーマの近況も聞きたいし、部屋に来てくれ」
カナメさんが部屋にいてくれれば変なことをしなかったという証人が出来るし、ダーマのことが聞きたいというのも嘘ではない、何より。
(不自然じゃなく話題を変えられた……)
これは大きい。
「それから、幾つか相談したいことがある」
と小声でカナメさんにだけ囁くと俺は周囲を見回した。
「ふむ、これなら丁度良いな」
たぶん、俺のポカ発言でクシナタ隊のお姉さん達の手が止まったのだろう。伸びた
「トロワ、帰るぞ?」
「あ、はい」
「カナメも来てくれ。情報次第では明日の予定を変更せねばならんかもしれんしな。情報は出来るだけ早く手に入れておきたい」
もちろんこれは方便。トロワと一緒に宿へ帰るところからずっと見て貰い、変なことはしていないと証明して貰うという目的が俺にはある。一時誤解が生じたとしても、カナメさんが証言してくれれば疑いは晴れる。
(いつまでも世界の悪意に踊らされてる訳にはいかないし)
トロワは俺の願いを聞いて指輪を作ってくれた。クシナタ隊のお姉さん達は例外もいるものの、ハードな
(なら、俺は? やるべき事はないのか?)
答えは、否。シャルロットの説得に、神竜との戦いを前提にした作戦立案、神竜へ到る原作で言うところの隠しダンジョンだって今覚えている部分だけでも忘れないうちに構造を羊皮紙か何かに記しておくべきだろう。更にさいごのかぎの確保とアレフガルドでのみ手に入る強力な武器防具を入手するための手配。
(人の協力が不可欠なモノはいつ協力して貰っても良いように準備を終わらせておく、重要だよな)
例えば武器防具の手配なら、必要とされる品を割り出すため神竜へ挑む時のパーティー編成を決め、いつでも注文出来るようにしておく必要がある。
(つまり、神竜との戦いを前提にした作戦立案を終わらせておくべきで――)
もし、シャルロット達に武器の手配を頼むなら、再会する日までに神竜戦の編成と作戦は決めておかなければならない。
(優先順位を付けるなら、一がシャルロットの説得内容のまとめ上げで二が神竜と戦う際の編成と作戦決め。欲しい武器防具のリストアップは編成と作戦が決まれば、ついでに決まるだろうし)
一はともかく二を煮詰めるならカナメさんにも意見を聞いた方が良い。
(ただ、なんだろうなぁ、何か忘れてるような気が……)
漠然とした不安を感じた俺は、徐に足を止めた。杞憂であってくれればいいが、さっきやらかしたばかりなのだ、油断は大敵。
「ふむ」
腕を組み記憶を掘り返しつつ俺は記憶を掘り返し、再び歩き始めた。
次回、第百四十五話「夜会話には早すぎて」