強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百四十五話「夜会話には早すぎて」

「お帰りなさいませ」

 

 宿の店主に迎え入れられる宿のロビーを窓から微かに見える斜陽が染める。一息つけば夕食時か、良い時間帯に戻ってこられたと思う。

 

「ああ、今戻った。夕飯の用意は出来ているか?」

 

「はい。先に食事になさいますか?」

 

「いや、別の部屋の仲間と話がしたくてな。そちらの都合も聞かねばならんのでまだ何とも言えん」

 

「そうでしたか、失礼しました」

 

 こちらの質問へ即座に応じ逆に問うてきた宿の主人に頭を振ってみせれば先方は頭を下げ。

 

「謝る程の事ではない。少し待て」

 

 確認をとる相手(カナメさん)はすぐ後ろにいる。

 

「夕食の用意が出来ているらしいが、どうする?」

 

「そうね……スー様達はどうかしら、お腹空いてる?」

 

 話を向ければ首を傾げたカナメさんは俺とトロワに聞き。

 

「トロワはどうだ?」

 

 自分のことは答えず俺はトロワに尋ねた。

 

(本日一番ハードだったのはトロワだろうしなぁ)

 

 俺はただ考えていただけ。一応、発泡型つぶれ灰色生き物(はぐれメタル)を蹴飛ばすぐらいはしたが、それぐらいだ。

 

「マイ・ロード?」

 

「修行で動いて腹が減っているやもと思ってな」

 

「そ、そん」

 

 肩をすくめて視線に応えれば、トロワは何かを言いかけ。

 

「「っ」」

 

 お約束と言うべきか、突如ホテルのロビーに誰かのお腹の虫が吼えた。ベタ過ぎる。

 

「い、今のは……」

 

「申し訳ありません。私です」

 

 視界の中でトロワが首を巡らせれば、白状したのは、宿屋の店主。

 

「……まぁ、それはそれとして、どうするか決めんと、後の予定に差し障る」

 

「そ、そうでしたね。では――」

 

 夕飯にしましょうとトロワが言ってくれたことで、話は進んだ。

 

「では、こちらの者が食堂へご案内します」

 

「どうぞこちらへ」

 

「ああ」

 

 店主の示した従業員に促され、歩き出し、コの字を書くように二度曲がった先のドアの前で従業員は立ち止まり。

 

「こちらが食堂となっております。お好きな席にてお待ち下さい、係の者が参ります」

 

「世話をかけた。さて――」

 

 通された先にはチラホラ宿泊客の姿があった。ただし、クシナタ隊のお姉さん達の姿は殆どなく。

 

(ま、それもそうか。いの一番に格闘場を抜けて来ちゃったもんなぁ)

 

 状況が状況だったとは言え、お姉さん達は帰る前に残ったメンバーだけで後片づけをせざるを得なかったと思うと若干心が痛む。

 

(とりあえず、トロワがお酒を飲む事だけはなんとしても防いで……)

 

 訪れる明日に備えたい。疑惑を払拭し、雑念に煩わされず、やるべき事を。

 

「まずは、カナメと会う前後の経緯について話そう。明らかに俺のミスであり、恥をさらすことになるが――」

 

 カナメさんとはそれなりに長い付き合いだし、結構残念なところも見せてる。だからこそ、話せることは話しておいた方が良い。

 

(もちろん、人に聞かれたら拙いことは部屋まで口の端に乗せず、ね)

 

 無関係とは言え、他のお客もいる。だから、ぼかして大まかに伝え。

 

「なんと言うか……いかにもスー様らしいわね」

 

「面目ない」

 

 苦笑するカナメさんに俺は軽く頭を下げた。

 

「話はだいたい理解したわ。第三者が居た上できっちり否定すれば誤解の連鎖も止まるでしょうし」

 

「恩に着る」

 

「礼には及ばないわよ。スー様には助けて貰った恩があって、みんなその恩を返し切れたと思ってないはずだから」

 

「……そう言うモノか? いや、お前は疑っていないが」

 

 すみれさん とか いっつも おれ で あそんでるんですけど。

 

「あの子は職業訓練所で少々影響を受けすぎただけ。ついでに言うと元々肝心なところで感情表現というか自分の気持ちを伝えるのが苦手なところがあったから」

 

 口元に笑みを浮かべつつ頭を振った俺がぼそりと漏らし、すぐに失言であった事に慌てる中、カナメさんは言う、いつかわかるわ、と。

 

「ふむ」

 

 他ならぬ同郷のカナメさんが口にすること、まして今のカナメさんは誤解を解くのに協力してくれてる恩人でもある。疑いは、すまい。

 

「ともあれ、これ以上の会話はここでは拙いな」

 

 続きは部屋でしようと会話を切り上げると、俺は残っていた料理を平らげ、トロワとカナメさんが食べ終わるのを待って席を立つ。

 

「さて、部屋に戻」

 

「あ、居た居た。こっちにいたんだ」

 

「あ」

 

 そして、そのまま食堂を出ようとしたところで俺は再会した。

 

(そっか、何か忘れてると思ったら……ムール君忘れてた。……ごめん)

 

 流石にいくら何でもこれはないわと思った俺は、胸中で声を出さず謝り。

 

「ここに来たということは、食事か?」

 

「うん。それもあるけど、部屋の鍵ヘイルさんが持ってるからさ」

 

「っ、それは済まなかったな」

 

「ううん、結局会えた訳だし」

 

 今からご飯だからさと続けた、ムール君に俺はそうかと呟く。

 

「部屋の鍵は開けておく」

 

「うん、よろしくね。それじゃ」

 

「ああ、またな」

 

 そして、挨拶を交わし去ろうとした瞬間だった。

 

「はうー、お腹減っ……す、スー様?」

 

「あ、スー様。ただいまー」

 

 俺が遅れて戻ってきたクシナタ隊のお姉さん達と再会したのは。

 

(そりゃ、ムール君が戻ってきてたんだから、そうなるわな)

 

 若干ズレもあるが、その辺りは更衣室の位置が違うからだろう。

 

「ああ、お帰り。それから、お先に、か。またな?」

 

「ええっ、スー様?」

 

 流石にこれ以上部屋に、戻るのが遅れるのは拙い。俺は挨拶もそこそこその場から逃げ出したのだった。

 

 

 




次回、第百四十六話「何から話そう」
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